路線バスの復活にはやっぱり「自助努力」が重要? 100万円の支度金から超若手の採用まで! 2024年問題の顕在化“半年”で考える

2024年問題顕在化から半年

路線バスのイメージ(画像:写真AC)

路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 路線バスのドライバーの働き方改革として、退勤から次の出勤までの時間を最低9時間、推奨11時間にするという政策が導入されてから半年以上が経過した。

 残業時間にも制限がかかり、従来の運行本数を維持することが難しくなっている。つまり、ドライバーの確保をこれまで以上に進めるか、本数を減らすなどの対策を採らざるを得ない状況に、路線バス事業者は追い込まれているのだ。

 地域の足である路線バスを守るため、各地で新たな取り組みが始まっている。本稿では、路線バス事業者の事業改善に向けた自助努力を見ていきたい。具体的には、

・ドライバーの給与や支度金の捻出
・ドライバーの新しい人材の確保
・効率的な運行方法の検討
・キャッシュレス導入による負荷軽減

に分類して考察する。

ドライバー待遇改善の裏側

長電バスのウェブサイト(画像:長電バス)

長電バスのウェブサイト(画像:長電バス)

 ではまず、「ドライバーの給与や支度金の捻出」について説明しよう。

 路線バスのドライバーの給与水準が低いことが、2024年問題で明らかになった。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、年収は平均で約440万円。年齢が高くても、入社後は年収が300万円台後半でとどまることもあるが、勤続年数が長くなると年収も上昇し、若いうちに入社して15年以上勤めれば、500万円を超えるケースも少なくない。

 こうした状況を少しでも改善しようと、給与や支度金を上乗せする事業者が増えてきた。例えば、長電バス(長野県)は、県内に移住して同社に就職したドライバーに

「支度金100万円」

を支給する制度を導入している。大型二種免許を持っている人が対象だが、免許を持っていない場合でも70万円を支給し、「大型二種免許取得費用全額補助制度」を利用できる。また、住居の賃貸費用の半額を補助する制度(上限3万円/月)も提供され、5年以上の勤務を条件としている。

 長野県内で大型二種免許保有者が少ないため、県外からの人材確保を強化する意図がある。このような取り組みは、今後他の地域にも広がると予想されている。ドライバーの待遇改善に向けた動きは歓迎されるべきだが、一方で課題もある。

 既存のドライバーにはない新しい制度の導入によって、

「社内での公平性」

をどう保つかが問題となる。事業者側にとっては、難しいバランスを取る必要が出てくるだろう。

超若手ドライバー育成が急増中

岐阜バスのウェブサイト(画像:岐阜バス)

岐阜バスのウェブサイト(画像:岐阜バス)

 次は「ドライバーの新しい人材確保」についてだ。

 路線バスを運転するための大型二種免許は、2022年5月の制度改正で取得条件が大幅に緩和された。以前は「21歳以上で、かつ普通免許取得3年以上」という条件だったが、特別講習を受ければ

「19歳以上で普通免許取得1年以上」

に変更された。この改正によって、若手ドライバーの育成がしやすくなり、最短で19歳から大型二種免許が取得できるようになった。

 最近では、20歳前後の超若手ドライバーが誕生するニュースも増えてきた。岐阜バス(岐阜県)や豊鉄バス(愛知県)などでも、若手の路線バスドライバーが育成されている。アルピコ交通(長野県)では、20歳のドライバー候補生ふたりを採用し、積極的に育成を進めている事業者も現れている。

 さらに、一部のバス事業者では、

・外国人ドライバー
・女性ドライバー

の採用も検討されている。特に主婦層で大型二種免許を持つ人材を掘り起こす動きがある。女性ドライバーは徐々に増えてきているが、外国人ドライバーについては車内サービスの慣習の違いなどが課題となり、採用がなかなか進まない現状がある。

 それでも、多くの事業者が、超若手ドライバーの確保に手応えを感じ始めており、彼らを定着させることが問題解決のカギとなりつつある。

AI活用で進化するバス運行革命

のるるで使用する中型バス(画像:みちのりホールディングス

のるるで使用する中型バス(画像:みちのりホールディングス

 三つ目は「効率的な運行方法の検討」についてだ。

 茨城県高萩市とみちのりホールディングスの茨城交通は、朝夕のラッシュ時には定時定路線のバスを運行し、日中は「のるる」というオンデマンドサービスに切り替えることで、運行の効率化を図っている。

 のるるは、スマートフォンや電話で利用者がバスを呼び出し、人工知能(AI)が最適な経路とダイヤを自動で作成し、相乗りで運行する仕組みだ。終日中型の路線バスを使用して、無駄な人件費や燃料費を削減している。

 こうしたAIオンデマンドバスやタクシーの導入は各地で進んでおり、高萩市のように利用状況に応じて定時運行とオンデマンドを使い分ける方法は、非常に革新的だ。

 固定された路線を柔軟なオンデマンド式に切り替えることは、時代のニーズに応えるものであり、高齢者の乗り換えの負担を減らすためにも、ドア・ツー・ドアのオンデマンドサービスの必要性が高まっている。

多客路線で進化するDX

キャッシュレスのイメージ(画像:写真AC)

キャッシュレスのイメージ(画像:写真AC)

 最後は「キャッシュレス導入による負荷軽減」だ。

 日本の路線バスドライバーは、基本的にワンマン運行を行っており、

・運転
・ワンマン装置の操作
・接客

など多くの業務を担っている。京都のように観光と日常生活の両方で利用される多客路線では、外国人の両替から入金まで非常に長い時間がかかることが多い。両替を手伝ったり、異なるフリーパスを出されて説明したりするために時間が取られ、その結果、ダイヤが必要以上に乱れてしまい、ドライバーにはストレスがたまることになる。

 そこで、路線バスドライバーの負担を軽減するために、完全キャッシュレスバスの実証運行が国土交通省の主導で進められることになった。公募により、2024年11月から各地で実証運行が開始される。

 国土交通省は、次のような路線での実証運行を許可した。これは、キャッシュレス決済環境を整えるための事業者の努力が背景にある。

・利用者が限定的な路線(空港・大学・企業輸送路線など)
・外国人や観光客の利用が多い観光路線
・さまざまな利用者がいる生活路線で、キャッシュレス決済比率が高い路線
・自動運転等、他の社会実験を同時に行う路線

この実証運行の成果によって、キャッシュレス決済が大きく進展する可能性がある。自動運転技術やキャッシュレス決済技術など、路線バスのデジタルトランスフォーメーション(DX)を少しずつ進めることが望ましい。

2024年問題への道筋

路線バスのイメージ(画像:写真AC)

路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 こうして、路線バス事業者の自助努力が少しずつ進み、2024年問題の解消が多面的に進められている。方向性も徐々に共有されるようになった。

 しかし、先進事例を知りたいと考える事業者や、情報共有を望む中小の事業者が多いのが現状だ。

 路線バス業界での自助努力とその成果を共有できるような取り組みには、行政の役割が期待される。

 こうした自助努力が効果的に広がることを、筆者も願っているし、支援していきたい。

ジャンルで探す