路線バス「シートベルト義務化」にすべき? 死亡率大幅低下も、立ちはだかる「短距離移動」という辛らつ現実

バスのシートベルト事情

路線バス(画像:写真AC)

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 皆さん、高速道路や自動車専用道を走るバスには、「原則」としてシートベルトが装着されていることに気づいていると思う。原則と書いたのは、福岡の都市高速のように、時速60km以下で走り、ABSが装着された路線バスではシートベルトがなくても立ち客を乗せて運行できるからだ。横浜市内でも同様のケースが見られるが、これは基本的には少数派だ。

 一般路線バスは、高速道路や自動車専用道を走ることが基本的にない。そのため、シートベルトがなく、立ち客も許可されている。

・乗車と降車が頻繁に行われること
・立ち席定員が必要なこと
・車両の導入コストを抑えたいという意向

などを総合的に考慮して、シートベルトを取り付けていない。これには法的な根拠もある。

「道路運送車両の保安基準第二十二条の三」では、専ら乗用のために使われる自動車で、乗車定員が十人以上のもの(高速道路などで運行しないものに限る)には、運転席とその隣の席にシートベルトを装備することが求められている。つまり、乗客用の座席にはシートベルトを装備する必要がないという法的解釈ができる。

シートベルト不着用が招く危険性

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスの「2024年問題」が顕在化し、全国的に一般路線バスのドライバーを確保するのが難しい状況になっている。この背景には、ドライバーがワンマンカーでひとりで

・運転
・接客サービス
・安全確保

まで行わなければならず、その上、給与が低いという実情がある。要するに、ドライバーにストレスをかけない工夫も人材の確保には必要なのだ。

 ドライバーは、乗客にシートベルトの着用や完全停止まで立たないよう徹底したいと考えている。しかし、法的な根拠もあって、路線バスでシートベルトが普及することはない。ワンロマ車(一般路線と貸し切り・高速の兼用車)などでシートベルトが装着されていても、実際に着用する人はほとんどいない。

 一般路線バスの車両では、短距離移動が多いため、利用者のシートベルトに対する意識が低い。利用者に聞いてみると、

「そのためのプロのドライバーと運賃でしょう」

と答える人も多い。

 しかし、路線バスの事故は避けられない。日本バス協会の公式ウェブサイトによると、2025年までに

「乗り合いバスの車内事故件数85件以下とする」

という目標が掲げられている。これは全国的な目標であり、その裏には乗り合いバスの車内で事故が発生する可能性があることが見えてくる。事故のリスクやドライバーへのストレス、離職、損害賠償などを考えると、シートベルトの着用の必要性についても真剣に考えるべきだ。

「路線バスの義務化」必要性

路線バス(画像:写真AC)

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 交通事故総合分析センターのデータによると、

・シートベルトを着用していない場合の死亡率:0.58%
・着用している場合の死亡率:0.165%

で、非着用の方が約3.5倍も高くなっている。また、重傷率もシートベルトを着用している方が低くなる。もちろん、これは乗用車のデータに基づいているが、シートベルトによって死亡率や重傷率が低下することに異議を唱える人はいないだろう。

 こうした背景から、

「路線バスでもシートベルトを義務付けるべきだ」

という意見がある。特に、ラッシュ時の多客時は難しいが、

・昼間の閑散時間帯
・山間部などの過疎地

ではシートベルトを義務化するのもよいのではないかという声も上がっている。

 シートベルトの義務化により、一般路線バス内での利用者の安全意識が高まる啓発効果が期待できるともいわれている。他の公共交通との整合性も考慮されるが、不便さや拘束感よりも安全性を重視する意見も根強い。

乗客関係悪化の危険性

路線バス(画像:写真AC)

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 一般ドライバーや事業者の視点から見ると、一般路線バスにシートベルトを装着することには、安全性の向上や現場のストレス軽減が期待される。しかし、シートベルトを着用していない乗客への指導や拘束が

「カスタマーハラスメント」

につながることがある。また、マナーとしてシートベルトの着用が浸透した場合、着用していない人に注意をする側と注意をされる側との間で車内トラブルが発生する可能性もある。さらに、シートベルト自体のメンテナンスも考慮しなければならない。

 乗客はすぐに降りることが多いため、過剰に装着を促すと、

「乗客との関係が悪化するリスク」

もある。路線バスの車内の良好な雰囲気を維持する観点からは、シートベルトの義務化が

「やりすぎになるのではないか」

という意見もある。あまりに拘束が厳しいと、路線バスを利用しなくなる人が増えてしまう懸念もある。

運行状況に応じた柔軟性

路線バス(画像:写真AC)

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 一般路線バスにシートベルトを装着するかどうかは、路線環境に応じて柔軟に決めるのがよいと筆者(西山敏樹、都市工学者)は考えている。

 現実的に、2024年問題を受けて路線バスの本数を増やすことは非常に難しい。混雑した車内で、ふたり掛け以上の横並びのシートに座る乗客がシートベルトを着用したり外したりすることは、トラブルを招く可能性もある。また、立ち客もいるため、こうした車内でシートベルトを義務化するのは難しいだろう。

 しかし、軽井沢や日光などの観光地で、カーブが多い路線や地方部の閑散路線では、シートベルトの装着に対する理解が得られやすいと考えられる。重要なのは、

・利用者数
・運行状況

に応じた柔軟な対応を心がけ、一般路線バスでのシートベルト着用を開始し、その効果を評価することだ。

 ドライバーから見れば、乗客にシートベルトの着用を指導し、万が一の事故時に乗客がシートベルトをしていれば、安全促進の努力をしていたことの

「証明」

になる。もし車内モニターでその記録を残せれば、ドライバーの心理的な負担も軽減されるだろう。

 また、事故の性質にもよるが、安全促進に努めたドライバーに対しては、事故時の責任を

「減免」

することが、ドライバーの維持や新規確保につながる可能性がある。責任減免が実施されれば、ドライバーにとってはうれしいことだし、事業者側にとっても指導管理の徹底の証しとなる。

 ただし、事故時におけるシートベルトの寄与を客観的に評価することは難しいという課題もある。とはいえ、基本的にバス事業者にとって、シートベルトは自らを守るための重要なツールとなるだろう。

賛否が交錯するシートベルト論

路線バス(画像:写真AC)

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 本稿で見てきたように、一般路線バスのシートベルト義務化については、公共交通や交通事故の専門家を中心に、乗客とバス事業者の視点が交じり合った賛否の議論が存在する。

 今後は、利用者だけでなく一般ドライバーを守るためのツールとして、シートベルトを考える必要がある。

 あなたは一般路線バスのシートベルト義務化についてどう思うだろうか?

 短距離移動におけるシートベルトの着用についてはどう考えているのだろうか?

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