屋根だけじゃなくドアもない!? 籐で編んだシートは濡れた服でも大丈夫 66年前に登場したフィアット製の個性派“ビーチカー”が超カワイイ
RMサザビーズのオークションに、1958年式の「フィアット600ジョリーbyギア」という名の可愛いオープンカーが出品されました。どんなクルマなのでしょうか。
4気筒エンジンを搭載した「フィアット600」がベース
1950年代、「ビーチカー(ビーチバギー)」と呼ばれるクルマがプチ流行したことがあります。
ビーチカーはその名のとおり、海辺のリゾート地で楽しむためのクルマ。濡れたままの水着でも乗車ができるように、室内は籐で編んだシートを採用したり、当時では珍しかった樹脂製のボディを採用して室内の丸洗いもできたりと、完全に遊びに振ったモデルでした。
そんなビーチカーの先駆けとなったモデルが、フィアット「500ジョリー」です。
フィアット「500」は、ヨーロッパのシティコミューターとして開発されました。当時、フィアットグループの副社長(のちに会長になります)であったジャンニ・アニエッリは、究極のランナバウトをヨットに積むことを望んでいました。
ランナバウトの語源は「その辺を気軽に走りまわる」という意味。つまり、ヨットに載せて、着いたリゾート地で気軽に乗りまわすことのできるクルマということです。
彼は、さまざまなデザイナーに自分の要望を伝え開発を依頼しました。こうして、フィアット500をベースに生まれた「ジョリー」は、イタリア黄金期の「ラ・ドルチェヴィータ(甘い生活)」の象徴となりました。
アニエッリは、この超シックなビーチカーを親しい友人に何台か贈りました。アリストテレス・オナシス(ギリシアの海運王)はヨットに1台、ロスチャイルド卿(イギリスの銀行家)はコルフ島にある彼の邸宅に1台、リンドン・ジョンソン(アメリカ大統領)はテキサスの牧場に1台、所有していました。
取り外し可能なテントのようなサリートップ、籐のシート、カットダウンされたフロントウインドー、ドアのないオープンサイドのジョリーは、サマーバカンスを念頭に置いて考案されました。
このシックなランナバウトはリゾートで非常に人気が高く、ロスアンゼルス沖のサンタカタリナ島では、32台がタクシーとして使われていました。
このアニエッリの提案にはイタリアのさまざまなカロッツェリアが取り組みましたが、もっとも成功したのは、ここで紹介しているギアのモデルでしょう。
この可愛いランナバウトは、1958年から1966年の間に600〜700台が製造されたと考えられています。ほとんどのクルマは、2気筒のフィアット500をベースにしていました。
ですが、ここで紹介しているクルマを含めた少数のモデルは、より強力な20馬力を発生する633ccの4気筒エンジンを搭載した「フィアット600」をベースにしていました。
今回、海外オークションに登場した「600ジョリー」は2012年にモナコで売却され、イギリスのサリーにあるブランドスペシャリスト、DTRヨーロッパスポーツカーに送られ、そこでフルレストアのためにストリップダウンされました。
腐食部分(ギアがカスタマイズしたときの粗雑な部分も含む)が切り取られ、修正されました。
トレードマークである籐のシートは、フェレロ製の2本スポークウッドリム ステアリングホイールと同様に、時代に即してレタッチされ、まるでイタリアン スポーツカーのように見えるかもしれません。
ボディはギリシア国旗の色であるリフレックスブルーにペイントされ、ギリシア国旗をデザインしたサリートップも取り付けられ、フルレストアされたクルマはギリシアのアマンリゾートにある新しい所有者の別荘に届けられました。
このクルマは「クラシック&スポーツカー」2015年8月号のカバーストーリーで紹介され、その中でリチャード・ヘセルティンは「どんなスーパーカーより個性的で、それはつまり、どんなクルマよりもエクスクルーシブです」と述べています。
フィアット ジョリーのようなカスタマイズは、その後のトリビュートモデルやレプリカの作成に影響を与えています。ですが、本物のギア製はきわめて稀なモデルであり、手に入れることが可能なら、望まない人はいないでしょう。
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この1958年式のフィアット 600ジョリーbyギアは、10万800USドル(日本円で約1462万円)で落札されました。
10/01 14:10
VAGUE