110カ所超の「遊園地」巡った"会社員夫婦"の幸せ

遊園地だいすきユニット369days

としまえんにあったメリーゴーランド(写真:369days提供)
仕事が終わって帰宅したら疲れて何もできない──。そんな人がいる一方で、時間、体力、お金をやりくりしながら趣味に没頭するビジネスパーソンがいる。彼らはなぜ、その趣味にハマったのか。どんなに忙しくても、趣味を続けられる秘訣とは。連載 隣の勤め人の「すごい趣味」では、仕事のかたわら、趣味をとことん楽しむ人に話を聞き、その趣味の魅力を深掘りする。

まばゆいばかりにキラキラと光るメリーゴーランド。来園者を乗せて、広大な園内をゆっくりと巡るミニトレイン。スリルやスピードを味わえる、数々のアトラクション。遊園地には、多くの人の子ども時代の懐かしい思い出が詰まっている。

遊園地と聞くと、子どもが楽しむ場所と思い込みがちだが、「大人でも楽しめる」と熱く語ってくれたのは、「メリーゴーランド&遊園地だいすきユニット 369days(みるくでいず)」のmikko(みっこ)さん・milford(みるふぉーど)さん夫妻。

会社員として働きながら、夫婦で遊園地を巡る

これまで訪ねた遊園地は、110カ所以上に上る。

【写真24枚を見る】遊園地が大好きな2人がオススメする、全国各地の遊園地を見る

さらに屋上遊園地、公園やアミューズメント施設の敷地内にたたずむ乗り物にも着目し、全国各地を巡っている。2013年に「369days」を結成し、関係者への取材やホームページなどでの情報発信にも積極的だ。mikkoさんが取材と執筆を、milfordさんが撮影や本の制作を担当している。

メディアに登場する機会も増えており、2024年5月には全国のメリーゴーランド約130基中100基以上に乗った夫婦として「マツコの知らない世界」に出演した。

そんな2人は、毎朝出社してフルタイムで働く会社員でもある。遊園地に魅了された理由、趣味と仕事のバランスに迫った。

先に遊園地に魅了されたのは、mikkoさん。幼いころからよく遊びに行った奈良ドリームランドが2006年夏に閉園することになり、最後の夏に家族で訪問した。

その際、「閉園は止められないけれど、いまある遊園地の魅力を伝えたい」と感じたことをいまも覚えているという。

大学生となったmikkoさんは、遊園地をテーマにした卒業論文を執筆し、大学院生のときには屋上遊園地の「ミニトレインのおねえさん」のアルバイトも経験。遊園地のさまざまな魅力や遊園地に関わる人たちの思いを知り、ますます夢中になっていった。

そんなmikkoさんと大学で出会い、お付き合いを始めたmilfordさん。遊園地の魅力を知るのにそれほど時間はかからなかった。

milfordさんが特に心惹かれたのは、奈良と大阪の県境にある生駒山上遊園地。ここには日本初のケーブルカーや、1929年の開園当初からある「飛行塔」がいまも現役で稼働している。飛行塔は戦時中、海軍航空隊の防空監視所として利用された歴史あるアトラクションだ。

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生駒山上遊園地の飛行塔(写真:369days提供)

「mikkoさんから生駒山上遊園地の飛行塔の話を聞いて、遊園地はいろんな観点で見るとこんなに楽しめるんだとわかり、私もどんどん遊園地を好きになっていきました」(milfordさん)

芸術性の高いメリーゴーランド

冒頭でも触れたように、mikkoさんは「遊園地は大人になってからが面白い」と力説する。なぜ大人も楽しめるのだろうか。

「子どものころはアトラクションしか目に入らないんですよ。でも、大人になると知識が増えて、遊園地にまつわる歴史や立地、遊具の芸術性や構造にも興味を持てるようになります。子どものころと違う、新しい観点で楽しめるようになるんです」(mikkoさん)

そう言って見せてくれたのが、2枚のメリーゴーランドの写真だ。

1枚目はルスツリゾート(北海道)にある2階建てメリーゴーランドである。

「これはドイツの木馬職人、ピーター・ペッツさんが制作したものなんです。同じ方が制作したメリーゴーランドをマイケル・ジャクソンさんも所有していました。色や模様、屋根の形、てっぺんについている飾りを見てみてください。大人も鑑賞したくなるような芸術性があると思いませんか?」(mikkoさん)

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ルスツリゾートにある2階建てのメリーゴーランド(写真:369days提供)

2枚目の写真は、としまえん(東京都・2020年閉園)のカルーセルエルドラド。ドイツの機械技師ヒューゴ・ハッセ氏が1907年に製作したメリーゴーランドで、アールヌーヴォー様式の装飾が目を引く。

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としまえんにあったメリーゴーランド(写真:369days提供)

「ヨーロッパ各地を巡回したあとアメリカに渡り、その後としまえんに買い取られて閉園まで稼働していました。いまは解体されて倉庫で大切に保管されているそうです」(mikkoさん)

メリーゴーランド一つとっても、これだけ個性的で、調べれば新しい発見がある。mikkoさんのいう「遊園地は大人になってからが面白い」の一端がわかった気がした。

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萌木の村のメリーゴーランド(写真:369days提供)

「メリーゴーランドは当たり前に遊園地にあるものなので、私たちがその魅力に気づいたのも割と最近なんです。萌木の村(山梨県)のメリーゴーランドが大人の雰囲気で素敵だなと思ったのをきっかけに、各地のメリーゴーランドにも注目するようになりました。どのメリーゴーランドも個性的だったり、意外な歴史があったりして魅力的なんですよね」(milfordさん)

ミニトレインや屋内ライドにも夢中

2人はメリーゴーランドだけでなく、施設内をゆっくり走るアトラクション「屋内ライド」や「ミニトレイン」も大好きだという。

「屋内ライドは、360度どこを見てもつくり込まれていて、屋内だから世界観に浸りやすい。メルヘンやホラー、シューティングなど、ジャンルもさまざまで楽しいですよ」(mikkoさん)

その1つが、日本最古の遊園地、浅草花やしき(東京都)のスリラーカーだ。1951年から稼働しており、歴史があることで有名な同園のローラーコースターより「2年も先輩」なのだという。

「ミニトレインはその名のとおり、園内を走る小さな鉄道です。歩くことに気を取られず、周りの風景をゆっくり楽しめるのがいいんです」(mikkoさん)

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浅草花やしきのスリラーカー(写真:369days提供)

イチ推しは、東武動物公園(埼玉県)の太陽の恵み鉄道パークライン。園内に駅があり、移動手段としての役割もあるミニトレインだ。蓮沼海浜公園(千葉県)のミニトレインは走行距離日本一で、2.1kmを約20分かけて走る。

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東武動物公園の太陽の恵み鉄道パークライン(写真:369days提供)

また、ネオパークオキナワ(沖縄県)のミニトレインは、戦前にあった沖縄軽便鉄道を再現したもの。どれもこれも、唯一無二の個性がある。

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ネオパークオキナワのミニトレイン(写真:369days提供)

全国各地の遊園地の特徴を把握している2人は、普段からExcelやGoogleマップを活用して、行きたい遊園地や、乗り物のあるスポットをリストアップしている。

旅の目的地となる遊園地を決めたら、その周辺の乗り物スポットも併せて巡る。閉園した遊園地のガイドブックを持参して、その跡地に建つ公園や施設を巡り、ありし日の遊園地に思いを馳せることもある。

遊園地巡りで大切にしていること

初めて訪れた遊園地で大事にしているのは、まずは何も考えずに思いきり楽しむことだ。

「ファーストインプレッションを大事にしたいので、初めての遊園地では情報収集をしすぎないようにしています」(milfordさん)

「私たちは『遊園地だいすきユニット』なので、遊園地の中で好きなポイントを必ず見つけるようにしていますね」(mikkoさん)

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369daysのmikkoさん(右)・milfordさん夫妻。サントピアワールドにて(写真:369days提供)

目いっぱい楽しんだ後の2人の楽しみが、遊園地の情報収集だ。多いのはネット検索だが、さらに調べたいときは国会図書館で昔のガイドブックを探したり、業界紙のデジタルアーカイブを見たりする。地元紙には開園当時の記事や遊園地の広告が載っているため、マイクロフィルム化された当時の新聞を2人で手分けして調べることもある。

こんなふうに遊園地を楽しむ2人は、普段は会社に出社し、フルタイムで勤務する会社員だ。mikkoさんは通勤時間や昼休みを活用して、遊園地の情報を検索するのが日常茶飯事という。

「楽しいことが待っているから仕事をがんばろう!とモチベーションが上がりますし、仕事と関係ないことを考えることで頭がリフレッシュしていいアイデアが浮かぶ気がするんです」(mikkoさん)

遊園地巡りはもっぱら会社が休みの土・日・祝日だが、仕事終わりに2人で待ち合わせして都内の遊園地を満喫することもある。また、一人旅で遊園地を訪ねることもあるそうだ。

趣味と仕事の両方から学んだこと

そんな趣味と仕事は互いに良い影響を与え合っている、と2人は口を揃える。

「仕事も趣味も、どちらも真剣に取り組めばいい結果を出すことができます。それぞれの経験で得た自信を生かし合っている感じです」(mikkoさん)

「仕事と趣味はまったく違うものですが、チャレンジの側面がある点は共通しています。新しいことにチャレンジする方法を双方から学べていると感じています」(milfordさん)

2人はこの8月、「大人も遊園地に行きたくなる」をコンセプトにしたフリーペーパー『ゆうえんちdays』を創刊し、活動の幅をさらに広げている。

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フリーペーパーの『ゆうえんちdays』(写真:369days提供)

「以前、閉園してしまうことになった遊園地を取材させていただいたことがあるんです。園長さんに完成した冊子をお渡ししたとき、『宝物にします!』と言われたことが忘れられません。活動を通して出会った方々からうれしい言葉があるから、長く続けられているんだと思います。自分たちの好きなポイントをもっとみんなに伝えたい。それによって遊園地がさらに盛り上がるといいなと思っています」(mikkoさん)

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(横山 瑠美 : ライター・ブックライター)

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