元BCG代表・堀紘一氏が、元ホンダ副社長から教えられた「本当のコンサルティング」とは?

写真提供:共同通信社
元BCG代表 堀紘一氏(写真左)と元ホンダ副社長 入交昭一郎氏(写真右)

 年々、規模が拡大しているコンサルティング市場。戦略立案を手がける伝統的な外資系コンサルファームに加え、総合系・会計系、国内系、さらにはベンダー系まで、コンサル業界は百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相だ。一方で、コンサルの質や使う側の姿勢が問われ始めている。本連載では、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の元代表・堀紘一氏と元同社のコンサルタント・津田久資氏が、コンサルティングのあるべき姿を考察した『本物のコンサルを選ぶ技術』(堀紘一、津田久資著/クロスメディア・パブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。失敗しないコンサルの選び方と付き合い方を解説する。

 第1回は、コンサルタントと企業のミスマッチが起きてしまう要因を探る。

<連載ラインアップ>
■第1回 元BCG代表・堀紘一氏が、元ホンダ副社長から教えられた「本当のコンサルティング」とは?(本稿)
第2回 食事の誘いを断るコンサルタントには、なぜ気を付けた方がいいのか?
■第3回 ホンダ、ソニー、第一生命…コンサルティングを生かして躍進した企業の共通点とは?(11月27日公開)
■第4回 会社のレベルは会議に表れる…コンサルタントから見た、仕事を「しやすい会社」「しにくい会社」とは?(12月4日公開)

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コンサルタントを雇う側の問題点とは?

本物のコンサルを選ぶ技術』(クロスメディア・パブリッシング)

 ここまで、コンサルタントの問題点をいくつか指摘してきた。しかし、ミスマッチが生じるのはコンサルタントだけの問題ではない。雇う側の企業の問題も大いにあると考えている。

 それは「コンサルタントの俗化現象」と大いに関係していると思う。「とりあえずコンサルタントに依頼すれば何とかなる」という安易な風潮があるように感じるのは、私だけではないはずだ。

 本来、コンサルタントを雇うからには、会社としての目的や目標が明確に存在していなければならない

 売り上げを伸ばしてシェアを拡大し、他社との競争に勝ちたいということなのか、業務改善をして経営体質を強めたいのか、研究開発を中心に企業の企画開発力を高めたいのか。あるいはいま流行りのDXの構築を睨んで、全社的なシステムを導入したいということもあるだろう。

 会社としての目的や目標が明確になって初めて、どんなコンサルティング会社にどんな依頼をするかがはっきり見えてくる。

 外資系の戦略コンサルティング会社がいい場合もあれば、総合系のコンサルティング会社に依頼すべき場合もあるだろう。極端な話、堀紘一をIT系のコンサルとして雇っても全く意味がない。

 聞いた話だが、あるコンサルタントが頼まれて経営者に会ったところ、開口一番に「あなたを雇うと、こちらにとってどんなメリットがあるの?」と聞かれて閉口したそうだ。

 コンサルタントは企業の依頼と目的に応えるべく、コンサルを行うものだ。コンサルタントにその目的を聞くのは、本末転倒も甚だしい。

 明確な方向性や目的もなく、とにかくコンサルタントに頼めば、何か会社にプラスになるのではないかという安易な受け身の姿勢でコンサルタントを雇う。

 要は、自分の頭で考えることができていない。だからコンサルの言うことを無批判に受け入れてしまう。ちょっとした経営理論などを振りかざすと、優秀なコンサルだと勘違いして、盲目的に信じ込んでしまうのだ。

 その結果、経営や企業業績が改善されるどころか、かえって悪化してしまうということになる。

昔の企業の方が「考える力」を持っていた

 その点では、むしろ私たちの若い頃の企業の方が、独自に考える姿勢が強かったように思う。

 ただし、これもコンサルタントにとってみれば良し悪しだ。当時、私のような若いコンサルタントが行くと、「お前のような若造に俺たちの会社の何がわかる!」という拒絶や抵抗にあうことが当たり前だった。

 たとえばホンダのコンサルを担当したとき、当時の副社長である入交昭一郎さんと夜中の12時過ぎまで白熱した議論になった。

 お互いのテンションが上がってしまい、入交さんが「堀さんに機械工学の何がわかる?」と言うから、「はっきり言えば何もわかりません。ただ、そういう入交さんは経営の何がわかるんですか?」と返した。

 もはやけんか腰だったけれど、深夜2時を回ったくらいになると、すっかり言いたいことを言い尽くして、今度は大いに意気投合し出した。

「経営がわからない俺と、機械工学がわからない堀さんが、一緒になって議論していくって、たぶん人類の歴史でも初めてなんじゃないか?」と入交さんが言って、一緒に解決策を探っていこうとなったのだ。

 お互いに自分の世界があって、それぞれに矜持を持っていたから、ぶつかるときは激しくぶつかる。けれど、それを通り越すと、今度は強い連帯感や絆のようなものが生まれる。

 決して私が経営理論を一方的に押しつけたわけでもなければ、向こうが一方的に自分たちのやり方を主張したわけでもない。一緒に同じ方向を向いて解決策を探っていくという共同作業になったのだ。

 本当のコンサルティングとはまさにそういうことだということを、私は入交さんと侃々諤々とやり合う中で教えてもらったと考えている。

 どうも昨今の企業を見ていると、そこまでコンサルタントと向き合う気概のある人物は少ないように感じる

 それは雇う側の企業の方に、しっかりとした考えがない、自ら考える力が欠如しているということのあらわれでもあると思う。

コンサルの言うことを受け入れる体制ができていない

 いくらコンサルタントが素晴らしい解決策を提示しても、企業側が受け入れなければ絵に描いた餅で終わる

 コンサルとしての答案をどうまとめるか? 最終的な結論を提示する大事な瞬間だが、私自身が経験値を積む中で見出した方法がある。

 たとえば、課題解決の方法としてベストだと考えた案を「A案」としよう。ただし、これを実行するにはかなりの企業努力が必要になるし、痛みを伴う。

 そこで私は、これなら絶対に企業側が受け入れてくれるだろうという安全策の「C案」を作る。改革とはいえないような内容だから、じつに物足りない。そこでA案とC案の中間くらいの「B案」を作る(下図参照)

 コンサルティングも大詰めに近づくと、私はこのA、B、Cの3案を考えておく。それで本番のプレゼン前に、それとなく担当者に探りを入れる。

 すると「堀さん、とてもじゃないがA案は常務会を通らないよ」と言われる。そこで私は仕方なく、「ではB案でどうでしょうか?」と提案する。「確かにA案よりは実現性は高いが、それでも社内を通すのは難しいね」となる。

 結局、コンサルタントとしては妥協案であるC案が通る。私から言わせると、こんな程度ならコンサルなど雇う必要はないじゃないかとさえ思う。

 ただし驚くなかれ、私の経験上、このC案で落ち着くのが全体の8割から9割なのだ。

 若くて理想に燃えたコンサルタントだと、「それではコンサルタントとして納得できません」などと突っ張って、企業側とモメてしまうこともある。だが、ベテランになると、もはやそれも与件として受け入れるようになるのだ。

 コンサルタントとしての理想は理想。ただし企業の現実は現実であり、その企業に再度呼んでもらえるコンサルタントが、最終的には生き残っていく。

 とはいえ、本来コンサルタントを雇う決断をした企業であれば、もう少しコンサルタントの意見を受け入れる体制を作ってほしいというのも、正直な実感だ。

 私の経験上、A案を受け入れてくれた企業は成功している。それが先ほどのホンダであり、ソニーという当時の成長企業である。

 安易にコンサルタントに依頼するわりには、いざ真剣にコンサルタントが向き合い、本気の提案をすると、それはできないとビビってしまう。そういう企業がじつは多いのではないかと考えている。その結果、コンサルタントを頼んでも成果が思ったように出ない。

 ならば、わざわざコンサルタントを雇う必要などないのに…。昨今のコンサルタントブームと陰で起きているミスマッチの現状に、そんなことをふと考えてしまう。

<連載ラインアップ>
■第1回 元BCG代表・堀紘一氏が、元ホンダ副社長から教えられた「本当のコンサルティング」とは?(本稿)
第2回 食事の誘いを断るコンサルタントには、なぜ気を付けた方がいいのか?
■第3回 ホンダ、ソニー、第一生命…コンサルティングを生かして躍進した企業の共通点とは?(11月27日公開)
■第4回 会社のレベルは会議に表れる…コンサルタントから見た、仕事を「しやすい会社」「しにくい会社」とは?(12月4日公開)

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