「いつも忙しい人」肝に銘じておくべき3つの心得

いつも時間に追いまくられていると抑うつ状態になりやすいという(写真:玄武/PIXTA)
通信技術の発達により便利になったはずの現代社会ですが、実際には、いつも「時間がない」と追いまくられている人も多いのではないでしょうか。そんな「時間のなさ」の弊害と対処法を「ビジネス心理学」の第一人者・内藤誼人氏が解説します。
※本記事は『すぐに実践したくなる すごく使える社会心理学テクニック』(内藤誼人 著)を一部抜粋・再編集しています。

私たちを追い詰める「時間がない」状態

仕事のスケジュールを組むときには、70%から80%の力を出せばなんとかなるようにしておくのがよろしいでしょう。

100%の力を出さないと到底間に合わないようなスケジュールにしてはいけません。なぜかというと、心が折れてしまうからです。

アメリカ・ケント州立大学のスーザン・ロックスバーグは、790名の成人に対する調査から、「時間がない」ことが精神的に私たちを追い詰めてしまうことを明らかにしています。

「あなたは、たえず時間に追いまくられているように感じますか?」という質問に「イエス」と答える人ほど、抑うつになりやすく、心理的な悩みを抱えていることも多くなることがわかったのです。

特に、女性はそうでした。女性は、男性に比べると仕事だけでなく、家事の負担も多い傾向があるので、「時間に追いまくられている」と感じやすくなるのであろうとロックスバーグは指摘しています。

スケジュールはできるだけゆるやかにしておくのが正解です。

スケジュールに空きがあるのがイヤで、キツキツになるくらい仕事を入れようとする人もいますが、心理学的にはよくありません。スケジュールはスカスカしているくらいでちょうどいいのです。

スケジュールに余裕があると、心理的にも余裕が持てます。

「どうしよう? このままで間に合うかな?」と時計とにらめっこしながら仕事をしなければならないのは、苦痛でしかありません。少しの期間ならなんとかなりますが、それが続くと燃え尽き症候群になる可能性も高くなります。

ですので、そうならないよう、スケジュールにはいつでも余裕を入れておくのです。

仕事というのは「予想外のこと」が起きるもの

仕事というものは、予想外のことが次から次に起きるのが普通です。スケジュールに余裕があれば、予想外のことが起きてもへっちゃらです。

予備日のようなものを最初から確保しておけば、慌てることもありません。予備日を潰せばいいのですから。

私は、締切りに追いまくられるのがイヤですので、締切りの1カ月前には原稿を書き終えるようにしています。

自分では「8月末には脱稿できそうだな」と思うとしたら、編集者には「9月末脱稿」という約束をしておくのです。すべての仕事をそんなふうにしているので、心理的にものびのびと仕事をしています。

人と打ち合わせをするときにも、時間ギリギリに到着しようとすると、かえって「間に合うだろうか?」とドキドキしながら向かわなければならず、精神的によくありません。ですので、私はだれと約束するときにも、30分前には現地に到着するようにして、近くを散歩してみたり、カフェで本を読んだりしています。

時間に追いまくられることのないよう、仕事のスケジュールやダンドリを組むのが、心理的に安定していられるコツです。

仕事のスキルを磨くときには、いっぺんにたくさんのことを学ぼうとするのではなく、1度にひとつずつ学んでいくのがポイントです。

いろいろなことを1度に学ぼうとしても、結局は「虻蜂取らず」になってしまい、ひとつも身につけることができませんから。

完全にマスターしてから「次のスキル」へが近道

カナダにあるトロント大学のキャロル・モールトンは、38名の外科研修医に、毛細血管を再接合する手術について、4種類の研修を受けてもらいました。

ただし半分のグループには、1日に4つすべての研修を受けてもらい、残りの半分は1週間に1種類ずつ、4回に分けて受けてもらいました。

研修が終わったあとで、生きたラットで大動脈接合の手術をしてもらうと、研修を4回に分けたグループのほうが、手術時間、手際のよさ、手術の成功率など、すべての指標で1日にまとめて研修を受けたグループよりも成績がよくなることがわかりました。

仕事のスキルを磨くときには、あれもこれもやろうとするのではなく、ひとつずつやっていくとよいでしょう。ひとつを完全にマスターしてから、次のスキルを学ぶようにしたほうが、確実にそのスキルを自分のモノにすることができます。

欲張って、あれもこれもと手を出すと、どれも中途半端になってしまうでしょう。焦らずにひとつずつ身につけるようにしたほうが、結局は近道なのです。

勉強も同じで、数学をやったり、英語をやったり、世界史をやったり、いろいろな科目をつまみ食いする勉強法よりは、「まずは数学を潰す」と決めて、ひとつの科目だけを集中的に勉強したほうが、成績は上がってゆきます。

ひとつのことしかやっていないと、「他の科目は大丈夫なのだろうか?」と不安に感じるかもしれませんが、心配はいりません。確実にひとつずつ潰していきましょう。

先輩や上司は、「あれもできたほうがいい、これもできたほうがいい」といろいろとアドバイスしてくるかもしれませんが、それを真に受けてはいけません。

善意でアドバイスしてくれているのかもしれませんが、「私は物覚えがものすごく悪いので、まずは○○だけをしっかり身につけます」と言っておきましょう。

いろいろなことを同時進行で身につけるのは無理です。よほど器用な人ならできるのかもしれませんが、ごく普通の人は、ひとつずつやったほうが絶対に身につけるのも早いですよ。

疲れてくると手抜きが増えて、「まあ、いいか」

仕事をするとき、スタートしたときからその日の勤務時間の終わりまで、まったく同じペースで仕事ができればよいのですが、なかなかそういうわけにはいきません。

人間はロボットではありませんので、そんなに都合よくいかないのです。

病院で勤務しているスタッフは、ちょこちょこと手洗い消毒をしなければなりません。手洗い消毒は、自分が感染しないためにも、患者を感染させないためにも必要なことです。

とはいえ、スタッフも人間ですから、疲れてくると、だんだん「まあ、いいか」と手抜きをし始めるようです。

ペンシルバニア大学のヘンチョン・ダイは、12時間の勤務シフトで働く35の病院のスタッフ4157名を対象に、手洗い消毒をきちんと守っているかどうかを調べてみました。

すると、手洗い消毒をきちんと守る人の割合は、仕事が始まって1時間以内では42.6%でした。それから1時間が経過するごとに、39.1%、37.8%と減っていき、最後の1時間では34.8%と最低になることがわかりました。

手洗い消毒の必要性を認識していても、疲れてきたらサボる人が増えるのも当然です。

さすがに手術室や集中治療室などではきちんと手洗い消毒をするのでしょうけれども、そうでないところのスタッフは、「まあ、いいか」という気持ちになりやすいのだと思われます。

とはいえ、私は「きちんと手洗い消毒をしないのはけしからん」などと病院のスタッフを批判する気持ちはまったくありません。「人間なら、だれだってそうだよ」と思うからです。

どんな業界の、どんな仕事をしている人でも、それなりに手抜きをしているのだと思います。

集中力が続くのはせいぜい40~50分

では、どうすれば手抜きを防げるのかも考えてみましょう。

だいたい仕事の手抜きをしてしまうのは、疲れの蓄積と関係しています。

すぐに実践したくなる すごく使える社会心理学テクニック

疲れれば疲れるほど手抜きは発生しやすくなるのですから、とにかく疲れる前に休憩を入れることです。

ちょこちょこと休憩をとっていれば、手抜きは起きません。

高速道路を走っているとき、サービスエリアで休憩をとると、「こまめに休憩を入れましょう」「1時間に1度は休憩しましょう」という注意書きを目にすることがありますが、このアドバイスは、だれにとっても参考になると思います。

研究によれば、私たちの集中力、注意力というものは、40分から50分しか持ちません。

ですので、50分くらい仕事をしたら10分ほど休憩をとったほうがいいのです。

(内藤 誼人 : 心理学者、立正大学客員教授、アンギルド代表取締役社長)

ジャンルで探す