駅名で知名度抜群「東武動物公園」どんなところ?
みなさん、東武動物公園を知っていますか――。
たとえば東京都心の人たちにこんな質問をしたら、だいたいの人は「知ってるよ、埼玉の北のほうにある駅でしょ」などと答えるにちがいない。
もちろんそれはその通り。東武スカイツリーラインの終点は、東武動物公園駅だ。スカイツリーラインと直通運転をしている地下鉄日比谷線・半蔵門線、東急田園都市線にも「東武動物公園行き」という電車が走っている。だから知名度はなかなかに高い。
"実際の"東武動物公園は…
そんな楽しそうな名前なのだから、もちろん駅の近くには、あの耳に残るテーマソングでおなじみ、「ハイブリッド・レジャーランド」を冠する東武動物公園がある。
1981年にオープンした、その名の通り東武グループの動物公園だ。駅が杉戸駅から改称したのも1981年のこと。西口から歩いて10分ほどのところにある。
東武動物公園は、東西に細長く、東と西にそれぞれあるゲートの間の距離は約2km。つまり、園内を端から端まで歩いたら30分はかかるということだ。これは脇目も振らずに歩いたら、という時間だから、くまなく回って楽しみ尽くしたら、1時間2時間どころか丸一日使っても足りるかどうか。むやみやたらに歩いても、とうていその魅力の本質を見つけることは難しい。
というわけで、今回は東武動物公園を運営する東武レジャー企画の鈴木瑛斗さんに園内を案内してもらった。どんなところなんですか?
遊園地と動物園
「東武動物公園は、ちょうど真ん中あたりにある観覧車を境にして、だいたい東側がアトラクションのある遊園地、西側が動物園に分かれています。いちばん西にはプールもあって、夏休みシーズンにはたくさんの方でにぎわいます」(鈴木さん)
遊園地エリアには、定番のローラーコースターからメリーゴーラウンド、お化け屋敷などのアトラクションがずらり。昔ながらのメリーゴーラウンドは、ドラマなどのロケにも使われるという。
もともとは沼地だったらしく水辺も多く、そこではスワンボートなども楽しめる。子ども向け、0歳から楽しめるアトラクションも用意されている。そんな中、鈴木さんがすすめるのはやはりローラーコースター。
「水上木製コースターの『レジーナⅡ(ドゥーエ)』は、以前あったレジーナをリニューアルして2023年3月にオープンしました。それにあわせて世界観も「スチームパンク」に統一。ガタガタした木製ならではの乗り心地が楽しいですよ。ちなみに、レジーナⅡのメーカーはグレート・コースターズ・インターナショナル。アメリカのコースターメーカーで、日本国内では初めての採用例です」(鈴木さん)
コースターを乗り比べられる
東側のゲートからも見える、木で組まれた走路の足場。所要時間は3分ほどで、最高速度は時速90kmに達するという。木の軋む音もスリルを加速する、東武動物公園の目玉の1つだ。
ちなみに、もう1つのコースターは「カワセミ」という。こちらは木製ではなく鉄製のコースター。鈴木さんによれば、カワセミとレジーナⅡは乗り心地からしてまったく違うのだとか。だから、2つのコースターを乗り比べて楽しむお客も少なくないそうだ。
そして、今回は特別に「カワセミ」の車両点検の様子も見せてもらうことができた。車両は2編成あり、毎日交互に運転される。運転されない車両が点検中、というわけだ。
教えてくれたのは、コースターの整備担当、松本真和さんと吉川祐希さん。
「鉄のレールを3方向から車輪で挟み込んで走る仕組みで、点検では車輪の機構がスムーズに動くかといったことや、座席の安全装置がきちんとロックされるかなどのチェックをしています。点検ピットではレールの一部を外すことができるようになっています」(松本さん)
担当者が語る整備の裏側
一般的にローラーコースターは、最初に高いところまで引き上げたあとは、自然に落下するエネルギーだけで最後まで走り抜ける。車体側にモーターなどは一切使われていないのだ。そのため、構造はある意味でシンプル。レールを挟み込む車輪機構がいわば心臓部、ということになる。
「気温によって車輪のベアリングの状態が変わるため、真冬は真夏より運転時間が7秒長くかかります。なので季節によって抵抗を調整をしています。こればかりは経験値がものを言う仕事ですが、ピットで点検しながら、お客さまがワーワー、キャーキャー言って乗ってくれているのを見るとうれしいですね」(松本さん)
コースターは毎朝営業前に試運転をする。3度の試運転のうち、最後は自ら乗って確かめる。
「カワセミの場合は全体がよく見える一番後ろに乗って、何両目の振動が少し大きそうだとか、乗り心地を確認しています。毎日乗っていると自転車と変わらない感覚になりますよ」(吉川さん)
そろそろ動物園ゾーンにも足を延ばしてみよう。動物園ゾーンの目玉は、なんといってもホワイトタイガーだ。入場ゲートの正面にもホワイトタイガーのお顔があしらわれていて、関東地方では東武動物公園だけで見ることにできるという“レアな動物”なのだ。
取材で訪れたときは、ちょうど保育園か幼稚園か、子どもたちが見学にやってきていた。
バックヤードをのぞかせてもらうと、飼育員さんがホワイトタイガーに肉をあげ、そこで立ち上がるタイミングで子どもたちとの記念撮影中。最近はこうしたサービスも提供しているのだという。
ライオンからホタルまで勢ぞろい
動物園ゾーンには、他にもライオンからキリン、ペンギン、アザラシ、ゾウ、カバ、シカ、サル、フラミンゴ、バイソン、さらにはホタルまで……と、まあ、ありとあらゆる動物たちが勢ぞろい。
中には「ふれあい動物の森」と名付けられたエリアもあって、ここではウサギやモルモット、ヤギなどの動物にエサをあげたり触ったりすることができる。ポニーの乗馬体験コーナーもあって、小さな馬場をぐるぐると。こうしたエリアまで用意されていれば、子どもたちならば何時間いても飽きることはなさそうだ。
そんな動物園ゾーンにも、いくつか工夫が行われている。たとえば、サル山だ。
「サル山は、以前は山が1つだけだったのですが、今年春のリニューアルで2つにしました。水辺と日陰もあって、サルも少しは涼を取れるんじゃないかな、と。実際に眺めていると、滝壺に飛び込むサルもいて、動きが大きくなってなかなか楽しいですよ」(鈴木さん)
厳重なバックヤード
体重が4~7トンになるという巨大なアフリカゾウの飼育エリアも見せてもらった。
かつては柵の中に飼育員が入って世話をする“直接飼育”だったが、危険性も高く最近では行われなくなっていた。しかしそれでは、たとえば足の裏などのケアが難しい。そこで、バックヤード側に巨大な柵を設け、扉から足を出してもらってケアをすることができるようにしたのだとか。
「ゾウは長い鼻を自由自在に使います。柵から鼻だけ出してエサをつかんで食べたり、ひまつぶしに自分の糞を鼻でつかんで投げたりするんです」
ゾウの飼育員、疋田喬之さんはこう話してくれた。ゾウさんの意外な生態を知ることができるのも、動物園のおもしろいところだ。
と、急ぎ足ながら園内を巡ることができた。最近では人気アニメのコラボイベントなども行っているといい、園内のあちこちでアニメキャラクターのイラストパネルを見かけることができる。アニメのファンならば、飽きずに歩くことができそうだ。
「こうしたコラボイベントをすることで、いままでは来園しなかったような方も来てくれる。せっかく来たのだからと動物やアトラクションも楽しんでもらえます。そうした体験を通じて東武動物公園に興味を持ってもらえたら、と思っています」(鈴木さん)
どこから訪れる人が多い?
東武動物公園のゲートは東と西にそれぞれあって、東側が東武動物公園駅に近い。西側は駅から歩けるような距離ではないが、代わりに巨大な駐車場が設けられている。クルマで来るなら西ゲート、電車で来るなら東ゲート、という役割分担だ。
「東武動物公園駅の名が知られているおかげなのか、都心のほうから来園されるお客さまもかなりたくさんいらっしゃいますよ。足立区にお住まいの方が、実はとくに多いんです」(鈴木さん)
東武沿線に暮らし、休日は東武の電車で東武動物公園へ。言われてみれば、よくできた“沿線開発”だ。が、ここでどうしても気になるのは、電車でやってきて東ゲートから入ったお客は、園内西側に行くまでに2kmも歩かねばならないのだろうか。
「もちろん園内にはみどころがたくさんあるので、歩いて移動しても退屈はしないと思いますが、東西を結ぶシャトルバスも通っています。また、園内には東ゲートから中央までを結ぶ小さな鉄道、『太陽の恵み鉄道〜パークライン〜』も通っています」(鈴木さん)
終着駅でなく玄関口
東武動物公園駅は、ただの“東武スカイツリーラインの終点”などではない。駅を降りて、東武動物公園に近い西口に向かう橋上の自由通路には、動物公園へのワクワクを高めてくれるイラストがある。かつて東武鉄道の工場があった西口一帯も、いまはすっかりキレイに様変わりしている。
東京・北千住駅から東武動物公園駅までは、急行に乗って30分ちょっと。特急ならば、30分もかからない。そこから歩いて約10分。ちょっとしたスリルと動物の癒やしと、そして学び。丸一日いても飽きることがなさそうだ。
(鼠入 昌史 : ライター)
09/12 07:00
東洋経済オンライン