レッドブルが、サッカー・大宮アルディージャを買収する理由とは

オーストリアの大手飲料メーカー、レッドブルがTT東日本からサッカーJ3の「大宮アルディージャ」を買収すると多数のメディアが報道した。国内プロスポーツは日本企業間での買収劇が繰り広げられてきたが、外資系企業も本格的に参入した格好だ。なぜ、国内サッカーチームのM&Aが外資を巻き込んで活気づいているのか?

Jリーグでは「当たり前」のM&A

外資がJリーグチームに出資している事例はあるが、1社単独でオーナーになるのはレッドブルが初という。同社は欧米でも2005年にオーストリアのサッカーチームSVアウストリア・ザルツブルグ(現 レッドブル・ザルツブルク)と米メジャーリーグサッカーのメトロスターズ(現 ニューヨーク・レッドブルズ)を買収している。

日本のJリーグチームとも2015年にセレッソ大阪とスポンサー契約し、2022年にセレッソ株の大半を保有するヤンマーとプレミアム・パートナー契約を締結。セレッソの選手がレッドブル傘下の海外チームに移籍するなど、関係を深めていた。

スポーツチームの買収は珍しくない。Jリーグでも2014年に楽天グループ<4755>が「ヴィッセル神戸」を、2018年にRIZAPグループ<2928>が「湘南ベルマーレ」、サイバーエージェント<4751>が「FC町田ゼルビア」を、2019年にメルカリ<4385>が「鹿島アントラーズ」を、2021年にMIXI<2121>が「FC東京」を、2023年にはDeNA<2432>が「SC相模原」を、それぞれ買収している。

買収の理由は、各社とも「ビジネス機会の創出」で一致している。しかし細かく見ると、RIZAPグループは本業とのシナジー、楽天とメルカリは企業ブランド力向上、MIXIはウェブコンテンツの充実、サイバーエージェントとDeNAは地域づくりビジネスへの参入など狙いは様々だ。

日本でスポーツ飲料のシェアを伸ばしたいレッドブル

では、レッドブルはどうか?同社がサッカーチームを買収したのは、スポーツ飲料のマーケティングでカギを握る国だ。とりわけドイツ語圏の国を中央ヨーロッパでのマーケティングの要と見ている。2009年にはRBライプツィヒを買収し、ドイツのプロサッカーリーグにも参入した。

消費者購買情報の「ID-POS」を統計化したデータベース「True Data」(集計期間2024年4月1日〜6月30日)によると、「栄養ドリンク」の販売ランキングで「レッドブル」は6位。サントリーホールディングスの「デカビタC」や大塚製薬の「オロナミンC」、アサヒ飲料の「ドデカミン」などの後塵を拝している。ちなみに7位には「モンスターエナジー」がランクインしている。

レッドブルは1988年、トレイルラン、パラグライダー、カヤック、マウンテンバイクの4種目をチームでリレーする「ドロミテマンレース」のスポンサー契約を結んだのを皮切りに、ウィンドサーフィン、エアレース、ヨットレースといったエクストリームスポーツや自動車レースの最高峰F1などでブランド力を高めてきた。

なぜ「サッカー」だったのか?

だが、いずれも日本では一般消費者に馴染(なじみ)がなかったり、ブームが終わったスポーツばかり。日本で人気があるプロスポーツは野球とサッカーが双璧だが、野球は買収価格が100億円台と高額な上に、チーム数(独立リーグを除く)が12球団と少なく「売り案件」が出て来ない。

一方、サッカーはJ1でも20億円台半ばと安くチーム数も多い。さらには債務超過と3期連続赤字を禁止する厳しいライセンス規則もあって、業績が伸び悩んでいるチームなどの「売り案件」も容易に探せる。

レッドブルが買収する大宮は、2023年度時点で債務超過に陥っておらず当期純利益も黒字だった。しかし、近年の成績は低迷、昨年11月に初のJ3への降格が決まった。親会社のNTT東日本が今後のクラブ強化コストなどを加味した採算性の問題から売却を決めたとされる。円安による「割安感」もあり、今後はJリーグはもちろんのこと、買収相場がさらに安いプロバスケットボールチームの外資による買収が加速しそうだ。

文:糸永正行編集委員

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