ソウル市の「水上バス」10月に再出発! セウォル号の悪夢を乗り越え、交通革命は実現するのか

漢江活用策の再挑戦

2024年10月から運行される、マゴクからチャムシルまでの七つの船着き場を結ぶ水上バスのイメージ(画像:ソウル市)

2024年10月から運行される、マゴクからチャムシルまでの七つの船着き場を結ぶ水上バスのイメージ(画像:ソウル市)

 ソウル市の朝の通勤時間と夕方の帰宅時間は毎日大渋滞だ。何車線もある道路が車で埋め尽くされる。

 一方、電車は身動きが取れないほどの混雑で、2022年に起きた梨泰院の雑踏事故以降、圧迫に敏感な人が大きな声を上げることも珍しくない。また、坂が多いソウル市では自転車の人気は日本ほど高くなく、通勤に自転車を使うという発想はあまりない。

 韓国政府はこの状況を打開するため、漢江(ハンガン)を公共交通手段にする政策に再度挑戦した。日本で最も長い信濃川が367kmなのに対し、漢江は494kmと長く、流域面積は3万5770平方キロメートルで、一辺が189kmの正方形に相当する。これは日本一広い利根川の2倍以上だ。

「空いているスペースをどんどん活用しよう」

というのは、まさに韓国らしい発想だ。

 実は2007年10月に、水上タクシーを運行し、1日2万人の搭乗客を予想したことがあった。しかし、実際には1日の平均利用客は100人(0.5%)ほどで、船着き場が主要道路とつながっていないためアクセスが悪く、約570円という市民にとって負担となる料金が事業の失敗の要因とされた。

 今回、ソウル市はその失敗を挽回しようとしている。

水上バス、時間短縮を実現

漢江リバーバス停留所(画像:ソウル市)

漢江リバーバス停留所(画像:ソウル市)

 2024年10月から、マゴクからチャムシルまでの七つの船着き場を結ぶ水上バスが運行される。

・出勤時間帯:朝6時半から9時まで
・帰宅時間帯:夕方18時から20時半まで

は15分間隔で、それ以外の時間帯は30分間隔で運行し、

・平日:68回
・週末:48回

の片道運航が行われる。船の大きさは長さ35m、幅9.5mで、一度に199人が搭乗できる。平均速度は17ノット(時速31.5km)、最大速度は20ノット(時速37km)だ。

 通常、電車でマゴクからチャムシルまでの所要時間は約65分だが、車の場合は混雑していなくても76分かかる。この水上バスは、七つの停留所に止まる普通便で75分、三つのみ止まる急行便で

「54分」(電車の17%減、車の29%減)

で到着する。

 運賃は3000ウォン(約330円)で、地下鉄の2倍の料金だが、気候同行カード(1か月約6800円でソウル市の地下鉄・バス乗り放題)が適用されるため、乗り放題となる。

渋滞知らずの快適移動

チャムシル側の漢江。筆者撮影(画像:ジーナ)

チャムシル側の漢江。筆者撮影(画像:ジーナ)

 最大のメリットは、交通渋滞に巻き込まれることなく移動できる点だ。全席が指定席で、テーブルも設置されているため、船内のカフェテリアで購入した飲食物も楽しめる。

 他の交通手段と比べて非常に利便性が高い。また、移動中は漢江の美しい景色や夜景を楽しむために、パノラマの窓も取り付けられている。

 船着き場には、コンビニ、カフェ、飲食店などの施設や、乗客用の待合室も設ける。待合室や漢江リバーバスの船内には、リアルタイムで漢江リバーバスの現在位置や到着時間がわかる情報案内端末も設置される予定だ。

 ソウル市を代表する環境に優しい交通手段として、ハイブリッド船舶はディーゼルエンジンよりも約48%少ない二酸化炭素を排出する。

 10月に2隻が就航し、その後、年内にさらに6隻が就航する予定だ。その後は、徐々に運航台数を増やしていく計画になっている。

船の運行と気象影響

水上バスの停留所イメージ(画像:ソウル市)

水上バスの停留所イメージ(画像:ソウル市)

 公共交通では、アクセスのよさと定時運行が重要だ。しかし、船の運航は気象条件の影響を受けやすく、素人でもそのことは理解できる。強風や大雨、冬の寒波では運行ができなくなることが多い。ソウル市では冬に氷点下10度以下になることも珍しくなく、このような変動がある交通手段を市民が通勤・通学時に利用するのには抵抗があるかもしれない。

 さらに、船着き場までのアクセスが悪いため、バス路線の調整や、公共自転車を15から30台用意し、船内に自転車を設置する計画がある。しかし、猛暑や極寒のなかでわざわざ自転車をこいで船着き場まで行く人がどれほどいるだろうか。

 筆者(ジーナ、旅行ライター)の推測だが、船舶運航の安全に対する不安の声が一番多いと思う。韓国では、2014年に発生したセウォル号沈没事故で299人が亡くなったことが今も記憶に残っている。この事故は海で起きたものだが、船と聞けばこの事故を思い浮かべる人は多いだろう。

 船舶運航では、電車よりも安全管理の人材を配置し、運航従事者に安全教育を行い、定期的および随時の安全点検を行う必要がある。また、漢江警察隊、救助隊、海洋警察庁などとの緊急対応訓練を通じて、有事には迅速に対応できる体制を整えなければならない。

2025年に船着き場増設

水上バスの停留所イメージ(画像:ソウル市)

水上バスの停留所イメージ(画像:ソウル市)

 ソウル市は2025年以降、漢江リバーバスの主要船着き場を段階的に拡大する計画を立てている。

 この計画には、

・ワールドカップ競技場がある「サンアン」
・ヨンサン駅に近い「ノドゥル島」
・高速バスターミナルがある「バンポ」
・人気が高まっている公園「ソウルの森」

が含まれている。主要船着き場を増設することで、市内の交通アクセスが向上し、市民や観光客にとって便利で快適な移動手段を提供することを目指している。

 さらに、船舶数も段階的に増やす計画がある。新しい船舶を導入することで、漢江リバーバスの運行頻度を増やし、利用者の待ち時間を短縮することを目指している。これにより、漢江リバーバスはソウル市内の重要な交通手段のひとつとして定着し、より多くの人々に利用されることが期待されている。

 ソウル市が10月から開始予定の大規模な水上交通手段の運行開始まで、もうすぐだ。運行開始までにはまだ多くの課題が予想されるが、果たして10月に無事に運行が始まるのか注目される。また、どれだけの利用者がこの新たな交通手段を利用するか、今後の展開が非常に楽しみだ。

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