M&A仲介協会、不当な買い手排除に向けた新たな取り組みを発表

M&A仲介の自主規制団体であるM&A仲介協会は26日、2024年10月1日から不当なM&A取引の防止に向けた新たな取り組みを始めると発表した。悪質な買い手企業の情報を共有する「特定事業者リスト」の運用開始と、これに伴う「特定事業者の情報共有の仕組みに関する規約」の策定が柱だ。

特定事業者リストで「悪質な買い手」を排除

背景には増加するM&A取引と「悪質な買い手」の問題がある。近年、中小企業の後継者問題の解決策や成長の手段としてM&Aが広く活用されるようになった。その一方で悪質な買い手の存在が一部メディアに取り上げられ、中小企業庁が間もなく改訂する「中小M&Aガイドライン」にも対応を盛り込むなど、社会的な問題となっている。

悪質な買い手は、譲渡企業の経営権を取得した後に、約束していた個人保証を解除せず、会社の資産を抜き取った上で事業継続を放棄したり、買い手が行方をくらましたりするなどして、売り手側に重大な被害を与えている。

こうした問題に対処するため、同協会は悪質な買い手の情報を共有する「特定事業者リスト」の運用を始める。同リストを共有する企業が悪質な買い手企業の情報を得た場合は、同協会に通報する義務を負う。通報を受けて同協会が事実関係を審査し、悪質と判断した買い手企業の情報をリストに登録。リスト共有企業は、この情報を買い手企業のチェックに活用する。

同協会では「現在100社を超える会員が加盟しており、特定事業者リストの運用による全国規模の情報共有で悪質な買い手企業の情報を網羅できる」と見込んでいる。

事業承継型M&Aに安心を

併せて同協会は「特定事業者の情報共有の仕組みに関する規約」を策定。同規約は2024年1月に施行された同協会の「自主規制ルール」に準ずるもので、特定事業者リスト掲載企業とのM&A取引に会員企業が関与することを防ぎ、顧客企業とそのステークホルダー(利害関係者)の被害を抑える。

現在、中小企業庁に登録しているM&A支援登録機関は2766件に上るが、このうち半数以上が2020年代に設立された新たな機関だ。経験不足に伴うサービスレベルの格差も大きく、M&A支援の質の確保がこれまで以上に求められている。とりわけ悪質な買い手問題は中小企業を対象にした事業承継型M&Aに冷水を浴びせかねないとして、中小企業庁も注視している。

近く同庁は国の指針となる「中小M&Aガイドライン」を改訂し、M&A仲介事業者に悪質な買い手問題への対応強化を求める。同協会が発表した不当なM&A取引の防止策も、こうした流れに沿ったものだ。同協会では会員企業以外でも同リストの共有を認める方針で、「包囲網」を広げることで悪質な買い手対策の強化を図る。

協会に問われる実効性

同協会の荒井邦彦代表理事は「会員数の増加に伴い、会員各社と業界全体でM&A支援の質をさらに高めることが重要だ。『中小M&Aガイドライン』と協会の『自主規制ルール』の遵守徹底を図ることにより、業界全体でM&A支援の質を確保し、業界全体の信頼性向上につなげていく」と、不正な買い手の排除に向けた決意を示した。

同協会は2021年10月の設立以来、中小企業庁の「中小M&A推進計画」に基づき、公正で円滑な取引の推進とM&A仲介業界の健全な発展に取り組んできた。今回の取り組みでM&A市場から悪質な買い手を完全に排除し、中小企業が安心して企業を譲渡できる環境が整うのか。同協会と会員企業による対策の実効性が問われる。

文:糸永正行編集委員

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