「2024年問題」で勢いづく陸運・倉庫業のM&A、20件を突破して早くも前年に並ぶ

陸運・倉庫業を対象とするM&Aがハイペースで推移している。今年の件数は21件(適時開示ベース)と、半年余りで前年(22件)にほぼ並んだ。背景にはトラック運転手の残業規制で輸送力不足が起こる物流の「2024年問題」がある。このままいけば、2022年の年間30件を超える過去最多圏が見込まれる。

上場企業に義務付けられている適時開示情報をもとに、M&A Onlineが集計した。M&Aの総件数はここまで前年比18%増の650件(7月22日時点)と高水準を維持しているが、その中で陸運・倉庫業関連も件数を伸ばしている。

適時開示ベース、2024年は7月22日時点。M&A Online作成

C&Fロジをめぐる争奪戦が勃発

今年の前半戦のM&Aで最も耳目を集めた一件といえば、低温食品輸送のC&FロジホールディングスをめぐるAZ‐COM丸和ホールディングスとSGホールディングによる争奪戦だ。

AZ‐COM丸和は丸和運輸機関を中核とし、「桃太郎便」の宅配便でも知られる。一方、SGは佐川急便を傘下に置く宅配便2位で、企業物流や国際物流も幅広く手がける。

AZ‐COM丸和は5月初め、C&Fロジの同意を得ないままTOB(株式公開買い付け)を始めたが、ここに割って入ったのがSG。敵対的買収の標的となった企業に救いの手を差し伸べる友好的な第三者、つまりホワイトナイト(白馬の騎士)として名乗りを上げたのだ。

5年間の猶予期間を経て、今年4月からトラック運転手の残業時間の上限が原則年960時間に制限された。これに伴い、運転手不足による「2024年問題」で物流の停滞が懸念される中、輸送力の確保や輸送の効率化が業界共通の課題となっている。

AZ‐COM丸和、SGの両社は冷蔵・冷凍の低温食品輸送に強みを持つC&Fロジを子会社として取り込み、成長が期待されるコールドチェーン(低温物流)分野を強化することを狙いとした。

争奪戦を制したSGはAZ‐COM丸和側を倍近く上回る買付価格を提示した。買収金額はおよそ1240億円。

アルプス物流を総額1700億円で買収

金額でさらに上をいくのがロジスティード(旧日立物流)によるアルプス物流の買収だ。総額は1700億円を超える。アルプス物流は電子部品・車載情報機器メーカーのアルプスアルパインの系列会社で、現在、東証プライム市場に上場する。

ロジスティードは8月中旬をめどにアルプス物流へのTOBを始め、一般株主が保有する51%余りの株式を約1050億円で取得。そのうえで、残る約49%の株式を保有するアルプスアルパインはアルプス物流が行う自己株取得に応じて約700億円で売却する。アルプス物流を非公開化後、アルプスアルパインはアルプス物流に20%再出資し、引き続き経営に関与を残す予定だ。

アルプス物流の売却に関する第1次入札には国内外の11社が傘下し、3社による第2次入札を経て、ロジスティードが競り落とした。

ロジスティードは2023年3月に米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の傘下に入り、上場を廃止。KKRによる買収はTOBなどで約6700億円に上った。

セイノーは三菱電機傘下を子会社化

路線トラック大手のセイノーホールディングスは約572億円を投じて、三菱電機傘下の三菱ロジスティクス(東京都中野区)を買収することを決めた。66.6%の株式を取得し、10月に子会社化する。「2024年問題」に規模拡大で対応するとともに、顧客企業の調達・製造・販売におけるモノの流れを一元的に管理するロジスティクス領域の強化につなげる狙いだ。

三菱電機、物流子会社の三菱電機ロジスティクスを売却へ

完成車輸送大手のニッコンホールディングスは4月、自動車部品メーカーのミツバ傘下のミツバロジスティクス(群馬県太田市)を子会社化した。

こうした既成の陸運大手がメーカー系列の物流企業を買収する事例は過去10年間で20件近くを数える(一覧表)。

◎上場企業の物流子会社を対象とする主なM&A(HDはホールディングスの略、社名は当時)

発表年買い手対象売り手
2024年 セイノーHD 三菱電機ロジスティクス 三菱電機
ロジスティード(旧日立物流) アルプス物流 アルプスアルパイン
ニッコンHD ミツバロジスティクス ミツバ
2022年 安田倉庫 エーザイ物流 エーザイ
センコーグループHD オーナミ(日立造船傘下) 日立造船
ニッコンHD 安川トランスポート 安川電機
2021年 SBSホールディングス 古河物流 古河電気工業
2020年 SBSホールディングス 東洋運搬倉庫 SMC
セイノーHD UACJ物流 UACJ
SBSホールディングス 東芝ロジスティクス 東芝
2018年 ハマキョウレックス JPロジサービス 日本郵便
エーアイテイー 日新運輸 日立物流
SBSホールディングス リコーロジスティクス リコー
2017年 ハマキョウレックス 千代田運輸 協和発酵キリン
2015年 ハマキョウレックス 千葉三港運輸 日本コークス工業
丸全昭和運輸 日本電産ロジスティクス 日本電産
2014年 三井倉庫HD ソニーサプライチェーンソリューション ソニー
トナミHD 菱星物流 三菱マテリアル

異業種による買収も

陸運など物流企業をめぐる買収は、上場クラスを標的とするものから、地場中小業者を取り込むものまで規模の大小を問わず、広がりを見せている。さらに、異業種からの参入もある。

中部地盤の流通大手、バローホールディングスは3温度帯(常温・冷蔵・冷凍)別で食料品と医薬品の輸配送を手がける鷺富運送(石川県白山市)を4月に子会社化した。物流領域の拡大やサプライチェーン(供給網)の高度化などを狙いとした。

食品配達の大和急送(埼玉県和光市)を7月末に傘下に収めるのはカクヤスグループ。酒類・飲料以外の商品の取り扱いを強化する。大和急送は食品宅配大手のオイシックス・ラ・大地の専属業者で、千葉、埼玉両県と都内の一部をカバーしている。

MBOで株式市場から退出

上場企業にとって究極の買収防衛策とされるのがMBO(経営陣による買収)。

岐阜県を地盤とする路線トラック中堅のエスライングループ本社はMBOを実施したことにより、近く上場廃止となる。買収のターゲットになるのを避けるため、株式の非公開化で先手を打ったとの見方もある。

文:M&A Online

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