“眠たげなヘッドライト”がキュート! 人気車“チンクエチェント”の兄貴分「600」は使えるコンパクトSUV!! 気になる公道での印象は?

絶大な人気を誇るフィアット「500」の兄貴分「600」が日本に上陸しました。今回、日本でひと足早く発売されたのは、電気自動車版の「600e」。「500」よりひと回り大きなボディとプラス2枚となった5ドアボディをまとうこのモデルは、果たしてどんな乗り味を示すのでしょうか?

超コンパクトな「500」と比べるとひと回り大きな「600」

 フィアット「500」なら知ってるけど、フィアット「600」って何?

 もしかすると、この記事のタイトルを見てそう思った人も多いかもしれません。「フィアット『500(チンクエチェント)』の間違いじゃないの?」と思った人も、きっといるでしょう。

フィアット新型「600e」

フィアット新型「600e」

 でも、大丈夫。なぜならフィアット「600(セイチェント)」を知っている日本人はきっと少数派だから。筆者(工藤貴宏)だって、「資料を見ずにフィアット『600』について語れ」といわれたら結構困ってしまいます。というわけで、まずはフィアット「600」とはどんなクルマなのか、ご説明しましょう。

 フィアット「500」は日本でもよく見かける超コンパクトなイタリア車ですが、昨今街中で見かけるのは、2007年にデビューして先日、日本仕様の生産を終了した“21世紀版”。通算3世代目に当たります。

 ルーツをたどれば、初代「500」は1936年にデビュー。ネズミを意味する“トポリーノ”の愛称で呼ばれました。そして1967年に登場した2代目は、現在の軽自動車よりずっと小さい全長わずか2.9mの超コンパクトカーでした。

 多くの日本人が古いフィアット「500」と聞いて2代目を思い浮かべるのは、アニメ映画の名作『ルパン三世 カリオストロの城』の影響でしょう。

 今回フォーカスする「600」は、そんな初代「500」の兄貴分として1955年に誕生。流れ的には、「600」がまず生み出され、追ってそのメカニズムの多くを流用しつつ、ひと回り小さな車体の2代目「500」がつくられました。

 その存在についてシンプルにいうと、「超コンパクトな『500』に対して、ひと回り大きなお兄さんの『600』」と覚えておけばいいでしょう。フィアットによると、新しい「600」は初代「600」からインスピレーションを受けたモデルだといいます。

「500」の方は、日本市場向けのガソリン車の生産を終えた21世紀版というべき3代目の「500e」に進化。そんなBEV(電気自動車)化された「500e」の後を追って登場したのが、今回上陸したBEVのクロスオーバーSUV「600e」というわけです。

 ちなみに、数字の後につく“e”とは電気自動車=ELECTRIC VEHICLEの頭文字で、「500e」に続いて「600e」もエンジンを搭載していない、バッテリーに蓄えた電気だけで走るBEVとなっています。

 なお、「600e」の正式な車名は「セイチェント・イー」ですが、日本語らしく「ろっぴゃく・イー」と呼んでももいいでしょう。日本ではフィアット「500」を「チンクエチェント・イー」ではなく、「ごひゃく・イー」と呼ぶのが一般的ですから。

●商品コンセプトは「500e」に対して100個の魅力をプラス

 そんな「600e」の顔つきは、まぶたを半分閉じたちょっと眠そうなデザインのヘッドライトを始め、「500e」に通じる雰囲気。愛きょうがあります。

 初めてその姿を見た際、「これって『600』じゃなくて『500X』なのでは?」と思ったのは、ここだけの話。「500X」というのは、これまで用意されていた3世代目「500」のお兄さん的なモデルで、「500」と比べると車体はひと回り大きく、ドアも2枚足して5ドアとしたクロスオーバーSUVです。

 すなわち、使い勝手よりもミニマムサイズであることを重視した「500」に対して、実用性に優れたパッケージングとしたのが「500X」の特徴。それはちょうど「500e」と「600e」の関係性と同じです。

 ではなぜ、今回上陸したモデルが『500xe』ではなく「600e」を名乗るのかといえば、「500e」に100個の魅力を追加するというコンセプトだから、とフィアットは説明します。

 そのひとつは、ドアが2枚増えて実用性が高まっていること。そしてもうひとつは、リアシートが広くて快適になっていること、でしょう。

 さらにフィアット車として始めて、4つの運転支援機能(車線維持支援機能、運転席マッサージ機能、電動テールゲート、キーレスエントリー)を採用していることも新たな魅力でしょう。

 残り94個の魅力は……ぜひ皆さんご自身で触れてみて探し出してください。

 新型「600e」において「いいね!」と思ったのは、やはりファミリーカーとしてもおすすめできる点です。正直、「500」や「500e」はデザインがキュートでおしゃれですが、その分、リアシートは狭く、日常的に3〜4名で乗るクルマとしてはちょっと厳しい。また、3ドアなので乗り降りがしにくいしというのも疑わざる気持ちで、1名もしくは2名で乗るクルマという印象です。

 そんなネガも、「600e」なら解決してくれます。「ホントは『500e』が欲しいけれど、家族がいるのでちょっとね」という人にとって、「600e」はちょうどいい選択肢といえるでしょう。リアシートは普通に大人が座れますし、ラゲッジスペースも狭くはありませんからね。

街乗り用のセカンドカーとして考えればかなり魅力的

「600e」はBEVだけに、どれくらいの距離を走れるのか気になっている人も多いでしょう。

フィアット新型「600e」

フィアット新型「600e」

 1充電当たりの航続可能距離は、カタログ値(WLTCモード計測)で493km。実際はその8割程度と考えても、400kmくらいのロングドライブなら無充電でこなせます。日常的なお出かけに使うクルマとしては、全く問題ないですね。

 ドライブフィールは何か大きな特徴があるわけではありませんが、フツーによくできています。アクセルペダルを踏み込むと、「ドン!」と前に押し出されるようなクセのある加速感が皆無。アクセル操作に対してリニアに加速し、減速時のブレーキフィールも自然です。これならエンジン車から乗り換えても素直に馴染めることでしょう。乗り心地も悪くはありません。

 もちろんBEVということで、これ1台で生活のすべてをまかなうにはハードルが高いのは事実。「600e」を所有するなら、やはり自宅に充電環境が欲しいですし、頻繁にロングドライブに出かける人は、外出先での充電に関する不安もあります。

 その一方、街乗り用のセカンドカーとして考えるならかなり魅力的。そういったニーズにはひと回り小さな「500e」でもほぼ事足りますが、ファミリーカーとしてリアシートの使用頻度が高い人であれば、リアドアがついていた方が何かと便利です。

 特有のスムーズな加速や、エンジンの音や振動がないことによる優れた快適性は、一度乗ってしまうともうエンジン車には戻れないくらいの魅力があるBEV。それは「600e」にも当てはまる美点です。しかも、デザインがキュートでおしゃれな「600e」が自宅にあれば、毎日が楽しくなりそうです。

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 フィアットにはかつて「ムルティプラ」というハイトワゴンが存在していました。1998年にデビューした超個性的デザインの、2列シート6人乗り(3人がけ×2列)モデルを思い浮かべる人も多いでしょう。

 そんな「ムルティプラ」ですが、元祖は1956年にデビューした「600ムルティプラ」という最大6人乗りの超小型ワゴンでした。ちなみにそのメカニズムのベースになっていたのが、初代「600」です。

 せっかくですから、そこからインスピレーションを受けたモデルとして、「600e」ベースの新世代「ムルティプラ」の登場にも期待したいところ。しかも、スライドドアを採用したりしたら、シティコミューターとしてかなりの人気を獲得しそうです。

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