米国で中小企業買収に規制がかかる「ロールアップ型M&A」とは

米連邦取引委員会(FTC)は2024年10月、これまで事実上野放しだった中小企業をターゲットにした合併や買収について、連邦審査手続で収集する情報量の拡大を全会一致で可決した。これまでは大企業相手のM&Aに留まっていた当局からの監視網が、中小企業にまで拡大される。その契機となったのが「ロールアップ型M&A」だ。

米国で目立つPEファンドによるロールアップ型M&A

ロールアップ型M&Aとは小規模事業者が多く存在する「分散型業界」で、規模の小さい企業を連続的に買収することにより、規模の経済(スケールメリット)を発揮して、企業価値の向上を図る M&A 戦略のこと。日本でも飲食業やホテル・旅館業、タクシー業、ゴルフ業界がなどの分散型業界で実施されている。

分散型業界では事業規模が小さいため、廃業が相次ぐ傾向にある。国内ではロールアップ型M&Aは、事業規模を拡大して収益性の向上や経営の効率化を図る手段として活用されている。小規模事業者の救済買収の側面もあり、日本国内では問題視されていない。

では、なぜ米国でロールアップ型M&Aが問題になったのか?それは買収する側(買い手)の問題だ。日本ではロールアップM&Aの買い手は同じ業界で比較的規模が大きい企業がほとんど。つまり同業者による買収だ。一方、FTCが問題視しているのは、プライベート・エクイティ(PE)ファンドが買い手になっているロールアップ型M&Aだ。

FTCはPEファンドによる小規模な買収が活発化していることから、特定地域の事業独占につながりかねないとして監視をの強化に乗り出す。きっかけになったのは、同5月にFTCの米PEファンドのウェルシュ・カーソンに対する訴訟判決だ。

売り抜けてしまえば独占の法的責任を追えない

FTCは同ファンドが2012年にUSアネセシア・パートナーズを設立し、テキサス州など8州でロールアップ型M&Aによる麻酔科市場の独占状態を形成して価格の引き上げを図ったと提訴した。米ヒューストンの連邦地方裁判所はUSアネセシア・パートナーズについての訴訟は継続するが、すでに少数株主となっているとして同ファンドへの訴訟は棄却した。

PEファンドは保有株を高値で売り抜けるのが仕事だ。事業会社のように収益をあげるために独占状態を長期間にわたって維持する必要はなく、独占状態で高値をつけた株式を売却すれば利益は確定する。連邦地裁の判断に従えば、PEファンドは、まんまと売り抜けて法的責任を回避できることになる。

連邦地裁は「ウェルシュ・カールソンが単なる憶測や推測を超えて、実際に法律に違反しようとしていた証拠が出てきた場合は訴訟対象となる」としている。FTCはロールアップ型M&Aによる市場独占の証拠をつかむため、PEファンドを含む買い手が提出しなくてはならない情報を大幅に増やす。

法的責任を問える体制づくりをすることで、PEファンド主導のロールアップ型M&Aによる市場独占を防ぐ狙いがある。2025年1月からは提案されたロールアップ型M&Aの影響を受ける少数株主からサプライヤー、所有企業に至るまでの事業体間の取引構造と重複する事業関係を報告する義務を負う。

こうしたFTCの動きにPEファンド業界団体の米国投資協議会は「この変更は混乱を招き、不必要であり、当局の権限を超えている」としてFTCに撤回を求めている。ただ、業界団体によるロビー活動は成果を挙げたようで、FTCの当初提案に比べると内容は緩やかなものとなり、PEファンドに求めていた情報の多くはカットされたという。

文:糸永正行編集委員

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