バスドライバー不足の救世主? いま「中古バス」ががっつり注目されるワケ 観光業の回復を通して考える

観光復活と急増するバス利用

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 日本政府は、資源が乏しい現状を憂い、「観光先進国」を目指すようになった。2016年春以降、「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、取り組みの成果も確実に出ている。

 2019年には訪日外国人の数が3188万人に達した(日本政府観光局推計)。Covid-19を挟み、この数字は戻りつつあり、今後は年間4000万人が見込まれている。さらに、観光の専門家はこれがさらに伸びる可能性を指摘している。

 訪日外国人が日本国内で利用した公共交通では、

・1位:鉄道の在来線
・2位:バス

となっている。観光庁のデータによると、2030年には訪日外国人数が6000万人、そして延べ1億3000万人泊(外国人リピーター3600万人)が予測されている。観光が各地で回復しているなか、気軽に利用できる

・路線バス
・高速バス
・貸し切りバス

は、訪日外国人にとってリーズナブルな移動手段として注目を集めている。

 しかし、バス事業者は2024年問題やCovid-19によるテレワークの普及にともなう定期券収入の激減、さらには長年のモータリゼーションによって、肝心の

「バス車両の代替」

がうまくいっていない。経費削減を考えると、新車ではなく

「中古車両」

を購入せざるを得ない状況も生まれている。これは路線バス、高速バス、貸し切りバスのいずれのクラスにも当てはまる。今回は、中古バス市場に秘められた可能性について解説したい。

新車価格、高騰の理由

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 路線バスの新車価格は通常、税込みで2100万円から2600万円(大型)の範囲にある。高速バスの大型車両は4400万円から4900万円、大型観光バスの新車は3800万円から4400万円といわれている。

 バス事業者によって内装や外部の仕様が大きく異なり、大口購入や長年の取引による割引があるため、価格に幅が生じやすい。ただし、路線バスはバリアフリーやユニバーサルデザインの推進によって価格が高騰している。また、観光バスや高速バスも生産数が減少し、設備の高度化が進んでいるため、コスト回収のために価格が上がっており、事業者にとっては厳しい状況が続いている。

 一方、大型の路線バスの中古車は税込みで280万円から450万円、大型の高速バスは350万円から450万円、大型の貸し切りバスは330万円から450万円程度で販売されている。もちろん、元々の設備がよい車両(例えばトイレ付き)や年式によって価格は高くなることが多い。

 これらの数字は現状の参考値だが、中古車の改装費用を考慮しても、大型路線バスであれば新車1台分の価格で

「中古車5台」

を、大型の高速バスや貸し切りバスであれば新車1台分の価格で

「中古車10台」

を購入できる。新車と比べた場合の経済的な利点は明らかで、中古車を使えば同じ費用で多くの車両をそろえることが可能だ。

 特に中小企業にとっては、車両数や企業規模を考えると、中古バスが現実的な選択肢になる。コスト削減に加え、種車を購入して改装を急げばデビューまでの期間も短縮できる。

中古バスのメリット

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 中古の車両を選ぶ際には、優れた「種車(元となる車両)」を見極めることが重要だ。最近では、バス事業者が所有していた車両だけでなく、

「自家用車(企業の社員送迎車両なども含む)」

で走行距離が少ない車両も中古市場に出回り始めている。中古バスを仕入れて販売する企業も増えており、インターネットサイトには多くの中古車両のリストが掲載されている。“上物”がたくさん出てきているのだ。

 こうした中古バス市場の購入チャンネルが増えたことで、郊外都市型の長めの路線バスを運営する事業者は、ハイバックシートを備えたサービス性の高いハイパワー車両を見つけやすくなっている。また、高齢者の増加にともない、トイレ付きの貸し切りバスや高速バスもインターネットで中古品を探すことができるようになった。

 新車とは異なり、すでに完成している中古車を購入すれば、

・車内整備
・カラーリング変更

を行うことで早期デビューが可能になる。これにより、運行業務をすぐに始められ、貸し切り運行の機会損失を避けることができる。保守や修理用の部品取り車両を購入することもあるが、最近の車両は修繕がしやすい点も魅力で、バス事業者の熟練工が対応することで、中古バスを早期に市場に出すことができる。

中古バスのデメリット

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 もちろん、デメリットも存在する。

 SDGs(持続可能な開発目標)の観点から見ると、中古車両を大切に修繕して使い、事業の持続可能性を示すことができる。私たち市民も、その社会的意義を理解することができるだろう。

 しかし、中古車両ばかりが増えると、

「あそこの車は古い」

と乗客に見破られる可能性が高くなる。実際、関東地方のある都市では、新車ばかりを導入するA社に比べ、中古車を導入するB社は、車両が古いとの評価を受けている。

・排ガスの色や匂いが気になる
・車体のすそがさびている
・へこんでいる

などの外観的な問題が、バス事業者の評判を低下させているのも事実だ。

 バス事業者は経済的なメリットを感じながらも、企業イメージの低下を気にして中古車両の導入を検討している。このようなジレンマは、事業者にとってよくある悩みである。

事業者の動向

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 繰り返しになるが、路線バスは、2024年問題にともなう働き方改革の影響で、ドライバー不足やモータリゼーションによる慢性的な赤字に悩んでいる。また、Covid-19による

「定期券収入 = 安定収入」

の減少も大きな問題だ。現在の最大の課題は、中古車両は安く確保できても、ドライバーの確保が非常に難しいという状況にある。最近では、ドライバーの給与を上げたり、入社時の支度金を増やしたりする路線バス事業者の努力が見られる。

 このような内部予算の見直しでは、コストのかかる新車の導入費用も見直される。新車台数を減らして中古車両を増やすか、新車の延命措置を図るかのどちらかで、予算の見直しが可能になる。今後は、ドライバーの給与や支度金を上げる方策がさらに議論され、中古車両の活用に焦点が当たることが期待される。

 路線バス業界では、減便や廃線が増加している。バスドライバーの数を維持するためには、中古車両の活用を通じて資金を捻出し、その結果としてバスドライバーの給与や支度金を上昇させる流れを作ることが最も効果的だ。

 地方交通の維持が難しい状況では、地方自治体に支援を求めるのは難しい。したがって、企業の自助努力が求められる問題であり、中古バス市場もその支援を行う役割を果たしている。

 最近では、東京の国際興業バスや福岡の西鉄バスが、レトロフィット中古バスを導入している。これは古いエンジン車両を電動に改装したもので、電動バスはエンジン車両に比べて部品点数が少なく、メンテナンス性や環境性能に優れている。これにより、長期的な活躍も期待でき、SDGsへの貢献にもつながる選択肢となる。大都市バス事業者にとって、新たな中古バス導入の流れが期待されているのだ。

 安くて良質なバス車両を見つけて経営改善につなげたり、中古の電動バスで地域への貢献を行ったりするチャンスが広がっている。ただし、古い車両が増える可能性もあるため、良質な熟練工を確保することが重要だ。バス事業者間で熟練工を共有するなど、地域で解決すべき問題も残されている。

「中古バス」の意義と影響

さまざまなバス(画像:写真AC)

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 読者のなかには

「バスに中古市場があるのか」

と驚く人もいるかもしれない。実際、中古バスは導入時に大きな価格面でのメリットがあり、その分を人件費に回すことができる。

 バス事業者は必要な部分に予算を振り向けることができ、中古バスは非常に魅力的な選択肢となるのだ。

 また、地域のバス運行の維持においても、中古バスは重要な役割を果たしている。

 一方で、地域では古いバスの導入が

「サービスの質」

に疑問を持たれることもある。しかし、古い中古バスが運行の維持に役立つことは消費者がしっかり認識していくべきことだ。

 路線バス、高速バス、貸し切りバスのいずれにおいても、中古車両がバス事業者の経営改善につながる有効な手段であることを理解してほしい。

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