急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?

写真提供:共同通信社

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか? 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 第1回は、快進撃を続けるグミ市場の伸びを分析。一方で右肩下がりとなっているガム市場をはじめ、競合するさまざまな商品がグミ市場から受けている影響について探る。

<連載ラインアップ>
■第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?(本稿)
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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2021年にグミ市場がガム市場を逆転!

グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

 2023年は、菓子業界にとってエポックメイクな年になった。明治が2023年3月にガム市場からの撤退を表明したからだ。口寂しいときに食べたくなるお菓子の代表格、ガムとグミ。コロナ禍前の市場規模は、ガムがグミを大きく上回っていたが、2021年に逆転した。ガムが先細りする中、グミ市場は快進撃を続けている。

■ 消費者ニーズとギャップが広がった? ガム 

 明治がガムの主力ブランド「キシリッシュ(XYLISH)」シリーズと「プチガム」の販売を2023年3月末で終了した。「社会環境の変化により、ガムの価値と消費者のニーズとのギャップが大きくなった」(明治)というのが理由。同社はキシリトール配合商品の老舗(しにせ)格だったが、ロッテの主力商品「キシリトールガム」が強い市場で埋没。また、ガム市場が長期低落傾向にあることがこの決断につながった。

 キシリッシュは、虫歯予防に効果があるとされる「キシリトール」を日本で初めて配合した商品として話題と人気を集めた。発売20周年を迎えた2017年には、「イキがいいのだ」キャンペーンと題してロックバンド「キュウソネコカミ」にコラボレーション楽曲を依頼し、動画コミュニティ「Mix Channel(現ミクチャ)」で募集した動画を基にしたミュージックビデオを配信して盛り上げた。 

 ただ、25周年を迎えた2022年は特段のキャンペーンをすることはなく、翌2023年3月で販売を終了した。売り上げのピークは2007年だった。一方で、明治はキシリッシュのブランド名をグミに転用し、「キシリッシュグミ」を2023年4月に発売した。

■ グミ市場、2022年は前年比23%増

 東京都内のとあるコンビニエンスストア。棚で最も目立つ目線の位置にはグミ、その下にはタブレット(錠菓)がずらり。ガムは最下段にある。POSデータを駆使するコンビニの棚は、商品の浮き沈みをシビアに反映する(人気のグミでも一部の韓国製グミなどは売れ行きが悪く、店の隅っこで割引シールが貼られ、見切りの対象になっているのもご存じの通りだ)

 調査会社インテージ提供の市場規模データによると、2017年のチューインガム市場は823億円、グミ市場は555億円と約270億円の差があったが、ガム市場は2018年767億円、2019年741億円、2020年612億円と縮小の一途。一方のグミは2018年606億円、2019年619億円と拡大し、新型コロナウイルス感染拡大初年の2020年こそ569億円と前年割れしたものの、2021年は635億円と拡大し、同年593億円に縮小したガムを逆転した。 

 2022年のグミは前年比23%増の781億円と躍進し、548億円のガムに約230億円超の差をつけてリードした。わずか5年で、市場規模が逆転して立ち位置が入れ替わった格好だ。何か口寂しいときのお供だったガムは、そのポジションをグミに取って代わられた。 実際、ジェイ・エム・アール生活総合研究所(JMR生活総合研究所)の消費者調査(2023年5月、20~69歳の男女971人)によると、ガムとグミについて、1年前と比較して食べる頻度の増えた割合はグミが高く、ガムを4%ほど上回った。

■ ガムはロッテの独壇場、グミは有力メーカーが群雄割拠

 チューインガム市場はロッテの独壇場とも言える市場だ。日経POS情報がカバーする全国のスーパー71チェーン約1500店舗のPOS情報によると、販売金額の64.2%をロッテが占めている(2022年)。ボトルタイプの粒ガム「キシリトールガム ライムミント」が一番人気だ。

 日経POS情報によると、スーパーマーケットにおけるメーカー別シェア2位は、「クロレッツ」「リカルデント」で知られるモンデリーズ・ジャパン。CMでもおなじみのブランドを展開しているが、販売金額シェアは19.1%にとどまる。明治はモンデリーズに続く3番手だが、販売金額シェアは4.7%と大きく水をあけられ、2019年の6.3%からも縮小していた。

 シェアの伸び悩み以上に、明治のガム市場撤退へ踏み切る要因になったのが、ガム市場そのものの退潮だ。

 一方のグミ市場は、ロッテのガムのようなガリバー的な存在はなく、「果汁グミ」シリーズを販売する明治が販売金額シェア18.8%でトップ(2022年)。これにカンロ、UHA味覚糖などが続く。

■ 周辺商品の市場からも消費者が流入

 もうひとつ興味深いデータがある。グミはガムの市場から顧客を奪っているわけではないということを、マクロミルが分析している。

 同社によると、錠菓も含めたガムなどの口中清涼菓子のほかに、キャンディー、チョコレートからも顧客がグミへ流入しているという。特に2022年は、小袋タイプのチョコレート菓子(ポケチョコ)から16億円がグミに流れた。さらに、グミを売り場で見つけて気になって買ってみたトライアルユーザーが、好きな商品を見つけてリピーターになっていったことで市場が拡大したという。

 また、JMR生活総合研究所の調査によると、ガムを食べる頻度が減った人のうち、グミを食べる頻度を増やしている人は25%だった。同研究所では「ガムからグミに需要がシフトしたといった代替関係に両者はない。グミとガムの特徴や食べている人の背景は異なり、グミには話題性や嗜好性、ガムには機能性がある。人々の関心も高いことから、どちらにも今後の成長の余地はある」と見る。

 ちなみに、ガムの市場は、喫食シーン減少で前年割れが続いていたが、マスクを外す人が増えたことで、需要が戻りつつある。市場をリードするロッテが、菅野(かんの)美穂さんを起用したテレビCMを投下したことや、人気アーティストのBTSを起用したプロモーションを実施したことで市場は活性化してきた。

■ 商品数の増加も市場をけん引

 グミは商品数が増えていることも、消費者へのアピールにつながっている。日経POSデータによると、2019年は約370種類だったが、輸入品も増えており、2023年8月時点では792種類と800種類に迫っている。

 都内にある食品スーパーのバイヤーは「SKU(商品の最小管理単位)は拡大傾向にあり、今後も成長するカテゴリーと判断している」と話す。また、大手コンビニエンスストアの担当者は「店のレイアウト変更のたびに、グミは売り場を広げている。ガムは逆に、これ以上減らせないぐらいのところまで、売り場面積を減らしてきた。ガムは右肩下がり、グミは右肩上がりの構図は、コロナ禍で決定的になった」と見る。

 また、カンロの村田哲也社長は「グミの購入率は、10年間で6ポイント程度しか伸びず、現在4割台。逆に飴の購入率は少し落ちているものの6割台。10代は、飴よりもグミを購入する傾向にあるが、10代以外の世代は飴を買う傾向にあり、グミはまだまだ伸びる余地がある」と見ている(2023年7月27日の中間決算発表会での発言)

■「ゴミ」が出ず環境にやさしいグミ

 グミとガムを比較する場合、「ゴミ」との関係も無視できない。ガムが支持されてきたのは、かむと気分のリフレッシュや眠気覚まし、歯の健康への配慮といった便益があったためだ。

 だが、最近はガムのデメリットが目立つようになってきた。口からガムを吐き出すことに対するネガティブなイメージや、ガムのゴミを処理する煩(わずら)わしさが増大した。特に街なかや駅構内でテロ対策などからゴミ箱が減っていることがある。

 地球環境問題は政治経済の喫緊の課題となっている。国連が2015年に策定したSDGs(持続可能な開発目標)の認知が広がる中、ゴミの削減は生活者の身近なエコな活動のひとつだ。コロナ禍の2020年7月にはレジ袋が有料化され、2021年には日本政府も「カーボンニュートラル」を2050年までに達成することを国際公約として掲げた。

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのようなZ世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた若者)は環境問題を自分事(じぶんごと)として捉える向きもあり、たかがガムといえども、かみ終えたガムをどうするかという問題は、生活者の心理に陰を落としている。

<連載ラインアップ>
■第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?(本稿)
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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