「さっさと降りてくれ!」 バス降車時の運賃支払いモヤモヤ、“現金派40%”が立ちはだかる現実とは

両替待ちが生むトラブル

路線バスの運賃箱(画像:写真AC)

路線バスの運賃箱(画像:写真AC)

 路線バスには、大都市部で均一運賃を採用して「前乗り・前払い」をしているところもあるが、全国的には「後乗り・後払い」が多い。乗車距離によって運賃が変わることがほとんどであり、乗降時に両替して支払うケースが増えている。

 その結果、降車時に

「両替をする人が運転席の横に並ぶ」

ことが多く、なかなかバスが発車できないことがしばしばある。これによって、

・発車を待つ乗客
・定時運行を求められているドライバー

にとってストレスの要因となっている。本稿では両替の観点からバスのスムーズな運行について考える。

両替機のメリット・デメリット

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 路線バスの定時運行を妨げ、ドライバーや乗客のストレス要因となっている両替機だが、メリットとデメリットがある。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなかで、電子マネーだけでよいという意見も増えている。

 しかし、筆者(西山敏樹、都市工学者)の調査によれば、

「10人中6人」

は現金以外の支払い方法を選んでいる一方で、4人は現金決済を希望しているか、電子決済に不慣れで仕方なく現金を選んでいる。また、出張者や観光客など、一時的に訪れる人には現金決済が必要だという声も根強い。両替機は、

・釣り銭の確保
・運賃支払いの柔軟性

という点ではメリットがあるが、降車時の待ち時間が増え、混雑の原因となり、ドライバーや乗客にとってストレスの要因にもなる。正直、

「さっさと降りてくれ!」

と思う人も多いだろう。ただし、調査では、高齢者を中心に電子決済に慣れないため両替機が必要だという意見も多く見られた。

両替機に代わる取り組み

バスの整理券と運賃(画像:写真AC)

バスの整理券と運賃(画像:写真AC)

 国土交通省は、路線バスのドライバーが深刻に不足していることや、運転環境の改善が必要だという背景から、完全キャッシュレスバスの実証運行路線を選定した。同バスが本格的に運行されるのは初めての試みだ。

 国土交通省が定めた路線バスの運送基本事項を記した標準運送約款には、完全キャッシュレスを容認する明確な規定が存在しない。DXが進む時代の流れを受けて、実証運行で効果を確認し、今後の標準運送約款で完全キャッシュレス化を認める準備を進めていると筆者は考えている。

 道路運送法には、やむを得ない事情がない限り、基本的に乗車拒否をしてはならないと定められている。つまり、現金しか使えない客を乗せられなくなると、

「道路運送法に抵触する可能性」

がある。したがって、国土交通省も実証運行から完全キャッシュレスの可能性を慎重に調査し、その結果をもとに今後の政策に反映させる考えだ。今回の完全キャッシュレス実証運行路線は、以下の基準で選定されている。

1.利用者が限定的な路線(空港・大学・企業輸送路線等)
2.外国人や観光客の利用が多い観光路線
3.様々な利用者がいる生活路線で、キャッシュレス決済の比率が高い路線
4.自動運転等、他の社会実験を同時に行う路線

 2024年7月29日から8月19日の間に公募が行われ、全国から18事業者29路線が選定された。早いところでは、順次実証運行が開始される予定だ。また、走行時間帯によってはラッシュ時のみ前乗りにして、いわゆる

「信用制」

で行く場所までの運賃を先払いしてもらう方法をとるエリアもある。

 これにより、ドライバーが運賃をスムーズに収受でき、降車も円滑になるため、状況は改善される。多区間制でも整理券を発行せず、終日前乗り信用制を採用し、乗車時に行く場所までの運賃を支払わせる事業者もある(東急バス)。両替機の代替手段は複数存在する。

バス運営の新常識

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 提案される解決策は、

・情報技術からのアプローチ
・乗降システムの改善

である。以下に解説する。

 情報技術からのアプローチでは、半導体の生産に関する懸念があるが、ICカードの普及を進めることが重要だ。高齢者は事前にチャージを行うことができる場合が多いため、乗車前にチャージするように啓発し、スムーズな降車を促すことが大切である。

 しかし、高齢者はモバイルでのチャージに抵抗を感じ、スマートフォンアプリを使った運賃支払いも苦手だ。そのため、ICカードの普及が問題解決のカギになるだろう。ただし、モバイル決済に慣れた市民が今後高齢化することで、状況は改善する見込みだ。

 乗降システムの改善では、前述の信用制を採用することが重要なカギとなる。乗客が行きたい場所を告げて運賃を先払いする方式を導入することが考えられる。バス事業者は、安い運賃を支払って混乱のなかで遠くまで行こうとする乗客を疑い、後払いを採用しているが、その結果、ドライバーや乗客のストレスが増加している。

 宇都宮の次世代型路面電車(LRT)のように、乗車時にICカードをタッチし、運転席から遠い扉で再度タッチして降車できる仕組みもある。今後増える連節バスでも、LRTのような方法を採用する可能性がある。重要なのは、

「乗客を疑わずに信用できるか」

どうかであり、これがスムーズな乗降に大きく影響する。

 また、ICカードの普及を促進し、バス停近くの店舗や現金自動預払機(ATM)にICカードへのチャージスポットを増やすことも求められる。さらに、バスの遅れを防止し、ドライバーの運転環境を改善するために、乗客の協力を得ながらマナー向上キャンペーンをバス事業者が積極的に展開することが期待される。

ドライバー確保のカギは標準化

IC運賃箱(画像:写真AC)

IC運賃箱(画像:写真AC)

 都市部の事業者を中心に、ICカードを基盤とした電子決済環境は整備が進んでいる。しかし、全国的にバス事業の経営が悪化しており、電子決済環境の導入が進まない事業者には

「公的補助」

が必要だ。また、今後はクレジットカードのタッチ決済も普及していくと考えられる。ICカードとクレジットカードによる決済を中心に、決済機材の業界内での標準化やコストの低減を図ることも重要だ。

 現在、路線バスのドライバー確保は大きな課題であり、

「全国的な機材の標準化」

が求められている。完全キャッシュレス化は人口構成を考えると避けられない流れであり、これを念頭に置いた標準化がカギとなる。バス運転環境の改善政策として、予算化が進むことに期待したい。

完全キャッシュレス化への道筋

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 現状、両替という降車時のプロセスが路線バスのドライバーと乗客にとってストレスの要因になっている。特に、京都のような観光都市では大きな問題となっている。

  繰り返すが、これを解決するためには、完全キャッシュレス化や、信用制を採用して先に支払ってもらう方法、連節バスのような長い車両でドライバーを介さずに電子決済を行う仕組みなど、さまざまな対策が考えられる。

 特に厳しい状況にある路線バス事業においては、完全キャッシュレス化への公的支援が期待される。今後、デジタル技術に強い市民も増えていくことから、それに対応した車内デザインが重要になるだろう。

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