クスリのアオキが食品スーパーのM&Aを加速するワケ

食品スーパーマーケットとドラッグストアはいずれも業界再編が進んでいる。食品スーパー市場はコロナ禍で伸びたとはいえ市場規模は2010年代以降、横ばいに推移してきた。一方のドラッグストア市場は拡大し続けているものの、地方の小規模業者は厳しい状況にある。こうした状況で業界8位の「クスリのアオキホールディングス」は各地の地場食品スーパーを次々に買収している。ドラッグは食品スーパーを買収する背景にどういう狙いがあるのだろうか。

業界再編が進む食品スーパーとドラッグストア

ドラッグストア業界で8位に位置するクスリのアオキHDだが、後述の通り、食品や総菜に力を入れており、店舗は“食品スーパー化”している。そして近年の事業拡大では新規出店のみならず、地場の食品スーパーを買収し、ドラッグストアへ業態転換する手法も採ってきた。

先に結論を言うと、地場の食品スーパーのM&Aを進めるのは店舗物件に加え、買収先が持つ運営・仕入れのノウハウが手に入るためである。

そしてアオキが買収を進める食品スーパー市場は成長期が終わり、特に小規模業者は厳しい局面に置かれている。

経産省の商業動態統計調査を参照すると、食品スーパーの市場規模は2019年の13兆983億円から2023年の15兆6492億円へと拡大した。コロナ禍に伴う巣ごもり需要や値上げが影響した形だ。

しかし市場規模は1997年に12兆円を突破後、13~19年の間は13兆円台を推移し横ばい傾向にあった。人口減少も進み、特に地方の弱小業者を買収するハードルは低下している。地場の食品スーパーのM&Aのほか、近年の大型案件では2015年のイオンによるダイエーの子会社化が挙げられる。

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一方のドラッグストア業界は2015年に5兆円、20年に7兆円を超え、2023年は8兆3438億円の規模となった。食品スーパー市場とは対照的に伸びが著しく、「食品や日用品、化粧品の安売りで集客し、利益率の高い薬で儲ける」ビジネスモデルが成功した形だ。大型店では1店舗で何でも揃うというワンストップショッピングのメリットも大きい。

しかし小中規模業者が乱立するような状況であり、仕入のスケールメリットなどの観点から食品スーパー同様に業界再編が進む。2021年にはマツモトキヨシHDとココカラファインが経営統合して業界3位のマツキヨココカラ&カンパニーが誕生した。業界1位のウエルシアHDと2位のツルハHDも将来的な統合に向けて協議を進めている。

”食品スーパー化”するドラッグストア

同じ業界でひとくくりにされがちなドラッグストア各社だが、例えばコンビニ市場とは違い、各社の商品構成は大きく異なる。大まかに『ロードサイド型』と『都市型』に二分される。

今回のクスリのアオキHDはロードサイド型ドラッグストアであり、ウエルシアHDやツルハHDもこれに分類される。

ロードサイド型ドラッグストアは食品の割合が25%前後と高く、化粧品は15%程度しかない。食品の安売りを集客手段として拡大してきた背景があり、食品スーパーのように生鮮や惣菜を充実させている大型店もある。特に地方のロードサイド型店舗では“食品スーパー化”が著しい。

2017年にツルハHDの傘下に入った静岡地盤の「杏林堂薬局」は調剤併設型店舗として平均700坪の大型店舗を出店している。250坪を目安とする郊外型ドラッグストアや300坪の食品スーパーよりも大きく、小さなホームセンター並みの面積である。こうした大型店では食品スーパーのように精肉コーナーを設けている。コンビニよりも店舗数が多いと言われている地方において、食品スーパーとしての機能を備えるドラッグストアは重要な買い物の場として機能してきた。

一方のマツキヨココカラ&カンパニーを筆頭とする都市型ドラッグストアは主に駅前・市街地に出店し、売上高に占める化粧品の割合が3割を超え、食品は1割を下回る。ロードサイド型が食品の安売りを集客手段としてきたのに対し、都市型は化粧品に特化してきたのだ。

地場の食品スーパーを取り込むクスリのアオキHD

クスリのアオキHDは1985年に設立、石川地盤のドラッグストアとして北陸を中心に事業拡大を行った。2007年に100店舗を達成、18年には500店舗を達成し、現在では約950店舗を展開するなど著しいスピードで拡大してきた。5月末時点で373店舗の北信越、262店舗の関東が中心で、東北や東海、関西、四国にも進出している。地方・ロードサイド型のドラッグストアであり、東京都内には出店していない。

従来は新規出店が主だったが、表の通り近年では地場の食品スーパーを買収している。手始めに石川県で食品スーパーを6店舗展開していたナルックスを2020年6月に買収(額は非公開)し、以降は毎年のように買収を行っている。いずれも各地で数店舗を展開する地場の食品スーパーである。今年は既に4件のM&Aを手掛けた。

ノウハウを取り込み、「フード&ドラッグへの転換」を進める

買収先を食品スーパーとして存続する例はほぼみられず、次々に「クスリのアオキ」へと業態転換している。こうしたM&Aについて、食品スーパーの持つ仕入・運営ノウハウの獲得や生鮮MDの強化、好立地物件の確保などを目的としている。

26年5月期売上高4850億円(24年5月期は4369億円)を目指すクスリのアオキHDは現在の中期経営計画において(1)「フード&ドラッグへの転換」、(2)「調剤併設率70%」、(3)「ドミナント化への移行」の3点を指針としている。フード&ドラッグへの転換はいわばドラッグストアの“食品スーパー化”である。(1)に関しては生鮮を充実させた400坪店舗を基本形として、そのノウハウを既存の300坪店舗にも応用する方針だ。また、25年5月期までに小型店を除き全店舗で惣菜を販売する計画である。

地場の食品スーパーの取得には、生鮮・惣菜のノウハウをそのまま活かせるメリットもある。拡大路線をとる限り、地場食品スーパーを買収して店舗・ノウハウを取り込みつつドラッグストアへ業態転換するという動きを継続するだろう。今後のM&Aに注目したい。

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