「高齢者を駅まで歩かせるのか」 関西でさらに深刻化するバス運転士不足、万博バス問題去ってまた一難! 現場は「地域の足守りたい」の悲痛声

関西各地で続くバス路線廃止ラッシュ

八幡市の石清水八幡宮駅前で出発を待つ京阪バス(画像:高田泰)

八幡市の石清水八幡宮駅前で出発を待つ京阪バス(画像:高田泰)

 関西の路線バス運転士不足がさらに深刻化している。残業規制の厳格化に加え、大阪・関西万博でのシャトルバス運行にも人を割かれ、バス会社の苦悩は深まるばかりだ。

 日本三大八幡宮のひとつに数えられ、標高143mの男山山上に鎮座する京都府八幡市(府南部)の石清水(いわしみず)八幡宮。9月中旬、ふもとの京阪電鉄石清水八幡宮駅を訪ねると、駅前で女性(72歳)が頭を抱えていた。

「来年3月でバス路線がなくなりそうなのよ。通院も大変になるし、京都市にいる孫の顔を見に行くのにも苦労しそうや」

 女性が示したバス路線は石清水八幡宮駅と戸津を結ぶ京阪バス八幡志水線。八幡市の走上り~戸津間が2025年3月での廃止を検討されている。残業規制の厳格化でこれまで以上の運転士数が必要となったのに、運転士を確保できなかったからだ。

 連絡を受けた八幡市は公共交通空白地域が生まれるとして京阪バスに再考を求めるとともに、代替交通を模索しているが、タクシー会社も運転士不足でコミュニティーバス運行が難しい。八幡市管理・交通課は

「これまでと違う視点で考えないと、対策が見つかりそうもない」

と対応に苦慮している。

交野市長「万博影響で運転士不足」

交野市の交野市駅前に到着した京阪バス(画像:高田泰)

交野市の交野市駅前に到着した京阪バス(画像:高田泰)

 大阪府北東部に位置する交野(かたの)市でも京阪バスが路線廃止を検討していることが表面化した。

 交野南部線など4路線で、廃止時期と考えられているのは八幡市と同じ2025年3月。交野市は京阪交野線やJR学研都市線が通るが、4路線沿線には駅まで歩いて15分以上かかる地域がある。

 万博に度々、疑問の声を上げてきた山本景市長は、SNS上で

「万博と取り合いになり、運転士確保が困難と聞く。理不尽な現状を訴えたい」

などと書き込み、万博のシャトルバス運行が影響を与えたと指摘した。

 阪急バスは長岡京線のうち、京都府向日(むこう)市の阪急東向日駅から大山崎町のJR山崎駅を結ぶ80系統と大山崎町の円明寺ヶ丘と長岡京市のJR長岡京駅を結ぶ82系統を10月で廃止する。町内はJR京都線や阪急京都本線が通るが、80系統が走る町役場付近は半径1kmに駅がない。

 阪急大山崎駅で話を聞いた会社員の男性(46歳)は

「高齢者も駅まで歩けということか。バス会社も町も冷たいな」

と首をひねった。京都府交通政策課は

「対策は町が対応すべきだが、必要があれば相談に応じたい」

と状況を注視している。

各地で運転士の引き抜き合戦

在りし日の金剛バス(画像:写真AC)

在りし日の金剛バス(画像:写真AC)

 関西では大阪府富田林市などで運行していた金剛バスが運転士不足を理由に2023年12月で廃業し、全15路線を廃止したのをはじめ、多くのバス会社が路線廃止や減便を続けてきた。その結果、公共交通空白地域があちこちで生まれている。

 運転士は給与水準が低く、乗客に細やかな対応を求められることなどから、若者に敬遠されている。このため、年齢層は

「50~60代中心」

である。未経験者を採用しても免許取得や教育に時間がかかり、即戦力にならない。そこで、運転士の引き抜き合戦の様相を示しているという。

 京阪バスは京都府南部と大阪府、滋賀県大津市などで路線バスを運行しているが、所属する運転士は2023年9月現在で約870人。京阪バス経営企画室の壇嘉宏課長は2024年5月の八幡市地域公共交通会議で

「4月現在で40人ほど、(5月)現在は70人ほど運転士が足りない」

と打ち明けた。

 京阪バスは2023年以降、大阪府寝屋川市や門真市、枚方市、京都府京田辺市などで路線廃止や減便を続けたが、今も必要な運転士数の約1割が不足している。運転士の給与引き上げも大きな効果を出せていない。担当者は

「路線網維持には縮小しかない。地域の足を切りたくて切っているのでないことを理解してほしい」

と訴えた。

万博は全国から応援で運転士確保

シャトルバスが発着する大阪市の桜島駅(画像:高田泰)

シャトルバスが発着する大阪市の桜島駅(画像:高田泰)

 山本交野市長が運転士不足を深刻化させる一因と指摘した万博のシャトルバスは、ようやく運転士確保のめどが立った。日本国際博覧会協会(万博協会)が全国のバス会社にシャトルバス運行会社への運転士出向を呼び掛け、約110人が集まる見通しとなったからだ。

 万博協会は大阪市此花(このはな)区のJR桜島駅から会場の夢洲まで1日最大290便のシャトルバスを運行し、約1万6000人を運ぶ計画だ。しかし、運行に当たる大阪シティバスなど7社で確保できる運転士は約70人。運行全体で180人程度の運転士が必要と見込まれ、運転士不足が100人以上に達していた。

 呼び掛けに応じたのは、岡山市の両備ホールディングス(HD)など約40社で、大阪シティバスなどが受け入れを決めた。両備HDは20人を大阪シティバスに出向させる。だが、シャトルバスが予定通りに運行できても、関西の運転士不足が解消されるわけではない。

 阪急バスは2023年以降、大阪府や兵庫県で路線を廃止してきた。その際、乗客が少ない、他社路線と競合する、鉄道駅に比較的近い区間などを選び、影響を最小限にとどめようとしてきたが、路線維持を求める沿線住民、地方自治体と運転士不足の間で苦しんできた。

「地域の足を守りたいし、関西を盛り上げるために万博に協力したいのが本音。それなのに、運転士不足が深刻すぎてどうにもならない」

と阪急バスの担当者。万博に朗報が届いても、バス会社の苦悩に終わりが見えない。

ジャンルで探す