BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?

写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

10年後に勝ち残るEC戦略』(プチ・レトル)

 BtoCはもちろん、BtoBにおいてもEC(電子商取引)が当たり前となり、流通や小売を介さない「DtoC(Direct to Consumer)」メーカーの台頭も著しい現在。もはや「EC化」なくして将来を展望することはできない。一方で、会社の仕組みや商習慣、企業文化といった要因により、EC化できていない企業もいまだに多数存在する。

 本連載では、元アマゾンジャパン創業メンバーの林部健二氏が現実的な視点からEC構築のポイントを説いた『10年後に勝ち残るEC戦略』(林部健二著/プチ・レトル発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第4回は、BtoBのEC市場の現状と一般的なECとの違いを明らかにする。

<連載ラインアップ>
第1回 『SPY×FAMILY』が大ヒット、集英社の電子コミックサービス「少年ジャンプ+」は、なぜ人気なのか?
第2回 クラリオン、日立マクセル…日立製作所はなぜ黒字の優良企業・事業を売却したのか?
第3回 メルカリはなぜ「アマゾン一強時代」に終止符を打つことができたのか?
■第4回 BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?(本稿)
第5回 なんとなくオンライン販売を開始、そこそこ成功した企業がよくぶつかってしまう「課題」とは?
第6回 1億円かかるECのシステム開発…予算はどこから・どう捻出すべきか?

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BtoBにおけるECの現状

 ここからはBtoB企業のECについてお話ししていきます。BtoB企業のECと聞いても、いまいち何のことかわからないという人も多いかもしれませんが、まずは経済産業省のデータを見てみましょう。

 BtoBにおけるEC市場規模は、コロナ禍の2020年に一度下がりましたが、それ以外は着実に増加しています。2022年の市場規模は420兆2354億円で、同年のBtoCのEC市場規模が22兆7449億円なのと比較すると、約18.5倍。実はBtoBのほうがEC市場規模が大きいことがわかります。ちなみに、EC化率は37.5%で、実に4割近い商取引がEC化されています。

 これほどまでに大きな市場規模を持っているにもかかわらず、BtoBのECと聞いてもピンとこない人が多いのはなぜでしょうか。それは、日本のBtoBのECのほとんどがEDI(Electronic Data Interchange = 電子データ交換)取引のことを指しているからです。

 EDI取引とは、商取引における発注書・納品書・請求書などの書類を電子化し、データでやり取りをする取引のことです。紙ベースで書類を作成し、電話、FAX、郵送などでやり取りをする場合、手作業でデータ入力をするため誤入力も多く非効率です。そこで、1970年代になると、企業間でデータをやり取りできるEDIが開発されました。

 EDIのシステムは、目に見えないところで自動でデータがやり取りされているようなものです。たとえばネジなどの部品は、色や形がそれぞれ型番で管理され、独自のシステムで「型番73311A、500円を3ピース」といった情報を入力して受発注が行われます。

 わたしたちが「EC」と聞いてパッと思い浮かべるもの――商品画像や商品説明の載ったビジュアル的なページがあり、クレジットカードをはじめオンラインで決済ができる――とは、かなり実態が異なります。しかし、「商取引が電子化している」という観点から、経済産業省は便宜上、EDIをECと定義しているのです。

 ECとEDIが性質上まったく異なるのは、ECは顧客に販売することを目的とし、EDIは企業の受発注・物流・会計業務の仕組みを効率化することを目的としているところです。

 ECサイトでは顧客にアピールするため、商品の写真イメージ、商品名、商品の特徴や魅力を伝える商品説明文などを載せるのが一般的ですが、EDIにはこうした「売るためのデータ」は不要です。

 たとえば、物流システムでは型番と個数がわかればよく、会計システムではそれらに加えて金額がわかれば十分です。いずれも、商品名や商品の写真イメージなどなくても何の問題もありません。

 日本では、イオンやトヨタ自動車などの大企業が個別にEDIを導入したのが始まりです。イオンもトヨタも、商品や部品を仕入れる取引先が多く、日々の受発注・物流・会計業務を一つ一つ手作業で行うのはたいへん手間になります。そこで、自社でルールを決めてデータで受発注をしようと試み、個別EDIが生まれたのです。

「個別」というのは、各企業が自分たちの会社のルールに合わせてEDIのシステムを作っている、ということです。そのため、たとえばイオンの取引先である食品メーカーは、イオンと取引を継続するために、イオンの個別EDIに合わせてデータの変換作業をする必要があります。

 買い手側である大企業(イオン)が主導権を握っているため、売り手側(食品メーカー)は取引先企業が複数ある場合、それぞれの相手に合わせて対応しなければならず、大きな負担があります。また、個別EDIは、それぞれの企業の商慣習に基づいた開発が行われるため汎用性に乏しいといった課題もありました。

 個別EDIが抱えたこれらの課題に対しては、1980年代に入ると各業界ごとにEDIの標準化に向けた動きが活発化し、その後EDIはどんどん進化をしていくことになります。ただ、その変遷についての説明は、ここでは割愛させていただきます。

 さて、ここまでの内容を踏まえると、BtoBにおけるEC市場規模が大きいのも、EC化率が4割近いのも、大企業を中心にEDIを導入しているからだということがわかります。

 それゆえ、金額ベースではEC市場規模が大きくなるのですが、「EDIをはじめとしたデジタルでの取引を日常的に行っている企業の数がどれだけあるか」となると、やはり一部の業界や大手企業に限られているのが実態です。中小企業の多くは(業界によっては大手企業でさえ)、今でもFAX、電話、メールを使って受発注対応を行い、デジタル化とは縁遠い業務をくり返しています。

 では、どうすれば「デジタルで取引を行う企業の数」を増やすことができるのか。そう考えたとき、比較的低コストで簡単に導入しやすいのがECやWebEDIです

 WebEDIは、簡単にいうと「BtoBのための受発注用EC」のようなものです。その仕組みは一般的なECサイトに近く、インターネットにアクセスする環境さえあれば、ウェブブラウザからアマゾンの専用画面にログインが可能です。そして、画面上で「アマゾンから〇〇の商品△個の注文が入っている」というメッセージを確認することができ、それに対して受注処理を行います。

 先述のとおり、EDIはコンピュータ同士が自動で電子データをやり取りするものです。しかし、WebEDIは管理画面を通して、人間が一つ一つ注文を確認して対応します。普通のECサイトを使用するように直感的に操作できるのです。

 ちなみに、中小企業がEDIを導入するのは、あまり適切ではありません。先ほど例に出したイオンやトヨタ自動車のように、EDIが向いているのは「①取引件数・取引金額が多い」かつ「②定型品の取り扱いが多い」企業です。

 ①に関しては、せっかく金額と日数を費やしてシステム開発をしても、取引件数や取引金額が多くなければ割に合いません。②の「定型品」とは、規格が決まっている製品のことです。イオンが取引をするような食品、衣類、雑貨などは、完成された製品が先に存在し、そのラインナップから発注します。「この商品をいくつ注文」というように、発注作業がシンプルなのでEDIで効率化するのに向いているのです。

 しかし、BtoBの場合は「非定型品」を扱っている企業も多いでしょう。顧客の状況や要望を聞いて見積りを用意してから、製品の製作やサービスの提供を開始するというパターンです。この場合は、顧客とのやり取りが発生するため、ただ「欲しい製品の型番を入力して発注する」というEDIの仕組みには不向きなのです。

 つまり、今後BtoB企業の多くがデジタル化を進めるにあたっては、EDIではなくECやWebEDIを導入するのが最適なのです。

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