社会のDXを支援する富士通は、なぜ全社DX「フジトラ」において従業員とカルチャーの変革を重視するのか

写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 近年、人的資本経営の考え方が浸透してきているように、各企業において、「ヒト」という資本に対する価値が見直され始めている。企業価値向上にもつながる従業員エクスペリエンス(EX: Employee Experience)とは何か。本連載では『EX従業員エクスペリエンス 会社への求心力を強くする人事戦略』(加藤守和・土橋 隼人著/日本能率協会マネジメントセンター)から、内容の一部を抜粋・再編集。企業経営においてEXを高めていくことの必要性を考える。

 第5回は、12万4000人超の従業員を抱える国内ITサービス大手・富士通のEX施策をクローズアップする。顧客企業のDX支援にもつながる自社DXプロジェクトと、ジョブ型人事制度を両輪とした従業員のキャリア形成施策を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 高報酬だから人材が集まるわけではない、「ヒト」の資本価値を見極める難しさとは?
第2回 社員誰もが会社に対し自由に声を上げられる、メルカリの独自施策「オープンドア」とは?
第3回 社員が異動希望先に“応募”する、パーソルグループの「キャリアチャレンジ」が組織を強くする理由
第4回 コロナ禍前から場所や時間に縛られない働き方を実践、ユニリーバ・ジャパンが目指すEXとは?
■第5回 社会のDXを支援する富士通は、なぜ全社DX「フジトラ」において従業員とカルチャーの変革を重視するのか(本稿) 
■第6回 全社員の声で組織を動かす、富士通の「VOICEプログラム」が変えた従業員の働き方とは?(10月8日公開)

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EX向上のための3大テーマの推進
富士通

EX従業員エクスペリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター)

■ パーパス経営実現の柱となるEX

 革新的な技術力に裏打ちされた広範囲なテクノロジー・サービス、ソリューション、製品の提供を通じて、顧客のDXを支援する富士通株式会社(以下、富士通)。国内ITサービスでシェアNo.1、グローバルでのシェアも上位にある同社の従業員数は12万4000人を超えています(2024年時点)。

 パーパスドリブン経営を推進する富士通では「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパス(存在意義)を具現化するために、従業員1人ひとりが日々の仕事に自律的に取り組めるよう、働きやすさやモチベーションの向上に資する施策をさまざまに打ち出しています。

 その1つが、2020年にスタートした全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」です。

「フジトラ」は顧客や社会のDXをサポートするには富士通自身のDXが必要であり、その取り組みで得た成果・知見・ノウハウ・人材を顧客へのサービスに反映させようとの思いが込められています。

 そしてこの活動は、12万4000人超の従業員の行動とカルチャーの変革を促すことも意図しています。そこで、日々の仕事を通してDXを基点とする変革活動に取り組みやすいよう、以下の4つの領域を設定しています。

  • EX(Employee Transformation):人・組織・カルチャーの変革
  • OX(Operation Transformation):オペレーションの変革
  • MX(Management Transformation):マネジメントの変革
  • CX(Customer Transformation):事業の変革

 また、社内変革を促す「フジトラ」と同時期にジョブ型人事制度を導入し、人と組織の改革のスピード化を図りました。パーパスの実現にはイノベーションが必須であり、イノベーションを生むのは従業員です。

 富士通の未来を担う従業員1人ひとりが自律的に活躍できる場を提供する具体策の1つがジョブ型人事制度であり、従業員が活躍できる場を整備し支援する姿勢を明示するものが同社におけるEX(従業員エクスペリエンス)と捉えることができます。EXはパーパス経営を実現する柱となる施策といえるでしょう。

 経営課題として位置付けられる富士通のEXへの取り組みは、大きく以下の3点に特徴が見られます。

  • キャリアオーナーシップの推進
  • 「選ばれる組織」への挑戦
  • 従業員の声(VoE:Voice of Employee)の収集と反映

■ キャリアオーナーシップの推進

 先ほど触れた同社が導入したジョブ型人事制度では、以下に示すようなことが展開されています。

  • ビジョン・戦略に基づく組織や職務デザインの実行。
  • 従業員1人ひとりの職務内容について、期待する貢献や責任範囲を示した「Job Description(職務記述書)」の作成。
  • 職責の高さを表すグループグローバル共通の仕組み「FUJITSU Level」を導入。レベルに応じた報酬水準とすることで、社内公募制度と併せて、より高い職責へのチャレンジを促進。
  • グローバル共通の評価制度「Connect」により、社会・顧客へのインパクト・行動・成長を評価。

 これらの施策が機能するには、従業員がキャリアオーナーシップを持つことが必要です。従来の会社主導の配置転換や昇格から一転し、ジョブ型人事制度を導入したことで会社と従業員が対等な関係に変わりました。対等な関係であるということは、従業員の自律性が尊重されるということでもあります。

 それに応えるように、ジョブの社内公募や自主的に他部署への異動の申し出が行えるポスティングを大幅に拡大しました。その結果、2020~2022年の3年間でおよそ2万人が応募、うち7500人が異動を果たしました。

 なお、調査の結果、ポスティング制度で異動した従業員のエンゲージメントが向上していることがわかっています。

■「選ばれる組織」への挑戦

 従業員の自律的なキャリア形成が進むことで、各部門は従業員から「選ばれる組織」になることがより強く求められるようになります。

 そこで、共感を生む組織ビジョンを検討するために、本部長など組織の長が集まって相互にフィードバックを行う「ビジョンピッチ」が開催されています。パーパスは専門チームにより策定されますが、そのパーパスに基づく経営を実現するためのビジョンは組織ごとに設定されるということに、同社の自律を尊重する姿勢がうかがえます。

「ビジョンピッチ」では、各組織長が組織ビジョンを語り、他の組織長や外部のコンサルタント会社などのアドバイスも受けながら、より共感を引き出せる内容に磨いていきます。そのプロセスを経たうえで、本部長は実際に従業員に対してビジョンを語ります。

 その際は、普段の5割増しの熱量で、本部長自身が何を実現したいのか、実現に向けた障壁やその障壁をどうやって乗り越えるかを伝えるように推奨されているそうです。この後に行われた従業員調査では、ビジョンに共感できている人ほどエンゲージメントのスコアが高いということがわかっています。

 また、富士通では多様な働き方を実現するうえで従業員1人ひとりが何に価値を置き、どんな問題や課題を抱いているのかを把握するために、1on1をうまく活用している様子がうかがえます。

 EXの高い職場とはどのようなものかと考えると、そこで働く個々人への適時適切なフォローがとても重要な要素になっています。そのために有効な施策の1つが1on1です。

 同社では、月1回以上の1on1推奨キャンペーンを全社的に実施しており、定期的に行われる実施率の確認によると、その実績は7割を超えるとのことです。

 実施回数だけでなく、“質”の向上を図る施策も行われています。

 例えば、マネジャー層と社員のアンケートの分析から優れたマネージャーの特性を科学的に導き出すプロジェクト「FMD(Fujitsu Management Discovery)」から得られた知見が部下の自律性を引き出すコーチング型マネジメントに反映されています。理論と実践を通じて、1on1を行う上司自身も優れたマネージャーへの成長が期待できます。

 また、1on1のクラウドツールを導入し、日常的に1on1ミーティングができる仕組みを構築しています。ユニークなところでは、1on1の意義や実施上の疑問などの理解促進を図る「ワン・オン・ワン!!劇場」という4コマ漫画を配信しています。

 エンゲージメント調査を分析すると、1on1の実施頻度や有益度とエンゲージメントのスコアに相関が見られました。特に、有益度の低い1on1を体験した従業員は、実施していない従業員よりもエンゲージメントが低いスコアにあることがわかりました。

 そこで、1on1の改善点を直属上司だけではなく、直属上司の上司にもフィードバックする取り組みを行いました。その結果、直属上司に対するコーチングがなされるようになり、部下と直属上司双方のエンゲージメントのスコアが向上したそうです。

<連載ラインアップ>
第1回 高報酬だから人材が集まるわけではない、「ヒト」の資本価値を見極める難しさとは?
第2回 社員誰もが会社に対し自由に声を上げられる、メルカリの独自施策「オープンドア」とは?
第3回 社員が異動希望先に“応募”する、パーソルグループの「キャリアチャレンジ」が組織を強くする理由
第4回 コロナ禍前から場所や時間に縛られない働き方を実践、ユニリーバ・ジャパンが目指すEXとは?
■第5回 社会のDXを支援する富士通は、なぜ全社DX「フジトラ」において従業員とカルチャーの変革を重視するのか(本稿) 
■第6回 全社員の声で組織を動かす、富士通の「VOICEプログラム」が変えた従業員の働き方とは?(10月8日公開)

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