NTTドコモがM&Aで「銀行参入」を目指す理由

NTTドコモが銀行ビジネスへの参入に意欲を燃やしている。6月に就任したばかりの前田義晃新社長はM&Aによる銀行業参入の可能性についても言及した。ドコモは1999年にサービスを開始したモバイルプラットフォーム「iモード」の成功で銀行業への参入も取り沙汰されたが、実現しないまま今日に至っている。それがなぜ今、銀行業なのか?

銀行を持たないのはドコモだけ

最大の理由は携帯大手4社のうち、グループで銀行を持っていないのはドコモだけだからだ。auブランドのKDDIは「auじぶん銀行」、ソフトバンクは「PayPay銀行」、楽天モバイルは「楽天銀行」を持つ。

いずれも通信と決済をひもづけることで、安定した利益をあげている。これは携帯業界に限ったことではない。ソニーが2020年に金融子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(HD)をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社したのも、連結決算で銀行ビジネスでの利益を100%取り込むためだった*。日本企業にとって銀行業は不動産業と並ぶ本業の補完事業なのだ。

*ソニーは2025年10月にソニーフィナンシャルHDを分離して、再上場させる予定

さらにクレジットカード事業やポイント経済圏といった金融セグメントの成長も、マネーの「通り道」である銀行業への参入を促す。マネーの移動が手数料を生むからだ。それを他社の銀行に任せるのは大きな機会損失と言える。

M&Aで銀行参入が携帯業界の「王道」

ドコモがM&Aを銀行参入の有力な選択肢としているのは、先行する3社が傘下の銀行をM&Aで子会社化しているため。「auじぶん銀行」は三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)が立ち上げた「モバイルネットバンク設立調査」が源流で、前身の「じぶん銀行」は同行とKDDIの折半出資で設立された。

「PayPay銀行」はさくら銀行(現・三井住友銀行)が富士通系インターネットプロバイダーのニフティなどと組んで設立した「ジャパンネット銀行」が前身だ。楽天も「イーバンク銀行」を買収し、「楽天銀行」として新規参入を果たしていた。

3社とも畑違いの銀行業を垂直立ち上げするために、M&Aという選択肢を選んでいる。いわば「時間を買うM&A」だ。ドコモも既存の銀行の買収に向けて動き始めているのは確実だろう。前田社長は2024年度中の実現を目指すとしていることから、具体的な交渉が進行中の可能性は高い。

文:糸永正行編集委員

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