すかいらーく「資さんうどん」買収がおいしい訳

北九州を中心に展開する資さんうどん。九州以外では大阪や兵庫にも出店している(撮影:金子 弘樹)

ファミレス大手すかいらーくホールディングスが、「資さんうどん(すけさんうどん)」を展開する資さんを子会社化すると発表し、話題となっている。

資さんうどんは、創業の地の北九州では、知らない人のいないブランド。1976年に福岡県北九州市戸畑に1号店をオープン後、1980年には法人化し、福岡県を中心に店舗展開を行ってきました。近年は関西圏で積極的な展開をしており、2024年冬には墨田区・両国に東京1号店のオープンも控えている。

さらなる店舗拡大を目指していた矢先での買収劇だが、筆者は双方にとって大きなメリットがあると考えている。その理由を3つに分けて解説していこう。

うどんといえば「讃岐うどん」という現状

目下、うどん業界はトリドールHDの「丸亀製麺」と、吉野家HDの「はなまるうどん」の2強だと言われている。

丸亀製麺は、売り上げ・店舗数ともに業界1位で、国内店舗数は850を超えている。一方のはなまるうどんは418店舗を展開。ここ3年は業績が低迷していたが、不採算店舗の閉店と、既存店の収益向上を行い、V字回復を実現している。

うどん業界の”2大巨頭”に共通しているのが、「讃岐うどん」を掲げ、コシのあるうどんを提供している点だ。両店の勢いが象徴しているように、日本ではうどんといえば讃岐うどんという印象が強く、うどんにはコシがあって当たり前だと考える人も少なくない。

【写真】北九州を展開している資産うどん。一番人気は「肉ごぼううどん」だが、丼ものやカレーライス、スイーツなどメニューの幅が広い

それを決定付けたのが2000年前後に起きた、空前の讃岐うどんブーム。1988年の瀬戸大橋開通がきっかけといわれる第2次讃岐うどんブーム以降、多くのメディアで讃岐うどんが取り扱われ、1990年半ばには第3次ブームが起きる。

現地の製麺所を巡る人も急増するとともに、讃岐うどんの店舗が東京へ続々と進出。2000年には、丸亀製麺とはなまるうどんが登場し、讃岐うどんの地位向上に一役買っている。

資さんうどんはブルーオーシャン狙える?

一方、福岡のうどんの特徴はその柔らかさにある。資さんうどんの場合は、讃岐うどんと福岡うどんのちょうど中間のような硬さのため、例えば高齢者などコシのあるうどんが苦手な人にも受け入れられる余地がある。すなわち、ブルーオーシャンといっても過言ではない。

すかいらーくHDには、和食レストランの「夢庵」や「藍屋」があるが、うどん専門店は傘下にない。資さんうどん買収は 業態ポートフォリオを豊かにしながら、店舗数を増やしていける点にメリットがあると言えるわけだ。

すかいらーくHDは、コロナ禍で「ガスト」や「ジョナサン」といった主要ブランドを含む店舗を大量に閉店させているため、ポストコロナ社会で次の成長の柱に育てられるという期待もあるだろう。

片や資さんうどんも、近年の積極的な出店戦略をとっているものの、長年北九州を中心に展開をしてきたが故に、全国で展開していくノウハウがない。それが2番目のメリットにつながる。

はなまるうどんは、かつて店舗の拡大に苦戦した過去がある。東京に1号店を出した当時は、セルフ式の讃岐うどんの店舗がめずらしかったこともあり連日大盛況となり、順調に店舗数も伸ばしたが、急拡大の結果、人材や商品の品質に支障が出るように。そうした課題の解決の手段として吉野家HDの傘下に入り、店舗数を伸ばしていくことになった経緯がある。

この事例からもわかるように、店舗の拡大にはノウハウが欠かせない。その点、すかいらーくはいくつものブランドを抱え、6月末の店舗数は2964を超えるのでノウハウは蓄積されている。

店舗を拡大させる際、特に大きな壁になるのが、物件と食材、そして人手の確保で、それは、そのまま飲食店の3大コストといわれる家賃、原材料費、人件費につながる。

現在、家賃と原材料費が高騰し、人手不足に伴う人件費の高騰が続く中、いい物件を見つけ、適正な仕入れを行い、必要な人手を確保する難易度は、数年前よりも上がっていると言える。だからこそ、豊富なノウハウを持つすかいらーくHDの傘下に入るメリットは大きい。

DXのノウハウを得ることができる

中でも大きなアドバンテージになりそうなのがDXの推進である。すかいらーくHDは、今のファミレスになくてはならない「呼び出しベル」や「ドリンクバー」などをライバルに先駆けて導入し、新しい業界の基準を作ってきた。それはDXの推進でも同じ。コロナ禍でネコ型の配膳ロボットをいち早く導入し、話題を呼んだことを覚えている方も多いのではないだろうか。

(写真:すかいらーく提供)

資さんうどんは、うどんだけでなく、丼ものやカレーライスなども提供しており、効率化が必須の業態。店舗が拡大すればするほど、誰がやっても同じ水準でできるオペレーションの確立も必要だ。そうした環境をつくる上で、すかいらーくHDのノウハウが生かされるのはないか。

すかいらーくHDの傘下に入るメリットとして、一番大きいのが出店場所の選択肢が増えることだ。すかいらーくHDは店舗数もさることながら多様なブランドを持っているからこそ、豊富な物件情報を持っている。

同社ブランドであれば失敗する確率も下げられるため、入ってほしいと考えている物件オーナーも少なくないだろう。いい条件でいい物件に入ることはブランドの成功に欠かせない。その点だけを取っても、資さんうどんには大きなメリットがある。

狙い目はフードコートへの出店

その1つがフードコートへの進出だ。これまですかいらーくHDは、ロードサイドでの展開を強みとして、店舗の拡大を図ってきたが、5月31日に発表された「統合報告書 2023」の中で、「商業集積地区への出店」や「大都市圏の私鉄沿線駅前への出店」「地方都市の駅前への出店」「地方中規模都市への多業態出店」の可能性に触れている。

駅前立地でいうと、かつて「Sガスト」というカウンター席中心の業態を開発し、首都圏の駅前に展開を行っていたことがあるが、2020年7月で店舗が閉店したという経緯がある。

これはどういう意味かというと、ロードサイドだけでなく、駅前のある程度坪数の小さな物件情報も持っているということだ。そこに、資さんうどんが入ることも予想される。

資さんうどんは、この7月に3日間限定で、東京でポップアップを展開し、ミシュランガイド、ビブグルマン3年連続受賞の「香川一福」の隣という立地だったにもかかわらず大盛況を博しており、駅前でも成功するポテンシャルを持っている。

また、それが布石となり、商業集積地の1つの選択肢としてショッピングモールのフードコートへの出店も考えられる。フードコートに行ったとき、うどん店に行列ができているのを見たことがある人も多いだろう。特に多いのが家族連れだ。キッズメニューを用意して、おまけを付けているお店も少なくない。

すかいらーくは「ガスト」を中心に、家族連れの集客を得意としており、その強みを生かしながら資さんうどんをフードコートで展開することもできるのではないか。

外食業界で注目されるフードコート

現在、外食業界でフードコートに対する関心は高まっている。フードコートはテナント料が取られるものの、ホールがない分、スタッフを雇う必要がない。

また、ショッピングモール自体が集客をしてくれるので、ある程度の売り上げを見込むことができる。そうした背景もあり、コロワイドが「牛角焼肉食堂」というフードコート専門店をつくって急速に店舗を広げたりしている。

施設側も、フードコートは集客装置であるにもかかわらず、どこも似たり寄ったりのラインナップになりがちなので、特徴のあるブランドを入れたいという思いがある。そうしたニーズを資さんうどんが満たしていく可能性も十分に考えられるだろう。

(三輪 大輔 : フードジャーナリスト)

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