優秀な上司でも「性格が原因で降格」が急増のナゼ

サラリーマン

「結果を出している」という事実に甘えている上司が、手痛いしっぺ返しを食らうケースが増えているといいます(画像:8x10/PIXTA)
部下にきつい上司でも仕事ができれば高い評価を受ける。そんなケースは皆さんもよく目の当たりにしているのではないかと思います。
しかし、今、この状況が変わりつつあります。仕事ができても部下にきつい上司は降格などの厳しい処分を受けるケースが出ているのです。その背景には、深刻な人手不足があります。
この点について、経営心理士として1200件超の経営改善を行い、経営心理士講座を主宰する、一般社団法人日本経営心理士協会 代表理事の藤田耕司氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、今、上司として知っておくべき時流の変化と仕事ができる上司がきつくなる理由についてお伝えします。

言葉がきつい上司、言い方がきつい上司

「何やってんだよ! ほんと使えねえな」

離職防止の教科書: いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版

「やる気あるの? もっと気合い入れてやれよ!」

「そんなことしても意味ないだろうが! 頭使えよ、頭を!」

メディア関連の会社に転職したS氏は、配属された部署のマネージャーがこういった言葉を部下にぶつけている状況に目が点になったと話します。

「はじめは体育会系の上司だなぁって思ってたんですが、自分にもそういう言葉が飛んでくるようになってからは、胃をすり減らしながら働くようになりました。

それで2年ちょっとで辞めました。あの人が原因で何人も辞めましたよ。でも本人に反省の色はなく、ある新人が辞めたときは『すぐ辞めるならはじめから入社して来んなよな』と愚痴ってました」

「今のご時世、そんな人いるの?」と思われるかもしれませんが、このようなきつい言葉を使う人は、一定数いらっしゃいます。

また、きつい言葉は使わないものの、「言い方」がきつい人もいます。

例えば、不機嫌に話す人、イライラしている人、冷淡な印象を与える人、理詰めにする人などです。

また、部下に過剰な圧を与える人もいます。

「これ今日中に終わらせて」「あと何分で終わる?」「まだ?」「まだ終わらないの?」「あとこれも今日中に終わらせて」

Web制作の会社に就職したK氏は、上司からこういったチャットが1時間に何度も飛んでくる状況に強いストレスを覚え、精神的に耐えきれずに退職しました。

「その上司はとにかく仕事が速い人で、そのペースで仕事を振ってくるので、ついていくのに必死でした。一方的な指示と急かすチャットが送られてくるので、精神的に追い詰められてました。あのチャットは夢にも出ました。もはやトラウマですね」

仕事が速い人が自分のペースで仕事を進めようとすると、こういった状況を作ってしまいがちです。

また、せっかちな人は部下の仕事が終わるのを待てずに次の指示を出し、さらなるプレッシャーを与えます。

それが部下にとっては過剰な負担となり、精神的に限界を迎えると離職に至ります。

部下にきつい人の評価が変わりつつある

私は経営心理士として人間心理に基づく経営コンサルティングを行っています。

私がコンサルティングに入った現場で問題となっていた「複数の部下を辞めさせる上司」は、その多くがきつい言葉を使う人か、言い方がきつい人、過剰な圧を与える人でした。

ただ、そういった人でも、仕事ができる人は高い評価を受けていました。

なぜなら、人事評価基準が「個人の業務の成果」を重視するものだったからです。

しかし、その状況が今、変わりつつあります。

ある運送業の会社では、執行役員を降格させました。

その理由はその人の部下に対する当たりがきつく、それが原因で複数の部下が辞めたためです。

また、ある建設関連業の会社では営業部長が新人の態度に腹を立てて叱ったところ、新人が出社しなくなり、そのまま退職しました。

その責任を問われ、営業部長は降格となりました。

執行役員や営業部長に上りつめるほど優秀な方でも、社員の離職が原因で降格となったわけです。

その背景には深刻な人手不足があります。

人手不足の会社でいちばんの問題は人が辞めること

今、深刻な人手不足に陥る会社が続々と増え、人手不足が原因の倒産は過去最多を更新し続けています。

これ以上社員が辞めたら現場が回らなくなる。

そういった会社でいちばんの痛手となること、それは「人が辞めること」です。

そのため、いくら仕事ができても部下を辞めさせる社員は会社にとっていちばんの痛手となることを引き起こすため、厳しい処分が下されるケースが増えています。

そして、部下を辞めさせる社員の典型例が「部下にきつい社員」なのです。

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、2010年には8103万人だった15~64歳までの生産年齢人口(国内で行われている生産活動に就いている中核の労働力となる年齢の人口)は、2020年には7509万人、2030年には6875万人、2040年には5978万人、2050年には5275万人まで減ると見込まれています。

そのため、今後ますます人手不足は深刻になると予想されます。

そうなればなるほど、部下を辞めさせるきつい上司は、高い評価を受けられなくなるでしょう。そして、場合によっては厳しい処分を受けることにもなるでしょう。

私のこれまでの経験上、部下にきつい上司にはある傾向が見てとれます。

それが「仕事ができる」ということです。

仕事ができる人は仕事に求める水準が高く、その水準を部下にも求めます。

「ここまでやって当然でしょ」「普通こういう対応をするだろ」と思うレベルが高く、そのレベルの対応ができていないと部下に対して怒りがわきます。

仕事に求める水準が高くない人と比べると、部下に対して怒りがわく確率がずいぶん高いわけです。

そこでその怒りを制御できないときつく当たってしまうのです。

仕事で高い水準を求めることは、決して悪いことではありません。ただ、それが原因で部下にきつく当たることが問題なのです。

そしてそれは自分の評価を下げることになります。

そのため、仕事ができる人ほど普段から「要求水準の高さが自分を感情的にする」と意識し、「怒りを制御する力」を高めることをより一層心掛けていただければと思います。

これからの時代に求められる必須スキルとは

いつの時代もその時代の流れに応じたスキルを身に付けることが求められます。

パソコンが普及してからは、パソコンのスキルは多くの業界で当たり前のように求められ、パソコンが使えないと高い評価を受けられなくなりました。

同様に、人手不足の時代においては部下の離職を防ぐことが強く求められる以上、「部下に強いストレスを与えないコミュニケーションスキル」は必須のスキルだと言えます。

今後も高い評価を受け続けるためにも、ぜひこのスキルを磨いていっていただければと思います。

(藤田 耕司 : 経営心理士、税理士、心理カウンセラー)

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