改めて問う! バス会社はなぜ社員のドライバーを守らず、「乗客クレーム」に加担するのか?

責任転嫁でドライバー離職

路線バス(画像:写真AC)

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 筆者(西山敏樹、都市工学者)は、以前当媒体で「追いつめられるドライバー! なぜバス会社は従業員を守らず、乗客クレームに加担するのか?」(2024年5月17日配信)という記事を執筆した。このなかで、路線バスのドライバーが事故や乗客とのトラブルに対して不当に責任を転嫁される傾向について指摘した。

 具体的には、バスが完全に停止する前に乗客が転倒したり、乗客がバスを降りて他の車両と衝突したり、通学路から飛び出した子どもが事故に遭ったりすることがある。

 このような理不尽な事故やトラブルが発生した場合、ドライバーが責任を問われることが多く、バス会社はドライバーを守ってこなかった。バス会社は沿線住民や利用者に謝罪する一方で、ドライバーへの指導や教育を形だけで行ってきた。

 この状況は、新技術の導入や社内コミュニケーションの改善、行政の支援を通じて早急に解決する必要がある。しかし、2024年問題が顕在化して半年が経過しても、路線バス業界ではドライバー不足が深刻化しており、低賃金問題やドライバーのモチベーション維持も重要な課題となっている。

 今回は「トラブル時の責任のあり方」に焦点を当て、ドライバーが直面している課題を詳しく探っていく。

知られざるドライバーの1日

路線バス(画像:写真AC)

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 まず、ドライバーの1日を見てみよう。

 出勤後、制服に着替え、乗務する路線バスの車両や路線状況を確認する。次にアルコールチェックを行い、車両の動作などの各種点検を行った後、始業点呼を受ける。

 その後、出庫して乗務を開始し、乗務終了後は入庫して車内のチェックを行い、忘れ物がないか確認する。給油や必要に応じた洗車、清掃を行った後、終業点呼をし、運行結果を報告する。

 乗務中は、バスの運転やドアの開閉、マイクでの放送、運賃の支払いのサポート、起終点での忘れ物の確認など、多くの作業をひとりで行うため、非常に神経を使う仕事だ。

 先日、2024年9月14日に北海道恵庭市の道央自動車道で、札幌市内から新千歳空港に向かうバスが燃える火災が発生した。この原因はまだ明らかになっていないが、始業前点検で異常がなかったとしても、走行中にトラブルが発生すれば、乗客の安全を確保するためにさらに神経を使う必要がある。

 また、車内での両替対応も、新札の導入や外国人観光客の増加によりトラブルが増えている。さらに、カスタマーハラスメント(カスハラ)によって、サービス上の無理な要求をする乗客も増えている。

 こうした乗客とのトラブルが表面化しても、ドライバーが責任を問われることが非常に多い。筆者も現役ドライバーに取材を行っており、そこでよく話題になるのは

「トラブル時の責任のあり方」

である。すべての責任が乗客に接するドライバーに転嫁される流れが、ストレスの大きな原因となり、結果として離職につながっている。

 特に将来が期待される中堅ドライバーは、ストレスのためにノウハウを伝える気になれず、将来性を考えて離職するケースが増えている。その結果、

「知識や技術の伝承」

がうまくいかなくなっている。この苦悩を解消する必要性が高まっている。

バス運転手が抱える重大ストレス

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスで事故が発生した場合、一般的な流れはまず警察やバス会社が事故調査を行うことだ。その結果、最終的には車両に乗っていたドライバーに責任が向けられることが多い。

 路線バスでは、急発進や急ブレーキによるけがの治療費が問題になることがよくあるが、基本的にはドライバーやバス会社に対して請求ができる。ただし、バス会社は通常保険に加入しているため、実際にはバス会社が保険会社に請求することになる。

 乗客のけがの治療が終わった後(後遺症をもたらす場合は後遺障がい認定が行われた後)、賠償金が算定されて乗客側に支払われる。一方、事故の程度によってはドライバーにペナルティーが課せられることもある。ペナルティーの種類は軽いものから順に、口頭注意、配置転換、減給、停職、解雇などが一般的だ。

 最近では、ドライバーが事故防止の観点から

「停車までそのまま座っていてください」
「すぐに空いている座席に座ってください。座った後に発車します」

といったアナウンスを行う機会が増えている。しかし、こうしたアナウンスがあっても、乗客がけがをした場合にはドライバーの責任が完全に免除されることはなく、通常は責任を問われてしまう。また、他の労働者の目もあり、

「ペナルティーのうわさ」

が広まることで、ドライバーが働きにくくなることも少なくない。

 同様の状況は鉄道業界やタクシー業界でも見られる。どんなに気を使って運転していても、事故が起きれば責任論につながり、大きなストレスとなることが多い。

ドライバー保護が急務

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスの乗客に関する事故が発生した場合、賠償金の支払いと該当ドライバーへのペナルティーが必要になる。事故にはやむを得ないケースも多いが、カスハラのような事例が増えている現状では、ドライバーのストレスを少しでも軽減することが重要だ。

 秋田県能代市で路線バスや観光バスを運行している第一観光バスは、

「社員を守ることも大切」
「お客様と社員は対等の立場であるべき」

といったメッセージを広めており、注目を集めている。人手不足が背景にあるが、ドライバーも同じ人間として乗客と対等に守られるべきだという考え方は、多くの共感を呼んでいる。ドライバーをトラブルから守ることは

「バス事業者の責任」

であるという姿勢が、多くの支持を得ている。事故時にドライバーを保護する対策や、苦情対応における公平性(乗客だけに肩入れしない姿勢)を示すことで、ドライバーが安心して長く働ける環境が整うだろう。

 また、ドライバーを希望する人々にも、こうした保護姿勢に関心を持ち、

「明確な回答を得られない事業者を選ばない」

という雰囲気が生まれることを期待したい。

業界改善への提言

路線バス(画像:写真AC)

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 実際、ある事業者では、ドライバーがストレスのため急に勤務を休む

「行方不明」

になる事例が発生している。その結果、ダイヤに穴があいてしまった。ストレスが強いと、うつ病などの精神的な問題が生じやすくなり、勤労意欲も失われ、他の職場への転職が難しくなることがある。

 今後の路線バス事業者は

「お客様が第一」

という姿勢だけでは成り立たなくなるだろう。第一観光バスのような企業姿勢が求められる。また、一部の鉄道事業者のように厳然とした対応を取ることも重要で、カスハラに対する姿勢を明示し、社会に発信する必要がある。

 事故が発生した際にも、一方的にドライバーに責任を押し付けるのではなく、状況を慎重に見極める姿勢が求められる。

 バス事業者が透明性や客観性を高めるためには、ドライバーの権利を守る方策に転換することが不可欠だ。カスハラという言葉が使われるが、サービスを考えると、どちらか一方の味方をするのはおかしい。

「ドライバーも乗客も人間である」

という視点で客観的にトラブルを見つめ、公平に責任を判断する姿勢が必要だ。路線バス業界全体で意識改革が進めば、安心して働ける環境が整う可能性が高い。

求められる公平な視点

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスのドライバー不足を解消するためには、トラブル時の責任のあり方を根本的に見直す必要があると強く指摘したい。

 繰り返しになるが、トラブルは人と人との関係から生まれるものであり、消費者が常に正しいわけではない。理不尽な要求も多く存在する。業界の未来を担うドライバーたちからは、

「現場で真剣に働くドライバーを守らない事業者が多すぎる」

という声が寄せられている。

 サービスの現場では、ドライバーと乗客の両方が重要な存在であるため、公平な見方が業界全体で求められているのだ。

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