誕生100年の都バス「利用者多い路線」はどこ?

錦糸町駅前 都バス

錦糸町駅前に発着する都バス(記者撮影)

大都市圏から地方まで、全国で人々の身近な足となっているバス。日本で初めてバスが走ったのは京都で、運行開始は明治中期、1903年の9月20日だった。日本バス協会はこれを記念して、9月20日を「バスの日」に定めている。

全国を走るバスの中でも、代表格の1つといえるのが東京都心部を縦横に走る東京都交通局のバス、都バスだ。

都バスは、1923年の関東大震災で大きな被害を受けた路面電車(東京市電、のちの都電)の代替として1924年1月に運行を開始したのが始まりで、100周年を迎えた。今は都区内の大半と多摩地区の一部に営業キロ約765km(2023年4月時点)の路線網を張り巡らせ、1日平均約57.4万人(2022年度)が利用する首都の足だ。

利用者数「2強」の路線はどこ?

数ある都バスの路線の中で、とくに利用者が多いのはどの系統だろうか。

都交通局は毎年度、1日当たりの乗車人員や収入、100円の収入を得るために要した費用を示す指標である営業係数を含む「系統別収支状況」を公表している。

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現状の最新版である2022年度のデータによると、1日当たり利用者数のトップは池袋駅東口(豊島区)と西新井駅前(足立区)を結ぶ「王40」系統で2万581人。2番目は、錦糸町駅前(墨田区)と門前仲町(江東区)を結ぶ「都07」系統の2万165人だ。渋谷や六本木といった繁華街を走る路線ではない。

「王40」系統は、池袋駅と東武スカイツリーラインの西新井駅をおおむね40分台で結ぶ路線。両駅間は鉄道だと最低1回の乗り換えが必要で運賃も400円を超えるが、バスなら直通で210円だ。

都バス 「王40」系統

夜の池袋駅東口で発車を待つ「王40」系統・西新井駅行き(記者撮影)

どんな路線なのだろうか。9月のある平日、夜の帰宅時間帯である19時台のバスに乗った。

同時間帯の池袋駅東口発は1時間に9本あり、6~8分おきと頻繁に走っている。停留所は長蛇の列で、バスは床が一段高くなった車内の後部まで立った客を乗せて出発。約20分後にJR京浜東北線の王子駅前(北区)に到着しても降りる客はなく、さらに多くの客を乗せて通路は満杯の状態に。

ようやく車内が空き始めたのは池袋から30分ほどの「豊島五丁目団地」。その名の通り、約5000戸があるUR都市機構の団地の前に位置するバス停だ。その後も立ち客の姿が消えることはなく、終点の西新井駅まで乗り通す人も少なくなかった。後部の座席で寝入っていた男性は「バスは座れれば楽ですよね」。鉄道では不便なルートを縫って走る、比較的長距離の利用者が多い通勤・通学の足といえそうだ。

西新井駅前 都バス 「王40」系統

西新井駅前に並ぶ「王40」系統のバス(記者撮影)

利用者多くても「儲かる」とは限らない

もう1つのドル箱路線「都07」系統も鉄道では乗り換えの必要な区間を結ぶが、こちらは途中でJR総武線の亀戸駅、都営地下鉄新宿線の西大島駅、東京メトロ東西線の東陽町駅・木場駅(いずれも江東区)と、複数の鉄道駅を「串刺し」にしている。

都バス 「都07」系統

錦糸町駅前と門前仲町を結ぶ「都07」系統(記者撮影)

都バス屈指の利用者数を誇るだけあって、便数は平日の日中でも1時間に8本以上と頻発している。

15時台の便は、座席がすべて埋まった状態で錦糸町駅前を発車。鉄道と乗り換えられる停留所を中心に乗り降りが多く、乗客は頻繁に入れ替わる。車内放送が流れる前に後者ボタンを押す人が目立ち、乗り慣れた地元客が多いことがうかがえる。門前仲町まで約30分、途中19カ所の停留所すべてで乗り降りがあり、通過した停留所は1つもなかった。

王40系統と都07系統、どちらも鉄道網の空隙を縫って走る地域住民の足だが、「儲かっている」のは都07系統のほうだ。1日の乗車料収入は309万円で、100円の収入を得るのに必要な支出を示す「営業係数」が78と、都バスの中でもトップクラス。一方、王40系統は乗車料収入こそ335万円と上回っているものの、営業係数はギリギリ黒字といえる96だ。

これは、系統によって支出額が異なり損益に差が出るためだ。支出は、全体の金額を年間の走行距離などで各系統に配分した額だという。年間の支出は王40系統が約13億5300万円なのに対し、都07系統は約9億9100万円だ。王40系統のほうが路線は長い。都交通局は「路線ごとの数値についてはケースバイケース」としたうえで、路線の長さや便数の多さなどによる経費の違いも「一因にはなりうる」とする。

都バス路線図 錦糸町駅周辺

錦糸町駅周辺の都バス路線図(記者撮影)

2022年度の系統別収支状況は「運行受託路線」を除く127系統が対象。都交通局によると、運行受託路線とは江東区からの委託を受けて運行している江東01系統・急行06系統の2系統だという。

この127系統のうち、営業係数が100未満の黒字路線は26系統のみ。実に8割は赤字という計算だ。都バスの看板路線的な存在である、渋谷駅前―新橋駅前間を結ぶ「都01」系統も営業係数は119。年間の赤字額は約1億4800万円だ。

都バス 「都01」系統

渋谷駅と新橋駅を結ぶ「都01」系統も赤字だ(記者撮影)

路線バスは以前から全国的に赤字が大半で、一部の黒字路線でその損失を埋め合わせてきたのが実情だ。日本バス協会の資料によると、30台以上のバスを保有する全国218のバス事業者のうち、黒字はわずか13事業者(データは2021年度)にとどまる。

都区内が中心の都バスであっても状況は厳しい。公営交通として採算性の低い路線も維持する役割を担っているとはいえ、2022年度は約17億8000万円の経常赤字だった。

「当たり前」に走るバスを維持できるか

全国でバス事業の厳しさに拍車をかけているのが人員不足だ。2024年4月からはドライバーの時間外労働時間の上限規制、いわゆる「2024年問題」の影響によって人繰りが困難になった各地のバス事業者が減便や路線廃止を余儀なくされている。

都交通局によると、都バスは「現状では、乗務員不足に伴う減便は行っていない」という。ただ、日ごろの運行で欠員が出た場合は「ほかの乗務員の時間外勤務や休日出勤により維持している状況」だ。

2023年12月に開かれた「都営交通の経営に関する有識者会議」第6回の資料によると、50代後半の乗務員が多く今後大量の退職が見込まれることなどから「中長期的には乗務員の確保が課題」としている。人材の確保はバス事業者に共通する大きな課題だ。

白い車体に黄緑とオレンジのカラーリングの都バス

白い車体に黄緑とオレンジのカラーリングの都バス(記者撮影)

日々当たり前のように多くの人々を乗せて走っている都バス。都心部で利用していると、まさか8割の路線が赤字だとは思わないかもしれない。だが、バスの苦境は過疎地や地方にとどまらず、都市部にも押し寄せている。都バスに限らず、「当たり前」の身近な足を今後も維持し続けるために何が求められるのか、バス事業者だけでなく利用者や社会全体で今まで以上に意識することが必要となってくるだろう。

乗車人員上位20系統

営業係数100未満・黒字の系統

営業係数下位20系統の表

(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)

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