障がい者送迎車で続く性犯罪 「GPS監視」強化はもはや必須なのか?
障がい者送迎車の危険性
警察庁小金井署は2024年10月16日、障がい者施設の送迎車で性的暴行を加えた疑いで、同施設に勤務していた71歳の非常勤職員の男性を逮捕した。
もし容疑が事実であれば、密室の車内でSOSを発しにくい社会的弱者を狙った犯行になる。
障がい者支援施設の送迎サービスは、
「保護者や利用者自身の負担を軽減する」
重要な役割を果たしており、利用者の立場やニーズを理解することが大切だ。
安全な送迎の在り方について考えてみたい。
当該事件の再発防止策
当該事件の再発防止策として、重要なポイントは次の三つだ。
・ドライバーのバックグラウンド評価
・ドライバー教育体制の構築
・家族や利用者によるドライバー評価と監視体制の強化
まず、「ドライバーのバックグラウンド評価」については、事業者が職員の性犯罪歴を確認できる仕組みとして、日本版DBS(Disclosure and Barring Service)の活用が期待される。これにより、障がい者施設や児童デイサービスなどの職員も対象となり、2026年度からの施行が予定されている。事務手続きなどで課題はあるものの、この措置は必要だ。
次に、「ドライバー教育体制の構築」については、倫理教育や安全意識の強化が重要だ。法務省は2012(平成24)年1月から2014年12月までに出所した1768人を対象に、3年以内の再犯率を調査した。その結果、処遇プログラムの効果で再犯率が
「21%軽減」
したと報告している。なお、この調査は性犯罪の種類を問わず、全対象者に対して行われたものである点に留意が必要だ。
三つ目のポイントとして、「家族や利用者によるドライバー評価と監視体制の強化」も重要だ。監視体制には、
・衛星利用測位システム(GPS)追跡システム
・カメラ
の導入による安全性の向上が期待できる。また、インターネット・オブ・シングス(IoT)技術を活用したリアルタイム監視システムも有効だ。さらに、利用者やその家族による人物評価も定期的にアンケート調査やヒアリングを行うことで、ドライバーの信頼性を確保することが求められる。
最後に、運送業全体の観点からも再発防止策を検討したい。
モビリティ企業の責任
つまり、福祉・介護送迎は心と身体のケア状況にも配慮しながら、送迎しなければならない。
必要なのは、障がい者支援に特化した運送業者ではないか。
障がい者支援における運送業の役割は、冒頭で述べたように、保護者や利用者の送迎負担を軽減することだ。送迎するのは心や脳、身体に不自由がある人々だ。そのため、一般的な送迎よりもより多くの配慮が必要だ。
例えば、パニックを起こさないように配慮した運転が求められる。シートベルトを固定する際でも、細かい気配りが必要だ。また、送迎は単独の利用者の場合もあれば、複数の利用者を同時に乗せて行うこともある。複数人を乗せる場合は、
・乗車位置
・席順
にも配慮が必要だ。利用者同士の相性も考慮しなければならない。
つまり、福祉・介護送迎では、利用者の心身のケアを考慮しながら運転を行わなければならない。これには、障がい者支援に特化した運送業者の存在が必要だと思われる。
ただし、現在のドライバーの人手不足を考えると、運転技術と心身のケアを両立できる“スーパーマン”のようなドライバーはまれだ。そこで、
「複数の事業者が送迎車を共有」
し、人物評価に行政が関与することがひとつの解決策となるだろう。
さらに、運送業界全体で安全基準を策定し、ノウハウを共有することも重要だ。例えば、児童デイサービスの送迎バスでも、同様の事件が起こる可能性はある。GPS追跡システムやカメラを導入し、リアルタイムで監視できれば、保護者や事業者も安心して送迎業務を見守ることができる。
性被害を防ぐためとはいえ、
「過剰な対応ではないか」
といった意見もあるだろう。しかし、結論としては、これらの対策は必要だ。なぜなら、性犯罪被害は直近4年間で減少していないからだ。
性犯罪の発生状況
警察庁の「令和3年の刑法犯に関する統計資料」によると、12歳以下の子どもへの暴力的性犯罪罪種別認知件数は、2021年の953件を最新として、直近7年間で913件から1065件の間で減少していない。
障がい者への性被害の実態については不明な点が多いが、特定非営利活動法人「しあわせなみが」が2019年に実施した調査では、発達障がい者32人のうち
「35%」
が「生きにくさ」として性的被害を経験したと報告している。詳細は、同法人が法務省に提出した「障がい児者に対する性犯罪の実態」を参照してほしい。
さらに、障がい者施設の総数は増加傾向にある。例えば、放課後等児童デイサービスの事業所数は、2021年に約1万7000事業所だったのに対し、2022年には約1万9000事業所に増加している。この傾向は他の障がい福祉領域の施設にも見られる。
これらのことから、性犯罪被害は依然として横ばいであり、障がい者施設の数は増加しているため、密室の車内や障がい者送迎における性犯罪防止の重要性が高まっていることがわかる。
安全移動の確保に必要なこと
当該事件を調べてわかったポイントは次のとおりだ。
・障がい者送迎において「性犯罪」が発生する可能性がある。
・再発防止には、ドライバーのバックグラウンド確認や倫理教育、監視システムの導入が有効である。
・ドライバーの人物評価も重要で、アンケートやヒアリング調査の実施が効果的だ。
・障がい者送迎は心や脳、身体に配慮する必要があり、高いスキルを持った人材の確保には共同送迎や公共主体の実施が考えられる。
・性犯罪被害は警察庁の統計データから減少していないが、障がい者施設は増加傾向にあり、障がい者送迎の安全対策は急務である。
なお、本稿では障がい者が性被害に遭いやすい「特性」については触れておらず、この点については別の機会に報告が必要である。
また、警察庁の統計データは一部のみ紹介しており、前提条件を踏まえて理解することが重要である。
運送業界全体で、安心・安全な障がい者送迎の未来について考えるべきだろう。
11/09 17:31
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