すかいらーく「資さんうどん」買収は意外じゃない
ファミレス最大手のすかいらーくホールディングスは、9月6日に福岡県を中心にうどんチェーン「資さんうどん(すけさんうどん)」を展開する株式会社資さんを買収すると発表した。
投資ファンドのユニゾン・キャピタルなどから全株式を取得し、子会社化する。取得価格は240億円で、株式の譲渡は10月中に行われる見込みだ。
ガストやジョナサンなど、ファミレスが主力のすかいらーく。なぜ今うどんチェーンの買収に乗り出したのか。
神田の期間限定店舗にも行列
資さんうどんは創業者の大西章資氏が北九州市で創業。値頃感や提供時間の早さを売りに北九州のソウルフードとして親しまれている。うどんは讃岐うどんよりもやわらかくもちもちとした食感が特徴で、ごぼうの天ぷらや甘く煮込まれた牛肉などをのせるメニューが多い。
セルフサービスではなく、席に着いてから注文するフルサービスのレストランで、うどん以外にもそば、カレーやおでん、おにぎりなど豊富なメニューが用意されている。
九州以外での出店も進め、2023年11月に大阪市で関西初の店舗を出店。現在は大阪府と兵庫県で合わせて5店舗展開する。今年7月には東京・神田で3日間限定のポップアップストアを出店。暑い中でも行列ができるなど、人気ぶりを見せつけた。関東では今年中の出店を計画する。
資さんうどんは、現在すかいらーくHDが持つブランドよりも低価格帯で商品を提供している点が特徴だ。例えば、かけうどんは税込み380円で、わかめうどん(同470円)やきつねうどん(同490円)、ざるうどん(同500円)など、500円以下の商品も充実している。
また、立地に関しては、郊外のロードサイドを中心に展開しており、ファミレスの居抜き物件を活用できる大型店舗の展開も可能だ。
すかいらーくHDにとって、資さんうどんは出店拡大の武器になる。グループはこれまでも、自社競合の解消に力を入れてきた。特に主力のファミレスでは自社競合による影響が大きい。
業態転換で売り上げ倍増の店も
すかいらーくHDの店舗は2024年6月末で2964店舗。うちファミレス業態(ガスト・バーミヤン・ジョナサン・夢庵)は約2000店舗。ガストだけでも1256店舗あり、自社競合が起こる地域は多く存在する。
そこで、競合している店舗をほかのブランドに変更してきた。近隣にある同じブランドの店舗やグループ内の店舗同士で顧客を奪い合う状態を解消し、各店の売り上げを向上させることが目的だ。
すかいらーくHDの金谷実社長は昨年、決算説明会で「八戸に2店舗あったガストのうち1店舗をしゃぶ葉に転換したところ、(ガスト時代と比較して)売り上げが2.4倍になった。もう1店舗のガストもカニバリが解消され、売り上げが22%上昇した」と手応えを語っていた。
多数の業態を持てば、同じ地域により多くの店舗を出店できる。ファミレスからの業態転換は、しゃぶ葉やとんから亭などの専門店に変わることが多い。今後、資さんうどんも業態転換に活用されることになる。
同一地域に多くの店舗を構えることで、配送効率が高まる面もある。すかいらーくHDは自社工場から各店舗へ配送している。店舗を集中させることで、配送コストの低減にもつながるのだ。
ただ、買収に伴う懸念もある。買収金額の240億円は資さんうどんの規模を考えると高額だ。株式会社資さんの純資産は約24億円で、買収後には210億円程度ののれんが発生することとなる。
すかいらーくHDは2006年に、創業家や野村プリンシパル・ファイナンスによるMBO(経営陣による買収)によって非上場化、2011年にはアメリカのファンド、ベインキャピタルへ売却されている。
その際にものれんが発生しており、現在は約1400億円超に膨らんでいる。すかいらーくHDは国際会計基準を採用し、毎年ののれん償却は必要ないが、のれんの膨張は経営上のリスクでもある。
さらなるM&Aの弾みにできるか
さらに、株式会社資さんの2023年8月期は1億9800万円の最終赤字で、2024年8月期は9300万円の最終黒字を見込んでいる。利益額が小さく、投資回収に時間がかかる可能性もある。
こうした点について、すかいらーくHD側は一定期間で投資回収が十分可能との見方だ。収益力についても、現状、一時費用を除いた平常ベースのEBITDAで20億円近い収益力があると評価している。
「当社のサプライチェーンや立地開発能力を活用し、短期間で規模拡大が見込める。コスト削減も可能で、グループの既存店舗の転換候補のブランドとして活用し、全体の店舗のポートフォリオの最適化に貢献すると考えている」(担当者)
コロナ禍を乗り越え、再び成長へ舵を切ったすかいらーくHD。新中期事業計画では2024年からの3年間で3~5件のM&Aの実施を目指している。会社側が言及するように、資さんうどんを活用した業態転換を着実に進め、成功事例を積み重ねることが今後のポイントになりそうだ。
(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)
09/11 08:00
東洋経済オンライン