M&A仲介協会から「M&A支援機関協会」へ、そのスケジュールと内容は?

M&A業界が健全化に向けて動き始めた。業界団体のM&A仲介協会(荒井邦彦代表理事=ストライク社長)が2025年1月1日付で「M&A支援機関協会」に名称変更、同時にコンプライアンス体制を強化し、悪質な譲受け事業者(買い手企業)の排除をはじめ、業界健全化に向けた取り組みを加速させる。同協会の今後の施策とそのスケジュールを解説する。

「M&A支援機関協会」とは?

同協会は中小企業庁が中堅・中小企業のM&Aを推進するために取りまとめた「中小M&A推進計画」に基づき、公正で円滑なM&A取引を推進し、M&A仲介業界の健全な発展に取り組むことを目的に2021年10月に発足した。

しかし、中小M&Aの認知度が高まり、成約数が増大。そこで、2024年1月にM&A仲介業界のあるべき姿を「倫理規程」として定め、広告・営業、コンプライアンス、契約重要事項説明という三つの領域での自主規制ルールを策定・施行。業界の健全化に貢献してきた。

ところが、M&Aを支援する事業者数が急増した結果、最近になって仲介事業者の質の劣化が散見されるようになってきた。虚偽の勧誘や強引な営業手法、業務品質に対する苦情、悪質な買い手企業による売り手企業側経営者が大きな損失を被るといったトラブルが確認されている。

同協会では、これら不適切な営業手法の根絶や業務品質の底上げを図ると同時に、悪質な買い手事業者を中小M&A業界から排除するため、より実効性のある自主規制団体となるために、体制を強化することを決めた。

「M&A支援機関協会」への名称変更を機に、会員をFA(フィナンシャル・アドバイザー)やM&Aプラットフォーマーにも拡大することで、M&A仲介会社だけでなくM&A支援機関全体で連携し、事業承継による中小企業の発展に寄与していく。

地域金融機関・FA・士業などの専門家からも理事に迎えるほか、協会内に自主規制ルール検討委員会などの委員会・分科会を設け実務面を強化し、有識者・中小企業団体からも委員として参加してもらうことで、ガバナンスを強化する。

制度改革のスケジュールと内容は?

自主規制ルールの実効性を高め、M&A支援事業者の業務品質を向上させるため、2025年1月に資格制度検討委員会を設置。協会独自のM&Aアドバイザーの資格制度の創設を進める。本資格制度の導入により、M&Aアドバイザーの財務や法務・税務面での業務品質、モラル向上を目指す。これにより自主規制ルールの実効性やエンフォースメント(執行)を高め、利益相反を防ぐ顧客本位のサービスを実現する高い職業意識を養う。

すでに2024年9月から利益相反防止、手数料基準の双方開示を進めて取引の透明性を高めるため、M&A仲介事業者に売り手・買い手双方から受け取る手数料を説明することや、契約後に手数料を増額する場合は相手方当事者に説明のうえ書面で確認することなどを義務づけている。これにより、買い手企業の仲介手数料を増額することで、売り手企業が受け取るべき譲渡額が減額するといった利益相反行為を防ぐ。

2024年10月からは、悪質な買い手企業を登録して業界内で共有する「特定事業者リスト」の運用を始める。リストの共有に同意し、契約上の準備ができた会員によって運用。協会への報告事由としては、「保証解除の6カ月以上遅滞」「不正競争防止法・守秘義務に違反する事由が4カ月未解決」の場合などがある。

報告事由が認識された場合、会員企業が協会に報告し、調査を実施してリスト登録の要否を決める。リストを共有する会員は買い手企業と契約を結ぶ際に、特定事業者リスト登録されているかどうかを確認できる。これにより事実上、悪質な買い手企業がM&A市場から締め出されることとなるという。

2025年1月からは、悪質な買い手企業による被害の防止を目指し、自主規制ルール「広告・営業規程」を改正する。これはM&A成立後のリスク事項に対しての説明義務を追加し、最終契約書の草案作成時に経営者保証の解除を譲受け事業者に義務づける条文案を盛り込むことや、買い手企業の資力についての調査義務などを定めている。

M&A支援機関協会は業界健全化のため、より実効性のある自主規制団体としての役割を果たしていくという。

文:糸永正行編集委員

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