路線バスの赤字問題、もう「批判」だけじゃ解決しない? 事業者の「96%」が赤字現実、必要なのは利用者の当事者意識か

バス会社の「96%」が赤字

路線バス(画像:写真AC)

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 バス会社の「96%」が赤字である――。

 この事実については、これまで当媒体で何度も取り上げてきたが、今回も改めて書いた。この数字を理解すれば、これから先の内容を読まなくても構わない。それほど重要で現実的な数字なのだ。

 さて、今回筆者(西山敏樹、都市工学者)が伝えたいのは、バス会社に任せて不満をいう社会から、

「利用者自身が考え行動する社会」

へと変わる必要があるということだ。

 ネット上で無自覚に批判を繰り広げる時代は終わりを迎えた。バス会社だけでなく、私たち利用者にも変化が求められているのだ。

「2024年問題」の影響と現実

路線バス(画像:写真AC)

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「2024年問題」が顕在化してきているなか、路線バスドライバーの働き方改革が叫ばれているが、本数を維持するための人材確保は非常に難しくなっている。

 多くの人が、なり手を増やすために、

「バス事業者は予算を捻出すべきだ」
「国や自治体は税金を使って給与を上げるべきだ」

と主張している。しかし、バス事業者の赤字や行政の厳しい経営状況のなかで、お金を出せというのは非現実的だ。

 ドライバーが離職せず、快適に働ける環境を作るためには、利用者自身が考え、行動する社会に変わることが必要だ。何もないところから無理に要求することはできない。

バス事業者の現状分析

路線バス(画像:写真AC)

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 バス事業者の赤字はなぜ生まれるのか。その大きな要因は

「モータリゼーションの影響」

だ。通勤やレジャーで自家用車が使われるため、当然路線バスの利用者は減少している。利用者の中心は、

・高齢者
・障がい者
・学生

など、自家用車の運転ができない、または苦手な人たちだ。また、肝心の通勤輸送も新型コロナウイルスの影響でテレワークが普及し、定期券収入も得られなくなった。4月と10月にまとまった定期券収入が得られない状況は、路線バス業界にとって致命的な打撃となっている。

 さらに、2024年問題が現実化し、ドライバーの給与や支度金の確保も求められる状況だ。行政からはバリアフリーやユニバーサルデザイン、エコデザインの導入が求められ、車両の購入価格も高騰している。2018年の乗り合いバス事業の運行データによれば、全国平均で走行1kmあたりのコストは約477円に上る。その内訳を見ると、

・人件費:約57%
・燃料油脂費:8%
・車両の償却費:6%
・車両の修繕費:6%
・その他の経費:23%

となっている。

 最近では、ドライバー不足を補うために人件費や燃料油脂費が高騰し、利益を上げることが難しくなっている。新型コロナの影響を受けた2020年度には、全国のバス利用者が31億2055万人に減少し、前年度の42億5765万人から

「26.7%減少」

となった。新型コロナが収束し、この利用者数をどこまで回復させられるかが業界の注目を集めている。

 このように、バス事業の全国的な惨状や不景気による税収の減少があるにもかかわらず、依然としてドライバーの給与を上げるべきだという声が多い。筆者は、

「その財源はどうするのか」

と問いたくなる。ここで私たち生活者は、知恵を絞る必要がある。

利用者の意識の変化が必要

路線バス(画像:写真AC)

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 私たち生活者に求められるのは、バス事業者や行政に対して「やれ!やれ!」と叫ぶことではない。苦しい状況にあるバス事業者に

・寄り添い
・一緒に考えながら

バスを維持できる環境を創ることが必要だ。現在のようにバス事業者任せでは、彼らも何もできず、利用者の共感を得ることも難しい。

 筆者は地方自治体の地域公共交通活性化協議会の会長を務めている。この協議会は各自治体に設置され、学識経験者や行政、公共交通事業者(鉄道・バス・タクシーなど)、市民代表、福祉団体などが集まり、地域公共交通の方向性やバスのダイヤについて議論している。地域で公共交通のあり方を話し合う風潮は、公共交通にとって非常に重要な後押しとなる。政策的に公共交通を支えることは、その維持や発展につながり、大切な役割を果たしている。

 例えば、静岡県御殿場市では未来プロジェクト課が

「路線バスを育てよう」

という合言葉のもと、公共交通利用促進運動を展開している。御殿場市は

「路線バスを1年に3回は利用しよう」

と呼びかけた結果、2019年度には前年度比7万人増の85万人が利用することとなった。地域政策を創るには、議会や議員、自治体職員の役割が非常に重要であり、特に首長や議員が公共交通活性化をマニフェストに盛り込むことは非常に少ない。こうしたなかで路線バスを育てる政策は、参考になる優れた例だ。

 さらに、毎年9月20日の「バスの日」には、バスの無料利用日を設けたり、親子を対象にしたバス営業所の開放イベントを行ったりするなど、路線バスの魅力を知ってもらう取り組みが増えている。

自分たちで考えて行動する社会へ

路線バス(画像:写真AC)

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 こうして、路線バスの厳しい状況を生活者や地域にインプットする機会が増えている。問題は、

「その情報をどう活用するか」

というアウトプットの部分だ。インプットを得て地域の移動手段を考え、実際にバスを利用することが、バスの維持と発展につながる重要なサイクルを地域で作り出すことが必要だ。御殿場市のような呼びかけは、

「本当に、路線バスをみんなで使わないと大変なことになる」

という危機感を共有し、生活者の行動変容につながる。ほかにも、滋賀県を中心に交通税について議論したり、全国的なバリアフリー運賃など特定施策運賃の議論を喚起したりすることも重要で、これが市民の行動変容に結びつく。

 筆者は、地域交通の維持を真剣に考えるなら、運賃や税金について

・行政
・事業者
・市民

の三者がともに考える流れが必要だと考えている。今こそ、地域交通の共創を行うべき時期だ。

 そのために、

「利用者が積極的に意見を表明できる場」

を自治体とバス事業者が作ることから始める必要がある。この点で、地域公共交通活性化協議会の有効化が重要だ。その協議会を起点に、バス事業者と市民が協力し、限られたバスの資源の配分やダイヤを共創していく。そして御殿場市のように自治体自ら行動変容を促す流れが全国的に必要だ。もはや、待ったなしの状況に来ているのだ。

新しいモビリティ社会のビジョン

路線バス(画像:写真AC)

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 地域の関係者全体が公共交通について考える際、鉄道・路線バス・タクシーといった乗り物の

「標準的な区分」

をなくす姿勢も大切だ。バスはダイヤ方式に制約があり、ニーズに応じた相乗り型のAIオンデマンドワゴンの普及も進んでいる。また、バス型の車両だけでなく、タクシー型の車両もあり、さまざまな形態が融合している。

 筆者も三鷹市の地域公共交通活性化協議会の会長としてAIオンデマンドワゴンの運行に関わっているが、

「ニーズに応じた柔軟な乗り物」

は非常に評判がよいことがわかっている。このような新しい乗り物の導入も、地域公共交通活性化協議会での議論が基になっている。自治体、事業者、市民の三位一体の議論が新しい地域交通手段を成功に導いており、この協力体制が各地で求められている。

「やれ!」では響かない時代の到来

路線バス(画像:写真AC)

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 本稿で見てきたように、路線バスやそれに関連する乗り合い移動手段について、地方自治体、交通事業者、市民が協力して考える場は確実に増えている。市民が意見を出しやすい環境も整いつつある。

 必要なのは、議員や行政職員がさらに利用促進を進め、考える場への参加を呼びかけることだ。そして、

「利用者としての責任と役割」

を再認識する時期にも来ている。未来のバス社会を創るためには、私たち市民が具体的な一歩を踏み出すことが重要だ。「やれ!やれ!」と声高に叫ぶだけでは何も響かないし、バス事業者もそれでは動かない。

「どうすれば実現できるのか」
「なぜこれまで実現できなかったのか」

を考えるときである。自治体、事業者、市民が協力し、ともに創る仕組みをさらに考えていくべきだ。

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