血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?

Elizabeth Cullen/Shutterstock.com
徳川家康はなぜ260年もの太平の世を築けたのか。

 従来とは大きく異なる競争環境で組織が生き残るためには、周囲の変化のスピードを上回る速さで自ら変革を成し遂げられる「自走式」になる必要がある。そして、この自走式組織へと変化を促すために求められているのが、「共感型リーダー」だ。本連載では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏による『共感型リーダー まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法』(岩田松雄著/KADOKAWA)から、内容の一部を抜粋・再編集し、組織を自走させるためのリーダーシップについて紹介する。

 第1回は、リーダーシップ理論の歴史を振り返り、今の時代にふさわしいリーダーシップのスタイルを探る。

<連載ラインアップ>
■第1回 血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?(本稿)
第2回 危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?
第3回 孫正義の傍らには宮内謙…なぜ成功する経営者には「相棒」がいるのか?
第4回 なぜ「人の良いおっちゃん」は、管理職として不合格なのか?
■第5回 リーダーは前に出る? 一歩下がる? 元スターバックスコーヒージャパンCEOが悩んだ末に出した答えとは?(7月9日公開)
■第6回 京セラ創業時に、若手に突き上げられた稲盛和夫が悟った「経営の意義」とは?(7月16日公開)
■第7回 元スターバックスコーヒージャパンCEOも実践する自己認識「ジョハリの窓」とは?(7月23日公開)

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リーダーのスタイルは 状況で決まる

■ リーダーシップは生まれつきではない

 リーダーシップを小さい頃から発揮している人は確かにいます。幼稚園でも、保育士や周りを仕切っている子供もいます。あたかも生まれつきリーダーシップを持っているかのようです。しかし一方で子供の頃は泣き虫で、いじめられっ子だったのに、大きくなって立派なリーダーになった人も数多くいます。

■リーダーシップ特性理論

 リーダーシップ理論は1900年代から色々出てきましたが、最初に出てきたのが特性理論です。「行動力」「信頼」「説得力」「決断力」「誠実さ」などの生まれつきの様々な特質(trait) を持っている人が、良きリーダーだという説が出てきました。「偉大なリーダーには共通する特質がある」という前提によって、過去の優れたリーダーが持っている特質を明らかにしようとしました。調査の結果、成功しているリーダーが持っている特質は色々あって、全部数え上げると20項目以上の特質が出てきました。この中の5つだけと言うのであれば、重点的にそこを鍛えれば、立派なリーダーが育成できるかもしれません。実際20項目全てを身につけることは不可能です。人には必ず得意不得意はあります。例えば 「積極性」と「注意深さ」のように矛盾しがちな特性もあります。リーダーシップの特性には、どんな組織でも応用できる万能な特性はないのです。

■ リーダーシップ行動理論

 1940年代後半から出てきたのは、行動(behavior)に着目した理論です。行動は特性や性格と違って人の努力や経験によって変えられ、育成できるという観点が大きく違います。例えば業務(P=目標達成)を重視するスタイルか従業員(M=人間関係)を重視するスタイルかです(PM理論)。2004年の調査では、Consideration(配慮)は、フォロワーの満足度やモチベーションと強い相関関係があり、initiating structure(仕事の構造化)は、リーダー自身のパフォーマンスと強い相関関係があるとしています(入山章栄『世界標準の経営理論』より)

■ 状況に応じたリーダーシップ

 次に出てきた理論は、成功しているリーダーは、状況に応じてリーダーシップのスタイルを変えることができるという条件適合理論(Contingency theory)です。

 唯一普遍的なリーダーシップスタイルがあるのではなく、成功しているリーダーは、様々な環境や部下の性質などの条件によって、臨機応変にリーダーシップのスタイルを変える柔軟性と適応力があるという説です。例えば戦場のような非常事態では指示命令型の強いトップダウンが求められます。「狙え、撃て! 突撃!」と一方的に命令する強いリーダーシップが必要です。一方、平時であれば、参謀や部下たちの意見を聞きながら、次の戦闘の準備をする参加型のリーダーシップに切り替えるべきです。

 例えば織田信長、豊臣秀吉、徳川家康はリーダーシップスタイルが違います。彼らが登場する順番が違ったり、お互いの置かれている環境が違えば、歴史の流れを変え、それぞれ名前が現代に残るような有名な武将として知られることになったかはとても疑問です。単一のリーダーの型ではなく、その場、その時の状況や部下の様子を見ながら臨機応変に変えられるのが、良きリーダーなのです。

 徳川家康は「狸親父」の印象がありますが、戦国時代の若い頃は血の気が多く、勇猛果敢で戦好きで部下に何度も諌められています。一旦天下を取ると林羅山から「四書五経」を学び、「馬上で天下を取ったとしても、馬上で天下は治められない」ことを理解し、リーダーシップのスタイルを変えることができ、徳川260年の礎を築きました。織田信長が狸親父になって「論語」を勉強する姿はあまり想像できません。

 メディアではトップダウンのカリスマリーダーがもてはやされていますが、変化の激しい時代において一人のリーダーが全てをこなすことは不可能です。その上このようなトップダウン型のリーダーの下では人は育ちません。部下が何も考えなくなるからです。またどんな素晴らしいリーダーでも、必ず寿命があり衰えていきます。カリスマリーダーがいなくなると業績が急降下する例は、枚挙にいとまがないのです。現代でも長くトップを続けている経営者は、結局後継者をうまく育てるという意味では、失格なのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?(本稿)
第2回 危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?
第3回 孫正義の傍らには宮内謙…なぜ成功する経営者には「相棒」がいるのか?
第4回 なぜ「人の良いおっちゃん」は、管理職として不合格なのか?
■第5回 リーダーは前に出る? 一歩下がる? 元スターバックスコーヒージャパンCEOが悩んだ末に出した答えとは?(7月9日公開)
■第6回 京セラ創業時に、若手に突き上げられた稲盛和夫が悟った「経営の意義」とは?(7月16日公開)
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