「推し」の素晴らしさをSNSで発信、何がいいのか

SNSを楽しむ女性

「推し」への想いを言語化し、発信するのが日常生活の楽しみ、だという人も多いのでは?(写真:kapinon / PIXTA)
アイドルと宝塚をこよなく愛する書評家・三宅香帆さんが、長年培ってきた文章技術を「推し語り」に役立つようにまとめあげた著書『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』から一部を抜粋・再編集し、「推し語り」のコツやヒントを3回にわたってご紹介しています。3回目の本記事では、「推しの素晴らしさをSNSで発信する」ときのコツやヒントについてお伝えします。
1回目:「やばい」以外の"自分の言葉"で「推し」を語るコツ
2回目:"推し"へのファンレター「自分の言葉」で書く方法

「推し」への言葉は、自分の想いを見失わない鍵

怖い思いをしてまで、推しについて自分の意見をSNSで表明する理由って、なに?と首を傾げられるかもしれません。

勇気をだしてまで、推しについて書かなくてもよくない?

もちろん、SNSに必ず書く必要はありません。日記やメモに書いて、自分ひとりのなかに留めておくだけでもいいのです。

どんなものに書くとしても、本当に大好きな推しがいるなら、推しについての自分だけの言葉を持っておくことは、すごくすごく重要なことです。なぜなら自分の揺るぎない言葉を持つことは、きっとあなたの「推し」──つまり好きな存在を好きでいることへの信頼につながるからです。

ちょっと個人的な話をさせてください。私の場合、宝塚のあるトップ娘役さんが大好きだったんですが、ある日その人が退団してしまうことが決まり、悲しみに暮れていました。

でも、その人の好きなところ──私はとにかく彼女の踊っている姿が大好きでした──をSNSやブログに書いているうちに、「あんなに美しく踊っている姿を私に見せてくれたことに感謝すべきだよな……退団を悲しんでいる場合ではないよな」と思えて、なんだか立ち直ってきたんですよ。

世代別の推しの対象

「推し」のジャンルの世代別比較(出所:ビデオリサーチひと研究所 推し活調査2024年2月)

これは私の一例にすぎませんが、推しっていろんなことがあるじゃないですか。私が経験したように、退団や卒業がいきなりやってくることがある。スキャンダルを起こしてしまうこともあるかもしれない。世間をざわつかせる騒ぎを起こすことがあるかもしれません(縁起でもないですが)。

そんなとき、世間や他人の声に惑わされず、自分の推しに対する想いを言葉にすることができたら、推しに対する大切なものを見逃さずにすむはずです。

その大切なものは、人によって異なりますが。むやみやたらに他人の言葉に影響されて、自分の想いを見失うことはなくなります。

何度でも言いますが、他人の感情なんて、基本的には「推し」と「自分」の間において、なんの関係もないじゃないですか?

SNSで推しの素晴らしさを伝える文章を書くコツは、大量に流れてくる自分以外の人が発した言葉たちから、いかに自分の言葉を守れるか、なのです。

他人の言葉は自分に伝染させない

私たちは自覚している以上に、普段触れている言葉から影響を受けます。
たとえば「日本の未来はダメだ!」と言われたら、日本という大きな次元の話をしているのに、なぜか自分の未来までダメになったような気がしてしまう。

誰かさんの不倫なんてどうでもいいと思っていたのに、浮気を派手に叩く言葉をずっと見ていると、不倫が許せなくなってしまう。

私たちは知らず知らずのうちに、普段摂取している言葉の影響をどうしても受けてしまう。

人間は言葉によってコミュニケーションする生き物だからこそ、何回も同じ言葉と接するだけで、自分に向けられた言葉だと勘違いしてしまう。そんなところがあります。

推しについての言葉も同様です。

SNSで友人がすごく好きなアイドルについて書いていたら、なんとなくそのアイドルが好ましく思えてきたりしませんか?

逆に、SNSで批判されている有名人を見ると、自分はなにもされていないのに、なんとなく悪いイメージを抱いたりしますよね。

言葉は伝染する。

だから私たちは、十分気をつけてSNSを利用しないと、どんどん他人の言葉に自分を感染させてしまう。それは、ポジティブなことでも、ネガティブなことでも同様です。

他人の言葉と自分の言葉をわける

他人の言葉の影響から自分を守る方法は、「他人の言葉を見ない」か「他人の言葉を打ち消す自分の言葉を持つ」かの、どちらかだけ。

前者の「他人の言葉を見ない」こともかなり重要な手段です。

なんだか疲れているときは、SNSを見ないようにしたり、暗いニュースに触れないようにしたりすることが必要ですよね。やっぱり疲れているときは、さらに疲れてしまう言葉に触れるべきじゃない。

それと同じように、ネガティブな影響を与えてくる他人の言葉は、見ないほうが得策です。

他人の言葉から自分を守るもうひとつの方法、「他人の言葉を打ち消す、自分の言葉を持つ」。これはつまり、「私は、それは違うと思う」という言葉を持つことです。

もちろん無理に他人と違う意見を書く必要はない。でも、もし他人の言葉に違和感を抱いたときは、ぜひ「他人の言葉と、自分の言葉をわける」ことを意識してみてください。

「SNSに書く言葉が、どうしても他人と似たような意見になってしまう」と悩む人もいるかもしれません。

基本的にSNSは、みんなで同じようなポイントについて盛り上がるのが楽しいメディアなので、自分と他人の意見が同じであることを恥じる必要はありません。

それでもやっぱり「他人と違う言葉を発したい」と思ったときは、自分だけのメモや日記を大切にしましょう。

他人のSNSにあがっている感想を見る前にメモした、自分だけの感想。

推しの細かいところに着目したうえで、でてきた言葉。

他人に見せないメモや日記に書いた言葉が、あなたオリジナルのSNSの言葉につながるはずです。

あなただけの着眼点を持った言葉は、誰にも見せない場(自分でつくったメモや日記のことです)で生まれやすいのです。

ぜひ、自分オリジナルの言葉を探してみてください!

推しを語ることは、主体的に推しを楽しむこと

推しについて語ることは、結果的に自分について語ることになります。

なぜ、その推しを好きになったのか?

こんなに推しという存在をつくるのがブームになっている世の中で、その相手を、存在を、分野を、選んだのはなぜなのか?

なぜ、その推しを好きでい続けられるのか?

どんな体験があって、その推しに出会ったのか?

──それらを語ることは、推しの魅力を語るとともに、推しに恋した自分を語ることでもあるのです。

自分の好みを言語化することで、自分についての理解が深まる。

せっかく推しなんて貴重な存在に出会えたんですから、その人生を肯定するためにも、人生を語る言葉を持ってみましょうよ!

「推し」について語ることで、自分の人生も捨てたもんじゃないな、と思えてきます。私は、何度もそういう体験をしました。

たとえば、SNSを通して出会った友人と推しについて話しているとき、まさか共感してもらえると思ってもみなかった点を理解してもらえて感動したことがあります。

ブログに自分の好きな小説について書いて、予想以上に多くの人に読んでもらえて「自分が本当に感じていることを言葉にしたら、人に伝わるんだ!」と思えるようになりました。

あるいは、大好きな漫画の批評をネットに発表したことで、好きなものを好きって、もっと言っていいんだと自信をもらいました。

推しについて語ることで、自分で自分自身について語るよりももっと多くの、自分についての情報を得られるのです。

……と、こんなに推し語りを礼賛していますが、それでも結局推しってただの消費行動じゃん、って言われることもあります。

「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない (ディスカヴァー携書)

たしかに、ただ推しのゲームやライブや舞台の観客として──つまり消費者として楽しむだけなら、それで終わりかもしれません。

でも、自分から推しについて語ったり、推しについての文章を書いたりすることで、推しを主体的に楽しむことができるんですよ。

推しについて、提供側が想像しなかった魅力を楽しんでいることを発信できる。推しを通して、能動的に人生を楽しんでいるんだと言うことができる。

他人の言葉に惑わされず、自分自身の推しについて、たくさん言葉にしてみましょう! きっと、推しに出会えた人生について語ったあなたの言葉が、いつかあなた自身を楽しませる日がきます。

「ああ、こんなに好きな存在がいたんだなぁ」って懐かしく、嬉しく思う日がくるはずです。

(三宅 香帆 : 文芸評論家)

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