健康補助食品・サプリメント業界における2024年のM&A概況
2024年の国内健康補助食品・サプリメント業界は「逆風」が吹き荒れた1年だった。2024年3月に小林製薬の紅麹問題が発覚。同社が製造・販売する紅麹を原料とする機能性表示食品によるものと見られる重篤な腎障害が発生し、多数の入院者と死亡者まで出す。この事件は過熱する一方だった健康補助食品・サプリ市場に冷水をかけた。
10年ぶりのマイナス成長に業界は…
民間調査会社の富士経済によると、2024年の国内サプリメント市場は前年比1.4%減の約1兆606億円と、10年ぶりのマイナス成長となる見込み。さらに円安や人手不足に伴うコスト増もあり、同業界は苦境にあえいでいる。
とりわけ2015年に始まった機能性表示食品は数十万円の費用があれば届け出可能で、早ければ半年~1年程度で受理される。先行する特定保健用食品よりも安価で迅速に認可されるため、中小企業の製品が多い。それだけに水面下で救済型M&Aが増加している可能性もある。
業界大手も厳しい状況は同じで、M&Aによるプラス効果が期待されている。先ずは市場シェアの拡大だ。競合他社を買収することで市場シェアを拡大できる。特に成長が見込まれるニッチ市場や新興市場において、既存の顧客基盤や流通チャネルを活用することで迅速な市場参入が可能となる。
次に製品ポートフォリオの強化だ。買収により自社にない新しい製品ラインや技術を取り入れることができる。その結果、製品ポートフォリオが多様化し、消費者のニーズに応じた製品の提供が可能に。特に機能性表示食品や特定保健用食品の需要が高まる中で、製品の幅が広がり競争力を高める要因となる。
コスト削減や生産効率化も期待できる。M&Aで重複する業務や経営資源を統合することで、コスト削減が可能だ。製造や物流の効率化による利益率の向上や、スケールメリットを活かした一括購入で値引き交渉力も強化される。
消費者に選ばれるためには、新たな健康補助食品やサプリを開発するための研究開発や製造技術の向上が重要なのは言うまでもない。M&Aを通じて先進的な技術やノウハウを持つ企業を取り込むことで、製品の品質向上や新製品の開発力が強化されるだけではなく、研究開発の時間を節約して迅速な実用化も期待できる。
どの業界でも人手不足が悩みのタネだ。M&Aを利用することで他社の優秀な人材を確保できるのも魅力。特に健康補助食品やサプリに係る専門的な知識や経験を持つ人材は貴重で、企業の競争力向上やイノベーション促進につながる。
キリンは2年連続で健康食品企業の大型買収を実施
実際、6月にキリンホールディングス<2503>が健康食品・化粧品のファンケルをTOB(株式公開買い付け)で子会社化したほか、大口案件ではないものの2月にジェイフロンティア<2934>が化粧品・サプリメント・健康美容雑貨企画開発のウェルヴィーナスを子会社化、9月にアクサスホールディングス<3536>が美容サロン向けサプリメント・化粧品企画・生産のGIVERSを子会社化するなど、M&Aによる再編が進んだ。
キリンは2019年、ファンケルに約33%出資して同社を持ち分法適用関連会社としていた。主力のビール市場が伸び悩む中、世界的に成長が続く健康食品分野を強化する。同社は酒類・飲料、医薬品に続く第3の柱としてヘルスサイエンス領域を育成中で、その要に健康食品を位置づける。同社は2023年8月にもオーストラリアの健康食品大手ブラックモアズを約1690億円で傘下に収めた。
ジェイフロンティアはサプリメント・化粧品分野における取扱商品のポートフォリオ拡充による事業拡大と収益力強化を狙い、化粧品・サプリメント・健康美容雑貨の企画開発や卸・販売などを手がけるウェルヴィーナスの株式67%を取得し、子会社化した。
ウェルヴィーナスは2010年設立で、サプリメントや化粧品の自社DtoC(消費者直接取引)ブランドを展開し、高い商品力とブランド力を持つ。50代以上のシニア層を中心に継続率が高い優良定期会員も多く、高齢化社会での成長が見込まれるという。ジェイフロンティアが展開するオンライン診療プラットフォーム「SOKUYAKU」事業との相互送客を進める。
業界再編ではないが、販売促進のためのM&Aもある。7月にオーストリアの大手栄養ドリンクメーカー、レッドブルがTT東日本からサッカーJ3の「大宮アルディージャ」を買収したのだ。世界では大手のレッドブルも、日本ではサントリーホールディングスの「デカビタC」や大塚製薬の「オロナミンC」、アサヒ飲料の「ドデカミン」などの後塵を拝している。そこでマーケティングの一環としてサッカーチームを活用することにした。同社はドイツでもプロサッカーチームを買収している。
M&Aは経営環境が厳しくなりつつある国内の健康補助食品・サプリメント業界での重要な成長戦略の一つ。来年以降も同業界でのM&Aによる業界再編が加速するのは間違いなさそうだ。
文:糸永正行編集委員
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