コストコ大渋滞問題が暴露した「コミュニティーバス」の厳しい現実! 大商業施設オープンの交通計画に潜む盲点とは?

沖縄・新店舗開店で混乱拡大

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

 沖縄県の地元紙・沖縄タイムスが8月25日に報じた「コストコ開店で巡回バスは大幅遅延 1周約75分のルートが10時間に 運転手、途中下車でトイレ 沖縄・南城市」というニュースがネットで話題になった。このニュースはヤフーニュースにも転載され、28日午前8時の時点で約720件ものコメントが寄せられている。

 南城市は沖縄本島南部に位置しており、そこで発生した出来事が今回のニュースの焦点となっている。記事の内容を簡単にまとめると、次のようになる。

・コストコ新店舗オープンで南城市で大渋滞が発生。
・コミュニティーバス「Nバス」は通常75分のルートが約10時間かかる事態に。
・24日は全59便中26便しか運行できず、影響は続く見込み。
・Nバスは主に65歳以上の市民が利用、月平均利用者は1万5325人。
・渋滞でバス運行に支障が出て、市民からの問い合わせや警察への通報が相次ぐ。
・バス関係者は道路整備が不十分な中でのオープンに不満を示した。

 この出来事は、地域の公共交通と大規模施設の開店がいかに密接に影響し合うかを示している。また、地域計画とコミュニティーバス(コミバス)の計画は切り離せないものであり、その重要性を改めて認識することが必要だ。

全国に広がる遅延問題

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

 日本におけるコミバスの歴史を振り返ると、1995(平成7)年11月26日に東京都武蔵野市で始まった「ムーバス」が初の事例とされている。

 ムーバスは、武蔵野市の拠点駅である吉祥寺駅周辺で運行を開始した。当時の市長に、高齢者が「吉祥寺駅近くまで買い物に出難くて困る」との声を寄せたことから、住宅街を小型バスが走ることで

「移動権(すべての人が自由に移動できる権利。この概念は特に公共交通の利用に関わっており、誰もが必要な場所にアクセスできることを保障することを目的としている)」

を確保するコミバスのスタイルが確立された。

 これは、今日の買い物難民問題を先取りした画期的な取り組みであり、外出を支援することで、高齢者が加齢や病気によって心身の機能が衰えるフレイル状態を避ける助けともなった。このため、交通業界だけでなく、医療や福祉の分野からも注目を集めた。現在、ムーバスは武蔵野市が関東バス、小田急バスに委託して運行されている。

 国土交通省のコミバス導入ガイドラインによれば、コミバスは

「交通空白地域・不便地域の解消等を図るため、市町村等が主体的に計画し運行するもの」

と定義されている。通常は地域のバス事業者に市町村が委託する形で運行される。運行開始後、武蔵野市の政策を模倣する市町村が全国に広まったものの、コミバスを

「取りあえず走らせよう」

という流れができてしまった。

「住宅街をまめに回り、交通弱者の外出を支援する」

という本来の目標は薄れ、効率的な小型バスで地域を回ることが優先されるようになった。結果として、

「路線バスの代替」

として幹線道路を走るコミバスが増え、南城市のように渋滞に巻き込まれる事例が多発している。路線バスの渋滞問題から“学ぶ”ことがなく、深刻な遅れが生じ、地域の交通手段としての信頼を失う事態になっている。

 全国各地では、イベントや大型施設のオープンによってコミバスの運行が大幅に遅れるケースが増えている。観光都市や生活都市では、観光シーズンに道路が混雑し、コミバスの運行が著しく遅延し、高齢者や学生の日常生活に影響を与えることも多い。

 また、観光地での祭りやイベントの際にも、コミバスが交通渋滞に巻き込まれて運行が遅れる事態が頻繁に報告されている。これらの問題を防ぐためには、コミバスの効果を薄めない事前の路線計画が非常に重要である。

コミバスの現状と課題

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

 コミバスの主な目的は、“地域の足”を守ることだ。これは、路線を計画・運行する地方自治体が

「税金」

を投入しているからだ。税金を支払ってきた生活者のために、バスはしっかりと機能する必要がある。

 一方で、南城市のコストコのような商業施設や学校、観光施設は地域発展にとっても必要だ。大切なのは、これらの地域環境の変化に柔軟に対応することである。筆者(西山敏樹、都市工学者)は地方自治体から依頼を受け、コミバスの路線計画の委員を務めて、地域の変化に応じた

・柔軟な路線の再編
・運行ルートの新陳代謝

を大切にして活動してきた。

 コミバスが導入されて約30年がたつが、運行と維持には多くの課題が残っている。2024年問題など、バス事業に影響を及ぼす要因も多い。委託されたバス運行事業者のドライバー確保や運行管理に関する懸念もある。特に地方部ではドライバー不足が深刻化しており、委託契約を打ち切る事業者も出てきている。このように、コミバスの運行はさまざまな複雑な要因に直面している。

 地域環境の変化に対応するためには、市町村の地域公共交通活性化協議会を中心に、

・自治体
・バス事業者
・地域住民の代表
・学識経験者

などが協力して柔軟な運行計画を立案することが重要だ。単に路線を引くだけではなく、それを柔軟に変えていく姿勢が求められている。このような現状は、コミバスが地域の「ラストワンマイル」を担う上で大きな障がいとなる。早めに地域全体で手を打つ計画が重要なのだ。

柔軟な路線計画と実践の重要性

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

地域を走るさまざまなコミバス(画像:写真AC)

 南城市のケースでは、事前に柔軟な路線計画が実施されていれば、運行はもっとスムーズに行えた可能性がある。商業施設やイベントのオープンが地域で計画される際、行政や運行会社は交通状況の変化を予測し、迅速に対応できるシステムを整える必要がある。

 また、SNSなどを通じてバス利用者からのリアルタイムのフィードバックを活用し、即座にルートや運行計画を調整することがますます重要になる。

 地域の交通インフラを支えるコミバスが持続可能で快適な移動手段として機能し続けるためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)を背景にした柔軟で適応力のある運行計画が欠かせない。

 南城市の事例は、全国的なコミバスの運行上の課題を見つめ直すきっかけとなった。地域住民の生活を支えるためには、交通インフラと地域計画が連携し、迅速かつ柔軟な対応が求められる。こうした対応がコミバスの持続可能性の鍵を握るのだ。

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