路線バスの急ブレーキで利用者が転倒! 「移動しないで」と言ったのに、ドライバーに責任を押し付けるのは妥当なのか?
路線バス事故、年2000件超
国土交通省が自動車事故報告規則に基づいて集計した結果、2021年に発生した事故は4320件に上った。事業の種類別に見ると、バスによる事故は2222件で、意外と多い。
2009(平成21)年9月に消費者安全法が施行されて以降、消費者庁も乗り合いバスの事故を把握している。特に路線バスの走行中の事故では、急ブレーキや一旦減速した後の加速時に転倒するケースが多い。
停止信号などから動き出す際には、停車中に座席を移動したり降りたりする準備をした利用者が転倒する事例が目立つ。そこで改めて考えてみたいのだが、ドライバーが停車中の
・座席移動
・降車準備
を促すことはない。むしろ、
「停車中の座席移動や降車準備はご遠慮ください」
とアナウンスする。それにもかかわらず、車内で事故が起きた場合、ドライバーが過失とされることが多い。このような状況について、この記事では考察してみたい。
急ブレーキの原因
路線バスが急ブレーキをかける場面はさまざまに想定されるが、最も多いのは
「歩行者の飛び出し」
だ。特にバスターミナル内やバス停付近の道路など、本来歩いてはいけない場所を歩く人が増え、急ブレーキをかける回数が増加しているとバス事業者は話している。高齢者はバスに乗ろうとして焦ることが多く、さらに危険が増している。また、生活道路では子どもが突然飛び出すケースも多く、これも急ブレーキの要因だ。
さらに、路線バスは大型や中型の車両で狭い道路を走ることも多く、特に古くからの生活路線では新しい道ではなく、わざと住宅地の旧道を通るケースが全国でよく見られる。
そうした道では、停留所に止まっているバスを無理に追い抜こうとする車も多く、急ブレーキを踏まざるを得ない場面が少なくない。加えて、急な車線変更をする車も後を絶たず、路線バスが急ブレーキをかけざるを得ない状況が日常的に発生している。
ドライバーの役割と責任
ドライバーには、四つの重要な資質が求められる。それは、
・安全意識の高さ
・柔軟な対応力
・忍耐力
・コミュニケーション能力(接客能力)
だ。これらはすべて、安全で快適な運転を実現するために欠かせないものだ。
まず、安全意識の高さは何よりも重要だ。交通ルールを守るのはもちろん、乗客が安心して乗り降りできるように常に気を配り、運転中も周囲の状況をしっかりと把握する力が求められる。万が一の緊急時にも冷静に対応できる判断力も必要だ。
次に、柔軟な対応力が必要になる。渋滞や工事、さらに乗客からのクレーム対応など、さまざまな場面で迅速に対応しなければならず、この柔軟性が安全運行を支える要素になる。
また、忍耐力も重要だ。業務中には、長時間の運転やイレギュラーな事態への対応が避けられず、精神的な忍耐が求められる。そして、利用者に座席移動や停車前の降車準備を控えるよう促したり、困っている乗客に優しく対応したりするためのコミュニケーション能力も欠かせない。
こうした能力をすべて備えなければならないため、ドライバーの仕事は非常に高いスキルが要求される。仕事上のストレスがたまりやすい職業でもあり、周囲の理解とサポートが非常に重要だといえる。
運行管理の視点
路線バスの運転には、営業所に運行管理者が存在する。運行管理者は、定時運行の実現や安全を確保するために、ドライバーの
・勤務状況
・健康状態
・道路環境
・関連する法律
などを総合的に把握し、運行を管理する役割を担っている。この運行管理者は国家資格で、年に2回受験することができ、合格すれば運行管理者として就職できる。
運行管理者は、各ドライバーの運転技術や安全意識にも配慮しており、安全確保が最優先の管理目標となる。急ブレーキはなるべく避けたいが、不可避な場合もある。路線バスの車内放送では
「やむを得ず急ブレーキを使うことがあるので、お立ちの際はつり革や保護棒におつかまりください」
と案内されることもあり、これは運行管理者の意向を反映している。
最近では、安全運転のための研修やトレーニングに力を入れる路線バス事業者が増えており、安全運転訓練車を導入する企業も増加している。これらの取り組みは、安全な運転技術の習得とスキル向上を目指している。運行管理者は、できるだけ急ブレーキを使わず、安全で余裕のある運転を実現するために努力している。
このように、路線バスの運行管理者は運転の安全性を高めるために重要な役割を果たしており、ドライバーとともにより安全な運行を目指している。
外的要因の影響
急ブレーキを踏まなければならない状況には、都市や地域計画、道路環境の影響が大きい。例えば、
・狭い道路や舗装が荒れた状態
・交通量の多さ
・他の車の危険な運転
・天候の影響
などが原因で、ドライバーは急ブレーキを踏まざるを得ないことが多い。小学校では長年にわたり交通安全教育が行われているが、その効果が十分に表れておらず、小学生が車道に急に飛び出すケースが多発している。
運転しやすく安全な環境を作るためには、都市や地域計画の見直しが不可欠だ。また、一般路線バスが快適に走れる環境を整備することも重要な政策課題となっている。
さらに、路線バスの
「地域交通における重要性」
を再認識し、2024年問題などによってドライバーの確保が難しくなるなか、離職を防ぎ新たな就職者を増やすためには、路線バスの安全面での協力的な姿勢を周知し、啓発することが求められている。
事例の紹介
2015年、小田原駅のバスロータリーで悲惨な死亡事故が発生した。高齢の女性が横断禁止の場所を渡り、停留所を出発したばかりの路線バスにひかれてしまった。
このバスロータリーは、駅から停留所に向かうために地下街やペデストリアンデッキを利用しなければならない設計となっている。そのため、急いでいる人が横断するケースが多くなり、問題視されている。こうした状況では、急ブレーキが間に合わないこともあるが、それでも横断禁止の場所を渡った人が悪いと理解していても、ドライバーが警察に逮捕されることがある。
また、2024年9月には北海道函館市で路線バスと乗用車が正面衝突する事故が起きた。この事故では、乗用車を運転していた22歳の女性から基準値の5倍のアルコールが検出された。彼女の車が反対車線にはみ出し、路線バスと衝突したとされている。
アルコールを摂取して運転することは明らかに危険であり、問題がある。このように、路線バスはさまざまな要因で不必要に影響を受ける事故が多く発生している。
事故防止のための取り組み
バス業界では、最新の安全技術の導入が進められている。例えば、
・自動ブレーキシステム
・運転支援システム
がその一部だ。いすゞ自動車では、ミリ波レーダーと画像センサーを組み合わせた衝突被害軽減ブレーキシステムを開発しており、これにより停止車両や歩行者を検知できるようになっている。
また、クラリオンの「SurroundEye」という路線バス向け安全運転支援システムでは、停車や発車時に車両周辺の安全を一目で確認でき、中扉付近の乗客の状況も把握できる。このような技術は、バスの安全運行に貢献している。
さらに、最近ではバス事業者が独自に安全運転訓練車を導入し、ドライバーのトレーニングを行う事例も増えている。これにより、事故防止に向けたドライバー支援が強化されている。
しかし、経営が厳しい事業者がこれらの新技術を導入できるようにするためには、政府や地方自治体からの支援が必要である。安全なバス運行を実現するために、技術の導入と支援策が不可欠だ。
外部要因が招く安全リスク
路線バスの安全対策は進化しており、ドライバーへの支援も充実してきた。しかし、ドライバーの努力や運行管理者の取り組みだけでは解決できない問題もある。ルールを守らない人々の行動によって、悲惨な事故が発生することがある。
「本当にすべての事故がドライバーの過失によるものなのか」
という視点を持つことが重要だ。ドライバーの過酷な労働環境や、求められる四つの資質についても理解を深める必要がある。
特に、路線バスが地域交通において果たす重要性を再確認することが求められている。2024年問題などによりドライバーの確保が難しくなっているなか、離職を防ぎ、求人を増やすために、安全面での協力的な姿勢を啓発することが急務だ。すべての問題をバスドライバーの責任にするのは不公平であり、そうなるとドライバー不足がさらに深刻化するのは目に見えている。
事故はドライバーの過失だけでなく、
「さまざまな外部要因」
関与している。安全な路線バスの運行環境を整えるためには、社会全体が理解を示し、協力し合う雰囲気を築くことが必要だ。
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