バス事故は年間2200件超! 急ブレーキを減らすために「間に合うダイヤ」が絶対必要なワケ
路線バス事故増加の背景
国土交通省が自動車事故報告規則に基づいて集計した結果、2021年に発生した事故は4320件に上った。事業の種類別に見ると、バスによる事故は2222件(51%)と意外に多い。
特に路線バスの事故では、
・急なブレーキ
・急な車線変更
といった運転に起因するものが多い。また、低床バスで車内後部に段差があるために起こる事故も依然として頻発している。運転中の不意な乗客の行動や指示に従わない行動も、バスでの事故を増やす要因だ。
以前当媒体に書いた「路線バスの急ブレーキで利用者が転倒! 「移動しないで」と言ったのに、ドライバーに責任を押し付けるのは妥当なのか?」(2024年10月30日配信)に対して、
「間に合うダイヤ」
を作ることがとにかく重要で、そうすれば、発進時の衝撃や追突事故、ドア周りのトラブルも大幅に減らせるだろう――といった指摘が寄せられた。今回は、この点を主題として掘り下げていく。
「間に合うダイヤ」とは何か
バス専門家の筆者(西山敏樹、都市工学者)のように、仕事で路線バスをよく利用していると、
「道が空いているのにどうしてこんなに遅れているんだ」
とドライバーに嫌みをいう乗客をよく見かける。自宅や職場の近くなら道の状況もわかっているから、つい文句をいいたくなるのかもしれない。
最近では、乗客も路線バスがどこを走っているか追跡できるようになり、
「この区間をこの時間で走るのは、実際に無理なんじゃないか(通行量などから無理だと判断できる場合など)」
と思うことも増えた。利用者から見れば、
「道路の状況や乗客の行動(運賃の支払い、高齢者の動きなど)」
を考慮してダイヤが組まれているのか、疑問に感じる場面も多い。バス停には「予定通過時刻」と書かれてはいるが、乗客はその予定を知らないか、無視しているのか、
「きちんと時間通りに走れるはずだ」
と苦情をいって、自然とドライバーを焦らせてしまう。
そこで注目されるのが「間に合うダイヤ」だ。これは、すべてのドライバーが無理なく適切な速度で運行でき、追い越しや急ブレーキが不要となり、ストレスや焦りを減らす余裕のあるダイヤのことを指す。だが実際には、道路の混雑状況や乗客の行動をベースにしていないダイヤも多く、単に
「普通に走ればこの時間にバス停に着く」
という予測だけで組まれているケースが目立つ。渋滞や乗降時間を考慮した余裕のあるダイヤにはなっていないことが多いのが現状だ。
「間に合うダイヤ」のメリット
「間に合うダイヤ」を導入すれば、さまざまなよい点がある。
まず、安全性が向上する。余裕を持たせることで、無理に最大速度を出す必要がなくなり、急発進や急ブレーキが減少する。その結果、乗客の転倒事故や車内での事故リスクも低くなる。
また、ドライバーのストレス軽減にもつながる。無理をしない運転ができるようになり、精神的・肉体的な負担が減る。これにより、運転ストレスや疲労の軽減も期待できる。
さらに、燃費効率の向上も見込まれる。余裕を持った運転は燃費の改善にもつながる可能性がある。そして、乗客の満足度向上にも寄与する。結果的に定時運行が守られ、乗客の信頼が高まり、安全性が強化され、快適なバス利用が実現する。
現状ダイヤでの問題点
現在の路線バスのダイヤには、
「ピーク時の交通量」
を考慮していないために余裕がなく、渋滞への対応が不十分な点が見受けられる。特に、信号の右左折での待機時間が長くなるが、そのことがあまり考慮されていない事例が多い。
また、集客のために路線バスが幹線道路の裏の生活道路をあえて通ることもあり、これが
「歩行者の飛び出し事故」
を増加させている原因となっている。さらに、幹線道路を走る場合、追い越しや急な車の割り込みが増え、その結果として急ブレーキをかける頻度も高くなる。このような状況が続くことで、路線バスのドライバーの肉体的・精神的なストレスが増大しているのだ。
加えて、バスドライバーの「2024年問題」により、拘束時間には大きな制約がかかるようになり、時間に余裕のないダイヤが標準となり、結果的に遅延が発生することが予想されるというシナリオが見え隠れしている。
都市交通計画の面では、路線バスが接近した際に信号の青時間を延ばすなどの対策が検討されている。信号の待機時間が長いことがあらかじめわかれば、ドライバー側の心理的プレッシャーも軽減されるはずであり、外的環境からの運転支援が重要である。
「間に合うダイヤ」実現に向けた取り組み
リアルタイムデータの活用は非常に重要であり、交通量や渋滞情報をもとにダイヤを調整する技術的なアプローチが進んでいる。
・バス専用レーンの整備
・優先信号システムの導入
は、運転支援において有効な手段となる。また、効率的な
・停留所の配置
・車線の設計
も、都市計画の一環として運転支援において重要だ。乗降頻度や停留所の位置を見直し、発進や停車をスムーズに行えるような設計が求められる。
さらに「間に合うダイヤ」を作成するためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の技術が有用だ。実際の走行時間やプロセスに関するデータを収集し、それをビッグデータとしてAIに分析させ、最適なダイヤを定期的に導き出すことが技術的に可能になっている。バスダイヤの自動生成はコンピューター分野で長年研究されてきたが、従来のシミュレーションベースのモデル作成ではなく、
「実際の運行データ」
をもとにダイヤを計算する技術が進化している。
また、運行管理者によるリアルタイムな運行管理を強化し、運転支援ができるシステムの導入も重要だ。DXは運転支援の未来におけるカギとなるだろう。
安心安全な路線バス運行のために
ドライバーと話すと、ダイヤに余裕がないという声をよく聞く。2024年問題もあり、路線バス事業者が
「拘束時間を短く見せたい」
気持ちは理解できる。しかし実際には、「間に合うダイヤ」で余裕を持って運転したいと考えるドライバーが多い。事業者は運行効率も重視しているが、安全性やドライバーの働きやすさを考えると、「間に合うダイヤ」の方が重要だ。これがドライバーの働き方改革にもつながる。
「間に合うダイヤ」は、ドライバーのストレス軽減を助け、働きやすさを向上させる。焦りによる事故も防げるため、結果的に地域社会にとっても大きな利益がある。
利用者側からは、より早く目的地に着くことを重視する声も多いが、安全で安心な地域の足としての路線バスを維持するためには、ドライバーにとってよい「間に合うダイヤ」の安定した導入が必要だ。みんなでその支援を行い、公共交通の安全性を高めていきたいものである。
11/08 11:50
Merkmal