「管理職をためらう女性」実践すべき4つの心得

「女性だから〇〇」という思い込みは自分自身の中にもあるという(写真:EKAKI/PIXTA)
「えっ、私がリーダーでいいんですか?」——はじめて部下をもつことになった女性には、女性ならではの悩みや不安があるものですが、普通の女性が成果を出すリーダーになるために必要な心がまえとはどんなものなのでしょうか。2006年にシャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えた経験を持つ研修講師の深谷百合子氏が、女性の管理職に向けて、男性とは少し違うリーダーシップの取り方を解説します。
※本稿は、深谷氏の著書『不安が消えてうまくいく はじめてリーダーになる女性のための教科書』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

管理職につきまとう「残業時間増」というイメージ

「リーダーの立場になると、残業時間が増える」というイメージを持つ方が多いかもしれません。

確かに、私が課長になったころは、残業が増えるだけでなく、休日に会議や研修が行われることもありました。月曜日の午前中に行われる経営会議のために、土日に出勤して資料を準備するような部署もありました。

私自身も長時間労働が常態化していましたが、今振り返ってみると、やらなくていいことをやっていたなと思います。遅くまで仕事をしていると、「これもやっておこうか」「あれもやっておこうか」と気づいてしまい、自分でどんどん仕事を増やしていたのです。

誰かに任せることもしませんでした。時間さえかければできたからです。でも、これはとても生産性の低い仕事の進め方だったと思います。

たとえば、子育て中で時短勤務をしている人など、「時間に制約のある人」の仕事は生産性が高いとよく言われます。

通信系の会社に勤めるYさんは育児休業を終えると、1日6時間の時短勤務で職場復帰しました。仕事を終えたら、すぐに保育園に走らなければなりません。6時間という限られた時間で成果を出すために、Yさんは2つのことに取り組みました。

ひとつは「仕事で関わる人たちとよい関係をつくること」、もうひとつは「やらなくていい仕事をやめること」でした。

当時、Yさんは管轄下の35の現場部門に指示を出す統括部門で仕事をしていました。以前は現場の事情を考えず、上から押しつけるような形で指示を出していましたが、職場復帰後は、先に現場の事情を聞くようにしたそうです。

「今この仕事をお願いすることで、負担が増えませんか?」と、Yさんが自分のほうから歩み寄ることで、現場の人たちの態度は変わってきたそうです。

こうして現場の人たちとよい関係をつくったことで、仕事が進めやすくなっただけでなく、子どもの事情で急に帰らなければならないことがあっても、現場の人たちが協力をしてくれるようになりました。

仕事の効率アップには「前任者への忖度」は不要

さらに、Yさんは前任者から引き継いだ仕事の効率アップにとりかかりました。

前任者は毎月20〜30時間の残業をしており、「この仕事、結構大変だよ」と告げました。

Yさんは、その仕事の中身を見て、「なぜこんなやり方をしているのだろう?」「これは、やらなくてもいいのではないか?」と疑問を持ちました。そこで、「やらなくてもいい」と思ったことは、どんどんやめました。すると、残業ゼロで前任者と同じ成果を出すことができたのです。

限られた時間の中で仕事をするには、生産性を上げる必要があります。生産性を上げるコツは、「エンジン全開でしゃかりきになってやる」のではなく、「やらなくていい仕事をやめること」です。

これからは多様な働き方が増えてきます。時間に制約のある人は、育児や介護中の人だけではありません。学び直しで学校に通う人やボランティア活動に参加する人など、勤務時間以外の時間の過ごし方も多様化しています。

私自身も、定時退社後に3年間、大学の夜間コースで勉強をしながら仕事をした経験があります。会社や上司の理解があったおかげで続けられたのですが、突発的な仕事を減らすために先手を打って対応したり、「今やらなくてもいい仕事」は思い切ってやめたりして、時間内に仕事を終わらせていました。

チームのメンバーだって、ダラダラといつまでも居残っているリーダーのもとで働くより、定時内で仕事を終える、メリハリのある働き方をするリーダーのもとで働くほうが嬉しいはずです。働き方が多様になっていくこれからの時代、「育児中」「介護中」「勉強中」など、いろいろなタイプのリーダーがいてもいいと思います。

無意味だと思っている仕事はどんどんやめる

よく知らないメンバーはもちろん、今まで一緒に仕事をしてきてよく知っている人であっても、時間をつくって1人ひとりと話をするようにしましょう。

といっても、面談のような堅苦しい感じではなく、「いろいろ教えて」とざっくばらんに聞くのがおすすめです。聞く内容も、困っていること、疑問に感じていることなどから聞いていくのがよいですね。いきなり「あなたはどうなりたい?」「どうしたい?」と聞いても、答えられる人は少ないからです。

困っていることや疑問に感じていることでも、面と向かっては言いづらいこともあるかもしれません。そのため私は、「なぜこうなっているのだろう」と疑問や違和感を覚えたことをまとめておいて、話のきっかけをつくるようにしました。

そして、「これって、どうしてこんなことしているのかな。私は必要ないと思うんだけど……」と聞いてみると、「正直私もそう思っていました」と話し始めてくれるようになりました。

そのようにして話を聞いていくと、たとえば「私たち、毎日日報を印刷しているんですけど、これって本当に必要ですか。日報の確認ならデータでできるのに、捺印するためだけに印刷しているんです」というような、具体的な話が出てきます。

こうして聞き出した、困っていること、疑問に思っていることをリストにまとめ、「みんなからこんな意見が出たけれど、他に追加があったら教えて」とメンバー全員に共有します。

そのうえで、現地や現物を一緒に見るようにしました。みんなが言うように、本当にムダだと思う仕事もあれば、多くの人はムダだと考えているが、やらなければならない仕事もあるからです。

そのときも、「これはやらなければならないよ」と伝えるだけではなく、「どういうところがムダと感じたのか」を聞いたうえで、自分の考えを説明するようにしました。

全員が無意味だと思っている仕事をやめると、それまでその仕事に使っていた時間が空きます。それを、業務の改善やチームの成長のための時間に使うようにしました。

すでにやめた仕事があるので、チームで新しい取り組みを始めても「仕事が増えた」という感覚にはならなかったようです。

今はIT技術の進化やオンライン化など、仕事を取り巻く環境はどんどん変化しています。少し前までは必要だったとしても、現在は不要になっているものもあるはずです。

惰性で続けているルーティンワークは、当事者にとっては気づきにくいものです。新任のリーダーとなり、第三者の視点を持っているうちに、「これって、なぜこうしているの」と気軽に聞いてみましょう。 あなたが自分のリーダーとしてのカラーを出していくきっかけにもなります。

「女性だから〇〇」という思い込みを逆手にとる

「アンコンシャス・バイアス」という言葉をご存知ですか。 「無意識の思い込み、偏見」とも言われています。

たとえば、「男性は細かいことが苦手」「女性は機械音痴」「日本人は几帳面だ」というようなものがあります。多様性を認め合う社会をつくっていくために、こうした「無意識の思い込み」に気づくことの大切さが、あちらこちらで言われています。

「無意識の思い込み」は仕事の場面でも存在しています。

実際に、本人(女性)は海外への単身赴任だって受ける気満々だったのに、「ご家族がいるから海外への単身赴任なんてしないだろう」と上司が勝手に判断して、チャンスを逃してしまった例を聞いたことがあります。

そういう問題が起きるのは困りますよね。

でも、この「無意識の思い込み」を逆手にとってチャンスにすることもできます。「女性だから」という理由で振られてきた仕事を、「自分にしかできない仕事」にしてしまうのです。

会社員時代、私は職場に女性ひとりという環境にいました。ある日、近隣の小学校から子どもたちが工場見学に来ることになりました。すると、「女性は子どもが好きだから」「女性のほうが物腰が柔らかいから」などと言われ、子どもたちの対応をするように言われました。

また、「市民講座で工場の紹介をしてほしい」と市役所から依頼があったときも、「女性が出て行ったほうがいいから」と言われて、私に仕事が回ってきました。

なぜ女性が出て行ったほうがいいのか理由はわかりませんでしたが、私はそうして回ってきた機会をすべて引き受けて利用することにしました。

自分自身の「無意識の思い込み」を捨てる

その結果、子どもたちと接する仕事を通して、「子どもにわかるように説明する工夫」をすることができるようになりました。また、外に出て行って人々の前で話をする仕事はすべて、私の仕事になっていきました。

不安が消えてうまくいくはじめてリーダーになる女性のための教科書

いつの間にか、「〇〇といえば深谷さん」と言われるようになり、独自のポジションを築いていました。

「女性だからって何でも私に言ってこないで!」と思うこともありましたが、やってみたら面白かったこともたくさんありました。

「無意識の思い込み」は自分自身にもありますし、世の中にもあふれています。「女性だから」というだけで「□□が得意でしょう?」と言われたことが、あなたにもあるかもしれません。

そういうとき、それがあなたにとって「得意」とはいえないまでも、そこそこできるのだったら、「□□が得意なキャラ」になって、そのポジションをゲットするのもアリなんじゃないかと思います。

世の中にはびこる無意識の思い込み。おかしいと思うこともたくさんあります。でも、まわりが変わるのを待っていたら、人生終わってしまいます。ここはひとつ、したたかに、しなやかに生きていきましょう。

(深谷 百合子 : 合同会社グーウェン代表)

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