低賃金と過重労働! 全く報われない「バスドライバー」を復活させる、たった2つの画期的方法とは?
士気低下のワケ
路線バス業界では、「2024年問題」が顕在化し、全国的にドライバー不足が深刻になっている。この問題には、ドライバーの働き方改革という側面もあるが、その背景には長年続いた多くの問題があった。
働き方改革が進んだとしても、
・ワンマン運転での過重労働
・モータリゼーション(車の普及によって社会や生活の形態が変化する現象)
・コロナ禍後のテレワーク普及による利用者減少
・賃金低下
といった問題は解決されていない。多くのドライバーが他の業種に転職しており、業界の士気が極めて低下している。
ストレスの多い環境を避けたい気持ちは理解できるが、ドライバーは地域の重要な足を守る役割を担っているため、彼らの
「士気」
の向上を引き出す方法を考える必要がある。今回、路線バスの利用者の立場に立って、ドライバーの士気を高めるための具体策をふたつ提案したい。
アイデアの提起
具体策とは、
・運賃に加えて投げ銭ができる仕組み
・利用者の評価をボーナスに反映する仕組み
を作ることだ。それぞれの内容を説明していこう。
まずは「運賃に加えて投げ銭ができる仕組み」から。最近はデジタルトランスフォーメーション(DX)化が進み、
・コード決済
・交通系ICカード決済
・専用アプリ決済
など、さまざまな電子決済の方法がある。これらを利用し、利用者がドライバーに感謝の気持ちを直接伝えられるシステムを作ることで、感謝の気持ちを
「お金で示す」
ことができる。そうすれば、ドライバーの士気も高まる。結果的にサービスの質も上がり、ドライバーが仕事に対して前向きな意識を持ちやすくなるだろう。かつて日本でも、旅館の仲居さんにチップを渡す文化があり、それが彼女たちの士気につながったという話もよく耳にする。
投げ銭とチップは似ている部分があるが、ニュアンスや文化的な違いがある。投げ銭は、感謝の気持ちを表すために「自由に支払う金額」で、義務ではなく、サービスを受けた側が自発的に行うものだ。主にライブパフォーマンスやストリーミング配信などで、観客や視聴者がアーティストやサービス提供者を応援する目的で行われることが多い。
チップは、特定のサービスに対して追加で支払う文化を指し、主にレストランやホテル、タクシーなどのサービス業で見られる。特に米国やカナダでは、「サービス料の一部」としてチップがほぼ必須となり、社会的な慣習やプレッシャーから支払われることが一般的だ。
投げ銭は純粋な感謝や支援の気持ちを表す自発的な行動であり、チップは一定の期待や義務感がともなうことが多い。
現在の日本では投げ銭やチップの文化はほとんどなく、米国や欧州でも公共交通での投げ銭文化はない。ただ、米国やカナダでは観光バスや送迎バスのドライバーにチップ(1ドル程度)を渡すことはある。日本でも、路線バスの維持やDXの進展を考えると、車内での投げ銭文化を取り入れるのもひとつの方法ではないだろうか。ただ、投げ銭が
「資金決済関連の法律に違反するのではないか」
という議論はよく見られる。しかし、この問題は主に動画配信サービスなどでの話題だ。公共性が高く、サービスが明確に利用者の目に触れる路線バスの場合、法律を持ち出さずに前向きに投げ銭を導入してもよいと筆者(西山敏樹、都市工学者)は考える。
評価が生む新たな信頼の輪
ふたつ目のアイデアは、「利用者の評価をボーナスに反映する仕組み」だ。これは、利用者からのフィードバックを集め、ドライバーのサービス評価に反映させ、その評価をボーナスに結びつけるものだ。
例えば筆者のような大学教員は、講義の内容について学部生・大学院生から定期的に評価を受けている。評価が高い教員は
「ベストレクチャー賞」
として表彰され、次のボーナスが増額される大学も多い。この方法を路線バスにも応用し、ドライバーのサービスを利用者が評価できるシステムを取り入れるのだ。
最近はDXの進展で、車内のQRコードから評価を送信できるようになっている。利用者がスマホでドライバーを評価し、それをボーナスに反映させる仕組みを作るイメージだ。ただし、低評価があった場合にはドライバーの側にも
「事情」
があるはずなので、高評価の人にだけプラスのインセンティブが与えられる仕組みが望ましい。評価システムは、時間通りの運行といった単一の基準だけでなく、次のような多面的な視点でも評価する必要がある。
・接客態度
・安全運転
・清潔感
こうすることで、ドライバーも幅広い視野で業務に取り組むようになる。複数のインセンティブがあれば、さまざまなサービスの質向上に士気が高まるし、利用者も
「真剣にバスのことを考えるきっかけ」
になるだろう。ドライバーと利用者がともによりよいサービスを作っていく促進にもなる。もちろん、導入にはメリットだけでなく懸念点もある。評価基準が曖昧だと不公平に感じられることもあるし、利用者からの
「意図的な低評価」
のリスクもある。ドライバー側の意見も尊重しながら、このシステムを育てていくことが大切だ。
利用者の声で変わる未来
ここまで紹介したふたつの方法の社会的意義は、
「単にドライバーの収入を増やす」
ことだけではない。前述のとおり、サービス提供者と利用者が一緒に路線バスを考えるきっかけになる点が大きい。利用者が積極的に参加することで、
「自分も路線バスの維持や発展に関わっている」
という意識が育つのが、このアイデアの狙いだ。
以前、筆者の記事に対するコメントを読むなかで、
「収入を増やさないとドライバーが続かないのではないか」
という声が、利用者やドライバーの両方から多く寄せられていた。バス業界を研究する者として、給与を上げる難しさも伝えてきたが、やはり収入増加を望む声は根強い。だからこそ、今回のような投げ銭や利用者評価制度の導入は、利用者と協力して進められる点でよりよい方法だと考えている。
利用者が積極的に参加できる仕組みがあれば、ドライバーの士気も自然と高まり、路線バス全体の活性化が期待できる。こうした仕組みの導入により、サービスの質や業界の健全な成長にもつながるだろう。
地域の足を守るためには、まずドライバーが安定して働ける環境を整えることが基本だ。この重要性を考慮しつつ、新しい仕組みを導入できることを望んでいる。
11/09 06:11
Merkmal