「乗らないから関係ない」じゃ済まされない! 路線バス崩壊危機、ドライバーの「給与」を今すぐ上げるべきこれだけの理由

ドライバー不足がもたらす影響

路線バス(画像:写真AC)

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 2024年問題が現実となり、バス業界では路線バスのドライバー不足が深刻化している。コロナ禍で利用者が減り、将来に対する不安からドライバーが離職するケースも増えている。

 また、労働時間に関する規制が導入され、退勤から次の出勤まで最低9時間、推奨では11時間の休息が必要になっている。これにより、全国のバス事業者は従来の運行本数を維持するためのドライバーを確保できていない。

 筆者(北條慶太、交通経済ライター)はこの原稿を京都市内で書いているが、ここでは

・生活路線
・観光路線

が多く交差している。インバウンド需要も大きいが、本数が減少するなかで、地元住民が路線バスに乗れない状況も見られる。観光客のなかには大きな荷物を持った人も多く、車内の混雑も限界に達している。このような問題は全国で起きている。

 一般の人々はバスドライバーについて知っているつもりでも、実はあまり理解していない。運行本数が減っていることには気づいているものの、なぜドライバーが不足しているのかはよく知られていない。日々忙しいので、仕方ないかもしれないが、今こそその背景を知るべき時期だ。

 事態はもはや深刻であり、なぜドライバーが不足しているのか、なぜ彼らの待遇改善が必要なのか、今回はその基本的な知識を改めて共有したい。

賃金問題の背景

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスドライバーの賃金は、重労働に対して低い水準にある。出庫から入庫までの間、バスの運賃収入の他にも、

・接客業務
・起終点での車内点検
・清掃

など多くの業務をひとりでこなさなければならない。また、ダイヤの都合で待ち時間が多く、実質的な拘束時間が増えてしまう。残念ながら一般利用者にこの苦労が知られることはない。

 厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「jobtag」の令和4年のデータによると、路線バスドライバーの平均年収は398万7000円だ。同年度の日本全体の平均年収の中央値が

「423万円」

だった。路線バスドライバーの年収は全体より

「約6%」

低い。2024年4月以降は、改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(厚生労働大臣の告示))に基づき、1か月の拘束時間が原則281時間以内、4週平均で1週間あたり65時間以内と定められている。しかし、神経を使う仕事に対して給与が安いのは明らかだ。

 路線バス業界では人手不足が続いているが、賃金は上がらない。コロナ禍の影響で安定した定期券収入が減少し、モータリゼーションが進展しているため、賃金を上げる余裕がない状況だ。

賃金が上がらない根本理由

路線バス(画像:写真AC)

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 路線バスの場合、事業者が運賃を値上げする際には、公式のインターネットサイトやバス停の掲示に「国土交通省への申請を行った」と記載されている。

 一般的な商品のように、需要が大きい路線では運賃を安くし、需要が少ない路線では運賃を高く設定することは難しい。多くの人が乗るからといって、路線によって値上げして総収益を増やす戦略も取りづらい。

 路線バス業界には

「上方硬直性」

という特性があり、需給の一致のための価格調整が働きにくい。

 そのため、ドライバーの給与を簡単に上げることができないのだ。また、経営層が将来の賃下げを懸念してあえて賃上げを控えている現状もある。

一般人へのデメリット

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 冒頭で観光都市であり生活都市でもある京都の事例を挙げたが、路線バスドライバー不足は減便に直結する。路線バスの減便や廃止が進むと、通勤や通学、日常の移動手段が制限されることになる。

 例えば、長野市内で路線バスを運行している長電バスは、

「日曜日運休」

を発表し、大きな話題となった。休日に働く人もいるため、免許を持たない学生はクラブ活動や通塾ができなくなることから、心配の声が上がった。

 現在では運行再開が進んでいるが、休日の運休は地域経済にも悪影響を及ぼす。路線バスがないことで、休日に人々が街に出なくなり、にぎわいが失われる。地域の観光や商業も影響を受け、住民の生活も不便になる。これにより地域の活力が低下し、最終的には都市や地域の衰退につながる。さらに、路線バスの減少は

「自家用車の利用増加」

を招き、地域の道路の混雑や環境への負担が増す。路線バスの衰退は、

「街の衰退を加速させる」

ため、何とか食い止める必要があるのだ。

待遇改善がもたらす未来

路線バス(画像:写真AC)

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 このような社会的状況を考えると、ドライバーの待遇を改善し、その数を増やすことが街の衰退を食い止める鍵となる。路線バスの安定的で安全な運行や地域交通の維持には、待遇の改善が欠かせない。そのためには

「運賃の見直し」

もひとつの手段である。例えば、現在東京都内の路線バスの均一運賃は230円から240円だが、一時的に雇用の安定を図るために

「250円から300円」

にする案が社会で議論されることもある。これは特定目的運賃の考え方である。安価な運賃は一時的にはメリットがあるかもしれないが、長期的には不便や社会的コストを招く恐れがある。

 もしドライバーの給与を上げにくいのであれば、社会全体でドライバーの税金を大幅に減少させ、その負担を許容するアイデアも考えられる。また、税金を使って給与を上乗せする案もある。

 こうしたさまざまな方法を社会全体で議論し、ドライバーの労働環境を改善することが急務である。もちろん、賃金を上げるだけでなく、よりよいキャリアパスの提供も重要である。

 例えば、事務職への転換可能性を示し、将来的なやる気を促すことが求められる。筆者が知るバス事業者には、元ドライバーで現在は運行課長を務めている人がいる。彼は運転現場を知っているため、運行課長としての力を発揮している。若者の就職意欲を高めることも必要だ。

ドライバーの価値を見直す時

路線バス(画像:写真AC)

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 私たちは地域の衰退を防ぐためにも、ドライバーの重要性を改めて認識する必要がある。

 賃金や待遇の改善策として、事業者が自ら努力して支度金や給与を引き上げる例も増えてきている。

 また、運賃や税金の使い方については、消費者の意見を交えた議論が欠かせない。最終的には、私たちの生活の利便性を守るためにも、ドライバーの待遇改善が求められている。

 これから確実に免許を返納し、運転できなくなる高齢者が増えることを考えると、長期的で広い視点に立った議論が必要だ。

「私は、わが家は、路線バスに乗らないから関係ない」

とはいっていられない。事態はすでに進行しており、街の衰退を加速させる結果につながる。このことをぜひ心に留めてほしい。

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