「できるリーダー」とそうでもない人の決定的な差
リーダーには才能が必要?
「自分はリーダーに向いていないのかな」と思ったことはありませんか?リーダーは“生まれつきのもの”でしょうか? それとも“育てられるもの”でしょうか?
そんな疑問に対して、世界や日本の多くの研究や実例から、リーダーシップは才能だけでなく、学習や経験といった努力などによって高められる能力であることが示されています。
リーダーをイメージするとき、人々はしばしば「カリスマ」と呼ばれる有名人や歴史上の偉人たちを想像します。確かに、彼らはもともと特別な魅力や影響力を持っていたかもしれませんが、それだけではできるリーダーにはなれません。多くの場合、リーダーは人生のいろいろな経験などからスキルや知識を身につけ、リーダーシップを高めています。
リーダーシップの高め方
リーダーシップの具体的な高め方については、次の3つを参考にしてください。
1.リーダーシップの基本を学ぶ
リーダーに必要な能力は、学び、実践することで身につけていくことができます。例えば、目的・目標設定力、コミュニケーション力、メンバーをやる気にさせる力、問題を解決する力、意思決定力、人を育てる力など、これらは学び、実践することで向上させることができる能力です。本や講座などからも学ぶことができます。
2.自分の経験と振り返りから学ぶ
リーダーシップは経験から学習するところが大きいものです。ある調査では、リーダーシップの7割は、自分の実践経験と振り返りから学習されているという報告があります。実際にチームをリードする経験の中で、リーダーは成功や失敗から学び、振り返り、改善することで自分自身のリーダーシップに磨きをかけていきます。
3.人から学ぶ
人からリーダーシップを学ぶことも大事な点です。自分がこうなりたいと思う「できるリーダー」のことをイメージし、自分の考え方や行動の参考にするのです。このような人たちをロールモデルといいます。例えば、渋沢栄一(みずほ銀行、東京ガスの前身の会社など500以上の会社設立に関係した人)や緒方貞子(日本人初の国連難民高等弁務官)のような著名な人物でもいいし、自分の先生や先輩、友だちなど身近な人でもよいでしょう。
また、自分では自分のことは意外とわからないものです。先生や先輩、友だち、親などのまわりの人からアドバイスやフィードバックをもらい自分の行動を振り返ることもリーダーシップを高めるために効果的です。
このように、適切に努力すれば人はリーダーシップを学ぶことができます。だれもができるリーダーになれる可能性を持っています。自分自身を常に向上させようとする意欲によってそれを引き出し、高めることが重要です。リーダーシップは生まれつきの才能だけでなく、学んだスキル、経験、そして継続的な努力の成果なのです。
社会人になってからも経験と努力によってリーダーシップを高めていくことができます。例えば、マイクロソフトの経営者のサティア・ナデラさんは、入社してから経営者になるまでにいろいろな仕事とポジションを経験し、リーダーシップを身につけていきました。
ナデラさんは自身の経験から「常に学習し続けること、人々を理解し尊重すること、そして大きなビジョンを持つことが重要である」というリーダーシップの考え方を語っています。
もしナデラさんが、このような経験や、学習をする機会がないままマイクロソフトに入社して、さまざまな経験や努力なくすぐに経営者になっていたら、たぶん今のようにはうまくいかなかったのではないかと思います。
できるリーダーは2つの行動をとる!
リーダーがとる行動(リーダーシップ行動)にはどのようなものがあるのでしょうか? それは大きく課題達成に関するものと、組織・人間関係に関するものに分けられます。
課題達成に関するものとしては、チームの目的・目標をつくりチーム全員で共有することや、それを実現する具体的な方法を考え、実践すること、問題が起こったときに解決することなどが含まれます。 組織・人間関係に関するものは、人の相談にのる、人をはげます、育成する、チームワークを保つなどです。
この2つを指標とするのが「PM理論」です。PM理論とは、リーダーシップ行動をP軸(P:Performance(パフォーマンス)軸)とM軸(M:Maintenance(メンテナンス)軸)で分け、4つに分類したものです。
P軸は課題や目的・目標を達成するための行動、M軸は人間関係を維持するための行動の指標です。これにより分類された4つのタイプは下記の通りです。
できるリーダーが備える能力
できるリーダーはP軸の課題達成力と、M軸の組織(人間関係)維持力の両方の行動をとる必要があります。今の自分は、P軸とM軸のどちらが得意か、今後はどのように考え、行動すべきかを考えてみてください。
もし自分1人だけで両方は難しそうだと思う人は、「シェアド・リーダーシップ」を活用し、例えば自分がP型、サブリーダーがM型リーダーシップを発揮することも可能です。すばらしいチームをつくるためには、P軸とM軸の両方が必要となります。
このように自分の長所と短所を理解し、長所をいかし、伸ばし、短所を改善したり、人に協力してもらうなどして、リーダーシップを高めていきましょう。
青山学院大学陸上競技部は、お正月に行われる箱根駅伝などで何度も優勝するなどのすばらしい成績をおさめています。チームが強いというだけではなく、チームワークもすばらしいとまわりから高く評価されています。その成功には、原晋監督のすばらしいリーダーシップが大きく影響しています。
原監督は、課題達成力と組織(人間関係)維持力を合わせ持つPM型リーダーです。箱根駅伝などの全国大会で優勝するという高い目標の達成と、チームワークづくりをバランスよく行い、チームの成功とメンバー1人1人の成長へとリードしています。
状況によってリーダーシップを変えよう
リーダーシップのスタイルはどれか1つに決める必要があるのでしょうか? いいえ、リーダーシップのスタイルは1つだけに決める必要はなく、メンバーの経験やスキルと取り組む内容の状況に応じて、柔軟に変えていくことが大切です。この考え方を状況対応型リーダーシップと言います。
状況対応型リーダーシップには「指示型」「支援型」「参加型」「目標設定型(達成志向型)」という4つのスタイルがあります。
チーム運営がうまくいかず、今のリーダーシップの発揮の仕方がチームの状況やメンバーに合っていないと思った場合には、リーダーシップのとり方を見直したり、変更してみてください。
例えば、運動部に新入生が入部した場合、最初は指示型のリーダーシップで、部活動のルールやそのスポーツの基礎的なことを具体的に教えます。 入部から何カ月か経ち、新入生が成長してきたら、支援型や参加型に、さらに成長したら、目標設定型のリーダーシップに切り替えていくようにすると効果的です。
このように、メンバーの状況や取り組む内容に応じて、柔軟にリーダーシップスタイルを変えることで、より効果的なチームの成功とメンバーの成長につなげることができます。 使い分けを考えるときには、メンバーの長所や特徴、チームの状況をよく見て、できるだけその人の長所をいかして、目的や目標を達成するために「どのリーダーシップスタイルで接するとよいのか」を考えるとよいでしょう。
「たった1つの正解」はない
筆者がまだリーダーシップについての知識や経験が浅かったころ、自分の先輩と同じやり方で、どんなメンバーに対しても指示型リーダーシップをとり、うまくいかなかったことがありました。
会社をはじめとした多くの組織で、指示型リーダーシップのみが正しいリーダーシップだと思い込んでしまい、だれに対してでも、どんな状況でも、指示型リーダーシップを発揮しようとする人がよく見られます。メンバーの特性やビジネスの状況を考えずにいつも指示型リーダーシップをとると、たまたまうまくいくこともあれば、いかないこともあります。
リーダーシップには、たった1つの正解はありません。自分とメンバーの状況によって、柔軟に使い分けましょう。自分とチームの状況にあった「自分らしいリーダーシップ」を見つけ、実践していってください。
(安部 哲也 : 立教大学大学院ビジネススクール(MBA)客員教授・EQパートナーズ代表)
06/10 13:30
東洋経済オンライン