路線バスドライバー不足を「消防車」「ゴミ収集車」のドライバーで補うのは賢明か? 大阪・交野市のアイデアを再考する

バスドライバー確保の新戦略

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 2024年10月、大阪府交野市の山本景市長は、本年度末に廃止される京阪バスの4路線について、市の職員による運転の検討を行い、路線バスの維持を考えると公表した。

 具体的には、

・ごみ収集車
・消防車

を運転する職員を念頭に置いているようだ。

 現在、大阪地区では大阪・関西万博が一大イベントとなっており、万博会場へのアクセスにバスが使用される。このため、路線バス事業者はドライバーの確保に苦労しており、通常の路線バス事業にも影響が出ている。また「2024年問題」により、バスドライバー不足が顕在化しており、これは全国的な傾向でもある。

 地域の交通を守るために、ドライバーをどう確保するかが全国的な課題となっている。この状況に対し、自治体の職員を活用するという新たな提案が注目を集めている。本稿では、この件を基にドライバーの確保の新しい方法について考える。

ドライバー36000人不足の危機

ごみ収集車(画像:写真AC)

ごみ収集車(画像:写真AC)

 2024年度から、ドライバーの年間労働時間の上限が従来の3380時間から3300時間に引き下げられた。また、退勤から出社までの休息時間も8時間から

「推奨11時間、最低9時間」

に変更された。これはドライバーの働き方改革の一環だが、運用数を維持するためには、より多くのドライバーを確保する必要が出てきている。

 日本バス協会は、2030年までにドライバーが

「3万6000人」

不足すると試算している。全国各地でドライバー不足が問題になっており、2024年3月には東京都足立区のコミュニティーバス「はるかぜ」の一部路線が廃止された。高齢者が利用を期待しているコミュニティーバスも、ドライバー不足により自治体との契約更新が難しくなるケースが増えている。

 もちろん、路線バスを運転するには大型2種免許が必要だが、この免許を持っているドライバーは限られている。このことが地域交通に与える影響は大きい。

交野市のアイデア

交野市(画像:OpenStreetMap)

交野市(画像:OpenStreetMap)

 話を交野市に戻すと、同市では国の「自家用車有償旅客運送事業」を活用することを考えている。この自家用車による有償運送は、道路運送法第78条第2号に次のように定められている。

「第78条 自家用自動車は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。二 市町村、特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、次条の規定により地域住民又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送 (以下「自家用有償旅客運送」という。)を行うとき」

つまり、この自家用車有償旅客輸送事業は交野市が取り組めるものであり、交野市長はこの仕組みを利用して市が主体となり、路線バスの維持を検討できるとしている。

 この仕組みの下では、ドライバーは大型2種運転免許を持つか、大型1種運転免許を保有し、さらに自家用有償旅客運送に必要な講習(交通空白地有償運送等運転者講習)を受けていればよい。

 つまり、原則として大型2種免許が必要な路線バスの運転も、大型1種免許を持つドライバーが条件付きで可能になるのだ。

新人材の可能性は未知数

自衛隊(画像:写真AC)

自衛隊(画像:写真AC)

 交野市は、大型1種免許を持つごみ収集車や消防車を運転する市職員を動員して、路線バスの運行を守る方針だ。

 全国で3万6000人ものドライバーが不足する見込みを考えると、地方自治体がメインアクターとなり、自家用車有償旅客輸送事業を活用して大型1種免許を持つ職員を有効に活用する手段を検討する価値がある。

 2024年5月には、青森県弘前市が退職自衛官にドライバーとして再就職してもらうために、自衛隊と協定を結び、駐屯地でバス運転の体験インターンシップを開催した。このように、バスやタクシーのドライバー不足が深刻な弘前市では、自衛隊と協力してドライバー確保の動きが見られるようになってきた。こうした新しい運転人材確保に期待が集まる。ただし、ワンマン運転のドライバーは運転だけでなく、

・接客
・乗客とのコミュニケーション
・ワンマン装置の操作

なども行う必要がある。他業種から来た人々がこれらの業務を受け入れられるかは未知数であり、もし市民が

「従来の路線バスとは異なるサービスレベルだ」

と感じれば、路線バス離れが起きる可能性もある。そのため、住民も運転者の背景を理解し、代替策に理解を示すことが大切だ。

他の可能性

消防車(画像:写真AC)

消防車(画像:写真AC)

 弘前市の自衛隊員活用の事例があるように、自家用有償旅客運送を行える主体として、国は市町村のほかに

「一般社団法人または一般財団法人、認可地縁団体、農業協同組合、消費生活協同組合、医療法人、社会福祉法人、商工会議所、商工会、労働者協同組合、営利を目的としない法人格を有しない社団」

などを想定している。例えば、高山市の高根地区では、

「まちづくり協議会」

が市の資金を基に地域内でドライバーを確保し、地域の移動手段を有償で提供している。まちづくり協議会とは、自治会連合会のエリアを基盤に、市民が実際にまちづくりの活動を行う組織だ。運行はワゴン車を使用しており、存在意義が各地で高まっている。

 この協議会が地域の

・退職者
・兼業希望者

を見つけ出し、地域バスの運行を確保する方向性が期待されている。また、医療法人や社会福祉法人の送迎車両とそのドライバーを活用する方法も考えられる。まちづくり協議会や医療法人、社会福祉法人は地域に密着しており、地域に精通した顔の見えるドライバーを確保することにも期待が寄せられている。

地域の足を守る意識改革

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 路線バス事業のドライバー不足という厳しい状況を考えると、あらゆる可能性を試す多角的なアプローチが重要だ。自家用有償旅客運送の制度がその鍵となる。

 大型1種免許を持っている人でも路線バスを運転できるのは大きなメリットであり、人材確保にも役立つ。その点で、交野市の動向には注目したい。

 また、地域住民には従来のサービスが高い路線バスについて再考することも求められる。丁寧な接客やアナウンス、大型2種免許を持つドライバーによる安全な運転を期待するのは当然だが、まずは「地域の交通手段を守る」ことが優先事項である。

 路線バスを運転してもらえるだけでも助かる、ありがたいと感じる

「思考のシフト」

も求められるのだ。

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