船井電機株が仮差押え、ミュゼプラチナム買収が発端に

船井電機・ホールディングス(大阪府大東市)子会社で中堅AV(音響・映像)家電メーカー船井電機の株式が、ネット広告のサイバー・バズ<7069>に仮差押えされたとの報道が流れている。取締役も大幅に入れ替わるなど、経営の混乱も伝えられている。その原因は買収した子会社だ。問題企業を買収したばかりに経営が傾く事例は決して珍しくない。

元子会社の広告未払いで大半の株式を仮差押え

船井電機を悩ませている子会社は、2023年4月に完全子会社化したミュゼプラチナム(東京都渋谷区)。買収金額は明らかになっていないが、数十億円と見られている。買収当時、ミュゼは脱毛サロンを全国で約170店舗を展開し、美容機器や化粧品も販売。2022年3月期の連結売上高は300億円前後だったという。

船井電機はミュゼが販売する美容機器の製造を引き受けると共に、ミュゼの店舗網を自社製品の販売に活用するなどのシナジー(相乗)効果を狙った。ところがミュゼは集客をネットなどでの広告に依存しており、サイバー・バズへの広告費支払いが滞っていた。

ミュゼは2024年4月、飲食店送客クーポンサービスを手がけるKOC・JAPAN(東京都中央区)に売却されたが、サイバー・バズは東京地裁に対し、広告契約時に連帯保証をしていた船井電機の株式仮差押えを申し立てた。同地裁は9月上旬に大半の株式の仮差押えを認める決定をしている。

ミュゼとの関連は明らかにされていないが、同9月27日付で船井電機の上田智一社長が退任。新たな経営トップとして元環境大臣の原田義昭氏が代表権のある会長に就任している。ミュゼの債務額は不明だが、サイバー・バズは2024年9月期第2四半期に対象債権額として22億円の貸倒引当金を計上している。

船井電機が支払いに難色を示しているのかもしれないが、ミュゼ売却に伴うKOC・JAPANとの債務引き継ぎが解決していない可能性もある。

東芝ですらハマった「トンデモ企業」の買収

こうした問題企業の買収で経営が傾いた企業は決して珍しくはない。最も有名なの事例は、原子力事業の米ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーを買収した東芝だろう。2006年に54億ドルで買収したが、2017年に東芝が原子炉建設事業における90億ドルの損失を理由に、米連邦倒産法第11章の適用を申請すると表明。東芝は最終的に7225億円もの減損損失の計上に追い込まれた。

損害賠償請求訴訟で被告となった田中久雄元東芝社長は準備書面で「WEC(ウェスティングハウス)は長らく原子力プラント建設の機会がなく、WEC案件が久しぶり(米国では34年ぶり)に行う大型の原子力プラント建設であり、かつAP1000(原子炉)の建設は初めてであった」と供述している。原発建設の「原価割れ」を起こしかねない企業を買収したわけだ。その結果、東芝は2023年、上場廃止へ追い込まれることになる。

一方、船井電機は1980年代にテレビやビデオデッキ、電話機といった家電製品のOEM(相手先ブランドによる生産)供給で成長。2006年度の売上高は4000億円に迫ったが、中国製家電製品との競争激化で2023年度は851億円にまで減少している。

こうした状況を打破しようと、同社はM&Aによる経営多角化を目指す。そこで手を出してしまったのがミュゼだった。ただ、これは避けられないアクシデントではなかった。問題企業を見分ける方法があるからだ。

繰り返し転売されている異業種企業の買収は避けるべき

それは「繰り返し転売されていないかどうか」だ。ミュゼは2015年に医療用3DグラフィックスLSIの製造会社として創業した持株会社のRVH<6786>に売却され、2020年には髙野友梨氏が筆頭株主のG.Pホールディングに再度売却される。そして船井電機が買収したわけだ。

このように数年で転売が繰り返される企業は、なぜそうなったのかを見極めたいところだ。親会社が経営危機に瀕しているのならともかく、通常は「優良な子会社」を数年で手放すことはありえない。いわば「赤信号」が点灯していたのだ。

もちろん赤字企業を経営改革で立て直し、高収益企業に生まれ変わらせる「再生型M&A」もある。しかし、ミュゼは船井電機にとっては全くの畑違いである美容業界の企業。船井電機には再生型M&Aを実施するだけの経験やノウハウはない。

船井電機がミュゼの経営実態をどこまで把握していたか分からないが、結果として自社株を仮差押えられる事態に陥ったことから、期待していたシナジー効果が発揮できなかったのは確かだ。本業の不振から起死回生を狙ったミュゼのM&Aだったが、結果的には経営を揺るがす大問題に発展した。

船井電機・ホールディングスは4日、船井電機株差仮差押え報道について「当社は裁判手続き等に関する報道につきましては その客観性を担保するため、本件に限らず、法廷外におけるコメントを差し控えさせて頂いております」とのコメントを発表。「新たな経営体制がスタートし これより経営計画を策定していく段階であり、経営計画についてはなるべく早いタイミングで公表させて頂きます」と述べるに留まった。

文:糸永正行編集委員

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