なぜオタクは定時に帰って毎日充実しているのか
オタク的幸福論とは
どうしても仕事を優先してしまう理由は何でしょうか? 仕事が楽しいから? 上司に叱責されないように? 自分以外にできる人がいないから? 単なる義務感?
では、あなたを幸せにできるのは誰でしょうか。もちろん、他でもないあなたです。自分自身が何をするか、誰を選ぶか、どう行動するかで幸福度は決まります。
これまで20年間会社員生活をしてきましたが、最初の5年間は自分にとっての幸福とは何かを理解せずに過ごしてきました。自分の幸福に気がつくまでは、ただ漠然と仕事をして自宅に帰るだけの日々。
特別就きたい仕事もなく、期限ギリギリの状態で挑んだ就職活動。何とか入社はしたものの、残業時間はかなり多く、入社して2カ月目には残業が月100時間を超える状態でした。
7時に起床し、帰宅は23時。実家から通っていたので、通勤時間に往復3時間かけていました。その反動か、休みの日は毎回12時間以上寝ていたことが多かったです。
仕事には順応できていたようで、幸いにも上司に叱られることは少なかったように思います。ただし自分の世界にのめり込むことが多く、人付き合いを避ける、いわゆるオタクの素質はこの頃から発揮しており、飲み会、付き合いなどはまったくといっていいほど行きませんでした。叱られることはないですが、上司の記憶に残ることも少なく、昇進とは無縁。
接客業のため、業務に特殊性はありませんでした。ところが専門知識が必要な商品を任された際対応できる人が少なく、入社2年目から単独で仕事を行うことが多くなっていきます。他に誰もできないことから義務感を感じ、残業することが多くなりました。
そんな毎日の中で、数少ない楽しみの一つとして、年に数回参加する声優やアイドルのライブイベントがありました。12歳のとき、当時聞いていた声優が出演しているラジオの公開録音イベントに参加したのが始まりです。
それ以外はとくに娯楽らしい楽しみもなかったのですが、21歳のときに職場の先輩に連れられてライブに行ったのがキッカケで、それ以降は1年に数回通うようになりました。
幼少期に見ていたアニメの曲をアーティストが生で歌唱する。今見ているアニメの主題歌を生で聞ける。これまで経験をしたことのない大きな魅力を感じ、定期的に参加するようになりました。
ヲタ芸をしている人との出会い
ライブイベントは1回約2時間。短い時間ですが、「あの曲が聞けた!」と鳥肌が立ったことを覚えています。この感覚の虜になり、足しげく通うようになります。
平日は寝る時間以外のほとんどを仕事に費やし、年に数回のイベントを楽しみに生活する。そんな会社員生活を送っていた5年目のある日、とある声優のライブイベントに参加したことで、出会いがありました。それは、イベントでヲタ芸をしている人々との出会いです。
当時イベントには、ずっと1人で参加していましたが、以前イベントで出会い、一度食事を共にした方と再会しました。その方の友人がヲタ芸をしており、教えてもらうことになりました。
それまで、会場で見たことがありましたが、自分で行うことはなかったヲタ芸。大きな声で気合を入れる。曲に合わせて両手を大きく振り回す。真冬の屋外で行っても一曲で汗だくになる行為に大きな衝撃を受けました。
こんな楽しいことがあるのか!
曲を聞いて自分の想いをアウトプットできる快感。ヲタ芸を通じて自分が感じたことを表現する。これこそが自分自身が求めていた幸せであると気がつきました。
この頃、あんなに楽しさを感じていたイベントもマンネリ化してしまっていました。イベントに行く熱量が下がっていたため、通うこともやめようと考えていた時期に出合ったのが「ヲタ芸」でした。
イベントで体を動かし、受動的ではなく、能動的になれる。流れてきた曲に対して自分なりの振りを行う。自発的にライブに参加していると感じられ、多幸感を味わいました。
心の底からイベントに参加したいと思ったとき、スイッチが入りました。
「より多くのイベントに参加する。もっとヲタ芸がうまくなりたい」
これが行動の指針となりました。
優先順位が変わった瞬間
ヲタ芸に魅了された自分は、一つの目標ができました。それは、もっとイベントに参加してヲタ芸のレベルを上げるということ。そう決めたとき、最初にとった行動は、参加するイベントのチケットを先に購入することでした。
それまでの自分は休みの希望が通ればイベントに参加する、というスタンスを取っていました。しかし、参加できるスケジュールの範囲内でイベントを選んでいたのでは、限りがあり多くの数をこなすことはできません。そこで、イベントの参加範囲を土日から全日に、地元から全国に広げました。
すると、これまでとは比較にならないほど多くのイベントが候補に挙がりました。世の中にはこれだけ多くのイベントがあるのか。これは上達のチャンスだ! と感じました。
「いっそのこと、チケットを先に押さえてしまうか」
マンネリ化をやめたい、自分を変えたいという潜在的な思いが水面に顔を出すように、自然と思いつきました。そして、悩む間もなく、それらのチケットを先に購入したのです。さらに、参加する時期が近いチケットだけでなく、数カ月先、半年先のイベントのチケットも押さえました。
今思い出すとかなり無謀な挑戦ですが、この方法が思いのほかうまくいきました。まず購入したイベントのチケットを目で見られる、ということが自分にとって励みになりました。
購入したチケットを見ていると、この予定は崩せない。何が何でもイベントに参加しないといけない、という気持ちが心の底から湧き上がります。持っているチケットの公演の様子をイメージし、自分がヲタ芸をしているシミュレーションをします。
予定のために、死にもの狂いで仕事に取り組むように
イベントの予定を先に入れただけですが、これだけで気持ちの張り合いがこれまでとは比べ物にならないぐらい強くなりました。仕事をなんとしても終わらせる。これ以降、死にもの狂いで仕事に取り組むようになりました。
終業の時間だけを心待ちにし、時間が早く過ぎないかと気にしていた自分が、チケットを先に買うようにして3カ月もすると、どうすれば残業をせずに仕事を終わらせられるかということを考える自分に変化していました。
行動は変わりましたが、やり始めた当初、心の中では、ものすごくドキドキしたことを覚えています。チケットが無駄になったらどうしよう。イベントに参加できないのではないか……。こういった不安が何度も頭をよぎりました。でも、それ以上にイベントに参加したい、ヲタ芸をやりたいという気持ちが勝りました。
予定のために仕事に必死になって取り組み、終わらせようとする。高揚した気持ちや仕事に対するやる気を感じたことはありませんか? 予定を先に決めることは、最初は勇気のいることですが、慣れてくるとやりたいことや大事なことに意識が向くようになります。
先に押さえたチケットが、予約が、お金が無駄に終わったらどうしようという不安こそ、スタートラインに立った証拠です。内心ハラハラ・ドキドキしている気持ちを振り切って、仕事を終わらせることに全力を尽くす。
この状態を築くことができたとき、予定通り「推し活」を楽しむことができるようになります。私の場合、予定通りにイベントに参加できるようになると、それまでは距離や時間の関係で選択肢に入らなかったイベントも参加する候補として挙がるようになりました。
それに伴い仕事を効率よく、さらに計画的に終わらせるようになるという好循環が生まれました。その結果、より多くのイベントに参加できるようになりました。
イベントがそこにある。推し活がそこにある。
だからこそ仕事をなんとしても時間内に終わらせようとする。定時に絶対上がるという力がみなぎってきます。
(一番先生 : オタク歴27年社会人)
09/27 18:00
東洋経済オンライン