仕事できない人の口ぐせ「数字が苦手」を消す魔法
「数字が苦手」という呪い
私はよく、「ビジネスパーソンの数字力強化」をテーマにした研修を行います。そのような場でお会いするみなさまから頻繁に聞くのが、
「数字、苦手なんです」
という言葉です。
言葉というものは恐ろしいものです。こう発言することで、本人はより「自分は数字が苦手なんだ」と強く思うことになります。言えば言うほど、そのようになっていく。多くのビジネスパーソンの脳や身体は、まるで呪いのようにこの言葉に侵されています。
言うまでもありませんが、ビジネスとはヒト・ジカン・カネを使い、カネを生み出す営みです。そしてヒト・ジカン・カネはすべて数字で表現できます。ゆえに、ビジネスとは数字を使い、数字を生み出す営みと言えるのです。
つまり、「数字、苦手なんです」という発言は、「私は仕事ができない人間なんです」「ビジネスを知らないんです」と言っていることと同義になります。
そんな発言を当たり前のようにしてしまうことを、本来ならば恥ずかしいことだと認識してほしいのです。そういう意味でも、ビジネスパーソンはまずこの呪いの言葉を発することをやめるべきです。
ではどうすれば良いか。呪いを解くために必要なものは、「魔法」です。ふざけていると思われるかもしれませんが、私は真剣に申し上げています。今回はその魔法のひとつをご紹介します。
数字に対する苦手意識が強い人に対して、「数字を活用せよ」「データ活用していきましょう」「データ分析を学ぼう」などと伝えても意味がありません。人間は感情の生き物です。苦手なものは苦手ですし、やりたくないものはやりたくないのです。
データ活用とは「謎解き」である
では私はどのようにして呪いを解いているか。答えはとてもシンプルです。彼らの仕事の定義を変えるのです。数字の集合であるデータを活用するという仕事を、別の表現で再定義するのです。その再定義はたったひとことで表現できます。
「謎解き」
私はデータ活用研修などでは、「普段の仕事において謎解きを楽しんでほしい」と提案しています。そもそもデータ活用とは、単に机上で数値をこねくり回すことではありません。次のプロセスを踏むことです。
問題提起→構造化→仮説構築→データ分析→課題発見→実践→解決
このプロセスの最初と最後に注目すると、「問題」と「解決」という言葉の存在に気づきます。すなわち、データ活用とは問題を解決すること。これを子どもでも伝わる表現に変換したものが「謎解き」なのです。
おもしろいもので、人間は同じことを伝えているのにその表現が違うと、メッセージの受け取り方が変わります。「データ活用してください」では好ましい反応をしない人でも、「普段の仕事において謎解きを楽しんでほしい」と伝えると受け取り方が変わります。
おそらく多くの大人たちにとって、謎解きという行為は楽しかったもの、ワクワクしたもの、スカッとした爽快感(達成感)が得られるものという認識があるのでしょう。
年齢を問わず人気があるミステリー系のテレビドラマや映画も、じつはその展開はデータ活用のプロセスと極めて似ています。誰が犯人かという問題が最初に提起され、それを構造化し、仮説を立て、事実を確認し、答えが導かれます。
データ活用とは謎解きをすること。普段の仕事において謎解きを楽しんでほしい。そのようなメッセージを「数字が苦手」とおっしゃる人たちに届けると、彼らの反応はポジティブなものになります。次は、ある研修の参加者が残してくれたコメントです。
「深沢先生が提案してくれた“謎解き”というキーワードが良かったです」
仕事の定義を変えて、現場を変える
あらためて、言葉というものは恐ろしいものです。一方で、言葉というものはじつにおもしろいものです。言葉ひとつでネガティブだったものはポジティブに変わりますし、一瞬で呪いが解けてしまうような魔法にもなります。
今回ご紹介したような伝え方は部下指導や組織開発にも有効です。データ活用ができる人材を育成したい。データドリブンな仕事ができる組織に変えたい。そう願いながらそこに難しさを感じている管理職や人事担当者はたくさんいます。
しかし突破するためのヒントは意外に簡単なものかもしれません。まずは仕事の定義を変えることを訴求してみてください。普段の仕事においてデータ活用を強要するのではなく、自ら楽しめる謎解きのテーマを探させるのです。誰だって、目の前にある謎が解けたときは嬉しいものです。ぜひお試しください。
最後に、ひとつ補足をしておきます。私はこの記事において「数字、苦手なんです」とおっしゃるビジネスパーソンを否定しているわけではありません。そもそも、彼らは好んで苦手になってしまったわけではありません。これまでの人生のどこかで、数字を扱ったりする時間の中で、「不快感」を覚えてしまったのです。異論や反論があることを覚悟で申し上げれば、これは完全に教育従事者の責任です。
そういう意味で彼らは教育の被害者と言えます。教育の責任ならば、教育従事者の誰かがそのリカバリーをしなければならない。私はそう思って、これからもあえてビジネス人の育成を主戦場として活動していきます。
(深沢 真太郎 : BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家)
07/01 10:00
東洋経済オンライン