職場の人間関係が面倒! そんな人にとって、一匹狼の「タクシードライバー」は理想的な仕事なのだろうか?

多様化する働き方とタクシー運転手

タクシー(画像:写真AC)

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 2019年4月1日、「働き方改革関連法」が施行され、多様な働き方を柔軟に選択できる改革が進められている。

 2022年度の時点で、全国のタクシードライバーは21万4972人。タクシー会社に勤務していれば、スケジュールに応じて月間の勤務日数を半分にして働くことも可能だ。これは、タクシー業界の魅力のひとつである。

 仕事中は基本的に乗客がいない限りはひとり。自己管理型の仕事環境で、乗客以外の他人に煩わされることはほとんどない。また、会社にいる時間も短く、面倒な人間関係に巻き込まれることも少ないため、人によってはストレスがたまりにくく、精神的に安定しやすい部分がある。

 現代社会ではライフスタイルが多様化し、個人の状況に応じて多様性を重視した働き方が選べるようになっており、タクシー運転手という職業はその時流にあった選択肢かもしれない。

 現役のタクシードライバーは、この点についてどう感じているのか。非・業界ライターである筆者(小島聖夏、フリーライター)が神奈川県を拠点に活躍する30代のドライバーAさんに話を聞いた。

実態と勤務形態

タクシー(画像:写真AC)

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 自由な勤務スケジュールや柔軟性などはタクシー業界の魅力といわれているが、実際はどのようになっているのか。

「私の場合は、隔日勤務という“2日分の仕事を1日おきにする”という勤務です。仕事の翌日は体を休める日、すなわち“明け”となりますので、用事などを済ますのに都合がよいです」

 タクシー運転手の勤務形態には

・日勤:朝8時に車庫を出発し、17時に戻るなど
・夜勤:18時に車庫を出発し、翌日3時頃に戻るなど
・隔日:日勤と夜勤を組み合わせて2日分のシフトを一度にこなす

の三つがある。ドライバーの多くが隔日勤務で働き、1日15時間~20時間勤務することが一般的。その間に、3時間の休憩を自由にとることができる。

 出勤日の翌日は体調を整えるための休息時間の明けとなる。明けは休みではないものの、次の日に公休があると2連休のような時間が確保できる。そのため、月11~13日の勤務になるところもある。

 ほかに魅力となる点は、働きやすさにつながる自己管理と独立した仕事環境が挙げられる。このことについては、

「基本的に朝の出庫前点呼が済んでしまえば、それぞれの車両に乗って出発します。あとは自分だけの仕事空間になり、上司と顔を合わすことはほぼないので、気持ち的に楽になります」

という。タクシードライバーは基本的にひとりの時間が多く、そこが働きやすさのひとつとなっているようだ。しかしドライバーとして働く上で、ストレスやプレッシャーがあるのではないか。

「周りの交通や歩行者、乗客の安全などに注意することにとてもストレスを感じます。特に私が駅付けしている場所の道は狭くて歩行者も多いので。プレッシャーもたまにあります。飛行機や新幹線のように出発時間が決まっているときなどがそうです」

 プロドライバーとして、交通安全や乗客の安全に細心の注意を払っているため、独特なストレスやプレッシャーも少なからずあるようだ。しかし、Aさんからは“職場の人間関係”に起因するストレスやプレッシャーの話は出てこなかった。

感謝が励み、タクシー運転手のやりがい

タクシー(画像:写真AC)

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 職場の人間関係について、どう感じているのだろうか。

「人間関係に関しては他の業種に比べて、関わりは少ないと思います。仲のよいドライバーさんだと遊びに行くこともありますが、あまり気の合わないドライバーさんだとあいさつ以外話すことはあまりありません。会社の事務所の人たちとも仕事中には話すこともないので、気が楽です」

 一般企業などでは、仕事中同じ空間にいることも多く上司・部下などの上下関係が厳しい場合もある。タクシー業界では業務が始まってしまえば、乗客がいるとき以外は自分のみ。基本的には、「対お客さま」となるため、仕事上干渉されることも少ない。

 また転職組も多く、年齢も20~70代と幅広い。さまざまな経歴のドライバーがおり、同僚ともフラットな関係でいられ、しがらみがないということなのだろうか。ほかに、タクシードライバーになってよかったと思うエピソードも聞いてみた。

「やはりお客さまから感謝されたときには、タクシーをやっていてよかったと思います。自分の場合、接客を褒められることもうれしいのですが、クルマや運転を褒められたときは特にうれしかったですね」

とのことだ。

評価が収入に直結する業界

タクシー(画像:写真AC)

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 最後に、どのような人たちがタクシードライバーに向いていると思っているのかを尋ねると、

「体調などを見つつ、仕事に対するメリハリができる方が向いているのではないかと思います。仕事をガツガツやって体を壊したり、違反や事故を起こしたりしては、せっかく稼いでも意味がなくなりますからね。やるときはしっかりやって、ゆっくりやるときも大事です。もちろんクルマの運転には気を抜いてはいけませんが。自分の体と相談しながら長く続けることが大事だと思います」

職場の人間関係に嫌気が差している人はもちろん、仕事でメリハリをつけたい人も、タクシードライバーという職業に向いているのかもしれない。

 また、タクシー運転手の評価(給料)は、実績(売り上げ)によって大きく左右される。そのため、ある意味ではわかりやすいし、自分の努力がそのまま収入につながるのも魅力のひとつだと感じた。

 柔軟な働き方ができる職業として、タクシードライバーは現代の多様なライフスタイルにマッチしている。自己管理と自立が求められ、人間関係に煩わされない環境は多くの人にとって魅力的であり、“一匹狼”的でもある。

 技術進歩による変化はあるものの、努力がそのまま報酬につながる透明性の高い報酬体系は、今後もタクシードライバーという職業を選択する理由となるだろう。多様な働き方を求める人たちにとって、今後も魅力的な職業であり続けるだろう。

 非・業界ライターである筆者は、この記事を読んだタクシードライバーの皆さんがこの職業の魅力についてどう考えているのか、聞いてみたいと感じた。

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