危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?

Melinda Nagy/Shutterstock.com
有能なリーダーはメンバーにパスを出す。

 従来とは大きく異なる競争環境で組織が生き残るためには、周囲の変化のスピードを上回る速さで自ら変革を成し遂げられる「自走式」になる必要がある。そして、この自走式組織へと変化を促すために求められているのが、「共感型リーダー」だ。本連載では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏による『共感型リーダー まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法』(岩田松雄著/KADOKAWA)から、内容の一部を抜粋・再編集し、組織を自走させるためのリーダーシップについて紹介する。

 第2回は、条件適合理論の一つで、リーダーシップスタイルを4つに分類した「パス=ゴール理論」について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?
■第2回 危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?(本稿)
第3回 孫正義の傍らには宮内謙…なぜ成功する経営者には「相棒」がいるのか?
第4回 なぜ「人の良いおっちゃん」は、管理職として不合格なのか?
■第5回 リーダーは前に出る? 一歩下がる? 元スターバックスコーヒージャパンCEOが悩んだ末に出した答えとは?(7月9日公開)
■第6回 京セラ創業時に、若手に突き上げられた稲盛和夫が悟った「経営の意義」とは?(7月16日公開)
■第7回 元スターバックスコーヒージャパンCEOも実践する自己認識「ジョハリの窓」とは?(7月23日公開)

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■パス=ゴール理論

 条件適合理論(Contingency theory)の中にもいくつかの種類がありますが、私が一番わかりやすいと思う、1970年代にロバート・ハウスが提唱したパス=ゴール理論(Path-goal theory of Leadership)をご紹介します。

 パス=ゴール理論とは、リーダーシップの本質は「メンバーが目標(ゴール)を達成するためには、リーダーはどのような道筋(パス)を通れば良いのかを示すことである」という考えに基づいています。

 つまり、「メンバーの目標達成を助けることはリーダーの職務であり、目標達成に必要な方向性や支援を与えることは、メンバーや組織の全体的な目標に適う」ということになります。ハウスは、まずリーダーシップスタイルを大きく指示型・支援型・参加型・達成型の4つに分類しました。

 さらに、リーダーを取り巻く状況を、業務の明確さ、経営責任体制やチームの組織といった「環境的な条件」とメンバーの自立性、経験、能力といった「部下の個人的な特性」の2つの側面から分析しました。リーダーの行動が環境的な要因に対して不適切だったり (例えば緊急時に明確な指示ができない)、部下の特性と調和しない場合(例えばベテランの職人に細かな指示をする)には、リーダーシップは発揮できず、逆にリーダーの行動が条件に適合している場合に、リーダーシップが発揮できる、としました。

 以下4つのリーダーシップスタイルを簡単に説明します。

●指示型リーダーシップ

 課題志向が高く、メンバーに何を期待しているかをはっきり指示し、仕事のスケジュールを設定、仕事の達成方法を具体的に指示する。仕事が曖昧で、ストレスを感じさせるような場合に有効とされ、部下の能力が高い、経験が豊富といったケースではその有効性は低いとされます。

 自分より業務に習熟している部下に細かな指示をすると当然嫌がられるし、かえって邪魔になってしまいます。逆に新人も「お前に任せた」と言われても困ります。最初は事細かな指示をしてあげるべきです。

●支援型リーダーシップ

 相互信頼をベースに、メンバーのアイディアを尊重、感情に配慮してニーズに気遣いを示す。部下が明確化された職務を遂行している場合や、指揮命令系統が厳格な場合に効果が高くなるとされます。

 やることがはっきりしていて、チームが一丸となっている時は、リーダーはできるだけ邪魔をしないようにすることが大切です。彼らの権限の超えることや困り事が起こった時に支援することが重要な職務です。時々差し入れなんかしてあげると喜ばれるでしょう(笑)。

●参加型リーダーシップ

 決定を下す前にメンバーに相談し、彼らの提案を活用する。部下が自分の意思決定権は自分にあると認識している場合に有効。この意思決定権が自分にないと思っていると、「指示型」の有効性が高まる。

 あまり重要ではない案件や自分がよくわからない分野のことは、多少自分の意見と違っていても、メンバーに任せてしまうと、結果的に良い成果が生まれることが多くあります。人には得意・不得意があります。学ぶ努力はしなくてはなりませんが、不得意な分野は専門家に任せてしまうのがよいでしょう。

●達成型リーダーシップ

 困難な目標を設定し、メンバーに全力を尽くすよう求める。仕事の構造が複雑で、曖昧なときに有効性が高くなる。

 期限が迫ったプロジェクトの追い込みの時などは、ある意味力ずくで完成させないといけません。こんな時には、メンバーにあまり細かなことを言わず、なりふり構わず前に進むことを求めないといけないかもしれません。

 ある統計によると、ほとんどのリーダーは自分のリーダーシップスタイルが決まっています。実際リーダーの54%は1種類のスタイルのみを使い、2種類のスタイルを使っているのは35%、3種類は10%、そして4種類のスタイルすべてを使い分けているのは、わずか1%にすぎませんでした(この1%が理想のリーダーと言えるかもしれません)。効果的なリーダーシップのためには、リーダーは4種類のスタイルすべてを使いこなせることが理想です。もし難しいのであれば、状況に最適なリーダーシップを持った人に任せることが大切です。

 例えば普段ニコニコしているリーダーが、会社が危機的状況になった時でも、性格上部下達に急に厳しく言えません。そういう時には、部下に厳しいことが言える鬼軍曹のような人に一定期間任せてみることも必要です。一方強いリーダーシップを発揮しているワンマン社長が、いきなり揉み手して、皆の意見を聞きたいなどと言えないでしょう。もし言っても社長は悪い病気にでも罹ったのかと皆不安になってしまいます(笑)。そういう時は人望のある番頭さんにお願いして意見を吸い上げれば良いのです。

<連載ラインアップ>
第1回 血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?
■第2回 危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?(本稿)
第3回 孫正義の傍らには宮内謙…なぜ成功する経営者には「相棒」がいるのか?
第4回 なぜ「人の良いおっちゃん」は、管理職として不合格なのか?
■第5回 リーダーは前に出る? 一歩下がる? 元スターバックスコーヒージャパンCEOが悩んだ末に出した答えとは?(7月9日公開)
■第6回 京セラ創業時に、若手に突き上げられた稲盛和夫が悟った「経営の意義」とは?(7月16日公開)
■第7回 元スターバックスコーヒージャパンCEOも実践する自己認識「ジョハリの窓」とは?(7月23日公開)

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