「部下がぐんぐん成長する上司」がしている質問

(写真: tabiphoto /PIXTA)
組織において目標を達成するにはチームの底力を上げる必要がある。そのためには、チームのリーダーが部下1人ひとりに対して、その人が自ら考え、行動に移せるようなコミュニケーションを行うことが必要だ。そこで本稿では、『リーダーのためのコミュニケーションマネジメント』の著者で、2000件以上の企業研修でマネジメントや人材育成の課題解決を支援した実績を持つ杉本ゆかり氏が、部下の自発的な行動に導く質問の仕方について解説する。

組織にいがちな「ダメなリーダー」

・メンバーに「これやっておいて!」「自分で考えればできるだろう」と命令だけして指導しないリーダー
・新人に業務の方法や手順まで細かく指示してアイデアを考えさせない先輩
・自分の指示通りにやらない部下に「それじゃダメだね」と新しいやり方に反対する上司

あなたの組織にこんなリーダーはいないだろうか。多忙を極める中で業務を進めるためには、自分のやり方で業務を指示したり、とりあえず丸投げしたりするほうが手っ取り早い。

しかし、これはリスキーな手段である。部下は指示待ちに育ち、偏った思考で非効率的に仕事を進めるようになってしまう。リーダーのスタイルを押し付けるやり方やその場しのぎでは、部下もチームも伸びないだろう。

時間に追われながら部下やメンバーを指導するためには、新しい感覚の理解と合理的な手法の習得が不可欠である。部下が成長しチームが飛躍するカギは、気づきをもたらし自立を促すことだ。

そのためには、「教えるマネジメントスタイル」から自身が考えて答えを生み出す、「導きスタイル」へのパラダイムシフトが必要である。そこで求められるのが、実は質問力なのだ。

リーダーの質問力を高めるメソッドとしては、解決のための資源を見出し、行動を促すための目標達成マネジメント「コーチング理論のGROWモデル」が最適である。

リソースを生み出すための質問は、部下の思考・視野を広げるのに役立つ。部下はさまざまな角度の質問に繰り返し応えることにより考えが整理され、新たな気づきを得る。

それを踏まえて、リーダーは部下が目標と現状のギャップを把握できるよう促す。そのギャップを埋めるための施策を考えることで、部下は具体的な行動に移せるようになる。

「気づき」は最高の能力を発揮するために役立つ

エグゼクティブコーチングのパイオニアであるジョン・ウィットモアは、著書の中で「気づき」が最高の能力を発揮するために役立つことだと強調している。気づきとは、ひらめきを得ることだ。

ひらめきはこれまで見落としていた物事や自分の周りで起きていることがヒントとなり、多角的な質問によって育まれる。したがってリーダーに必要なことは、気づき、やる気、創造性を引き出す質問を見つけることにある。

とはいえ、部下に質問を投げかければすぐに完璧な答えが返ってくるわけではない。部下の頭の奥底にはアイデアのヒントがあるものの、的確に表現できないことが多い。そのため、リーダーには部下の潜在力を開花させる投げかけが必要なのだ。

Goal(目標)、Reality(現状)、Resource(資源)、Options(選択肢)、Will(意志)の頭文字を並べたGROWモデルは、このステップで質問を進めることにより、目標達成につながる具体的なプロセスにつなげることが可能となる。

ステップ1 【G】 Goal(目標を明確にする)

ステップ1目標を実行レベルに落とし込み、明確にすることだ。目標とは実体を伴った夢である(1)。より具体的で鮮明にイメージできるようにならなければ行動に移すことはできない(2)。そのためリーダーは、具体的、かつ肯定的で実現可能なプロセスを検討できるよう部下に促すことがポイントとなる。

例えば、売り上げ目標はただの数字だ。そのため、数字を表明しただけでは行動に移せない。数字が出来上がるプロセスが具体化できて初めて現実味を帯びるのだ。いかに具体的な目標を設計できるのかがカギになる。

【質問例】
・具体的に何を達成したいと思いますか?
・どのような状態になると目標達成したと判断できますか?

進める前に「現在地」を明らかにする

ステップ2 【R】 Reality(現状・現実の把握)

ステップ2では現状・現実を具体的に理解するため、どこまでできていて、何ができていないのか、現在地を明らかにする必要がある。リーダーは部下が客観的に現実(状況や環境)を探り出せるような質問を心がけよう。

【質問例】
・何ができていて、何ができていないのか、現状を具体的に教えてください。
・何が障害になっていますか?

ステップ3 【R】 Resources(経営資源を発見する)

ステップ3は、現実的に使えるリソースを複数発想してもらうため、リソースに気づかせるための質問をする。リソースは人材や資金、時間、ネットワークや専門性、方法などさまざまである。リーダーは問題解決のためのリソースは何か? 部下自身は何を持ち合わせているのか? 他の人が持つリソースは使えないか?どこに行けばそれが揃うのかなど、部下の考えが偏らないように幅を広げる投げかけをしよう。

【質問例】
・それを成功させるためにはどのような方法が考えられますか?
・どのような人の助けが必要ですか? どのような専門家はどのような人がいるのでしょうか?

ステップ4 【O】 Options(方法を考え、選択肢を増やす)

ステップ4では、より多くの方法を考え、選択肢を増やすことが求められる。正しい答えはこの段階ではわからない。だからこそ否定・限定はしないで柔軟に考えるよう促す。多くの視点から方法を探し出し、多くの選択肢から選び抜いた方法は、目標達成への近道である(3)。

【質問例】
・他の人のやり方で取り入れてみたいことはありますか?
・どのようなやり方があるのか、3つ考えられますか?

ステップ5 【W】 Will(意志の確認)

最終ステップでは行動を決定するため、いつからどこでどんな行動するのかを具体的に確認する。また、計画通りに進められるのか、次にどの時点でフォローしたほうがよいのか、その後の行動計画を決めておく必要もある。ここでは部下自らやる決意や具体的な行動、進捗の報告などを確認しよう。

【質問例】
・いつ、何から始めますか? その計画に無理はないですか?
・いつ進捗について報告してもらえますか?

GROWモデルを活用するときに心がけること

まず、部下の視野が広がる質問は、そう簡単に思い浮かぶものではない。日頃から適切な質問が浮かんだり、参考になる質問を見つけたりしたらメモにして整理しておくと便利だ。また、コーチングの時は、メモを見ながら適切な質問を投げかけてみることをおススメする。

リーダーのためのコミュニケーションマネジメント: トップリーダーとメソッドから学ぶ部下育成の奥義

次にリーダーは部下が話やすい環境を整えよう。部下が回答している時は、口を挟まず、高圧的な態度をとらないように気を付けよう。

最後にリーダーは正しい承認を表現しよう。相手の能力を見極めてストロングポイントをのばすため、認める言葉を投げかける必要がある。

GROWモデルを活用したコミュニケーションによって、部下は目標達成に必要な手段とプロセスを多方面から具体的に考えられるようになる。自ら考えて行動できれば、部下のモチベーションは高まり、成長につながる可能性がある。

1. ジョセフ・オコナー&アンドレア・ラゲス[2012]『コーチングのすべて-その成り立ち・
流派・理論から実践の指針まで(第5刷)』(杉井要一郎訳)英治出版
2. 伊藤守[2002]『コーチング・マネジメント(第14刷)』ディスカバー・トゥエンティワン
3. 出江紳一[2009]『リハスタッフのためのコーチング活用ガイド(第3刷)』医歯薬出版

(杉本 ゆかり : 跡見学園女子大学・群馬大学大学院兼任講師)

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