トヨタが「米ディーラー」から圧倒的支持を集める根本理由 信頼度72%で業界平均の「3.6倍」の現実とは

業界人も認めるうまみ

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタ自動車のロゴマーク(画像:AFP=時事)

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタ自動車のロゴマーク(画像:AFP=時事)

 トヨタが米国でも非常に人気のあることは広く知られていることだろう。2023年に行われた調査会社J.D.パワーによる自動車ブランドロイヤルティー調査では、トヨタが量販車部門で2年連続の1位を獲得している。

 この調査は、車を買い替える際に同じブランドの新車を購入したオーナーの割合を調べたものであるので、実際使ってみた上での継続した人気を計ることができるものである。

 自動車販売等を行い、業界のニュースを配信する米コックス・オートモーティブ社(Cox Automotive)のリポートによれば、オーナーたちは、「燃費のよさ」「信頼性」、そしてなにより

「高い再販価値」

を評価している(2024年4月1日、同社リポート)。

さらに目を引く記述がある。トヨタは

「ディーラー受け」

のよいメーカーということ。つまり、ディーラーに利益をもたらすメーカーである、というのだ。

 2023年、NADAディーラー態度調査で、レクサスが業界1位、トヨタが2位に選ばれた。ケリガンリポートでも、ディーラーの72%がトヨタに対し最高の信頼評価を与えている。業界平均は

「20%」

にも拘わらず、だ。

 同社のエンタープライズ・インサイト/アドバイザリ担当シニア・ディレクターであるブライアン・フィンケルマイヤー氏は、日産で20年近くにわたりさまざまな営業リーダー職を務めてきた人物だが、もし幸運にもトヨタからディーラーにならないかという電話を受けたら、すぐさま快諾するとリポートを締めくくる(2024年4月1日、同社リポート)。

トヨタ・レクサスのもたらす利益

J.D.パワーの調査「With More Choices, Brand Loyalty Slips among New-Vehicle Owners, J.D. Power Finds(選択肢が増えると、新車オーナーのブランドロイヤルティーは低下する、とJ.D.パワーが発見)」(画像:J.D.パワー)

J.D.パワーの調査「With More Choices, Brand Loyalty Slips among New-Vehicle Owners, J.D. Power Finds(選択肢が増えると、新車オーナーのブランドロイヤルティーは低下する、とJ.D.パワーが発見)」(画像:J.D.パワー)

 同社の分析によると、トヨタとレクサスのディーラーの数は全米の9%にすぎないが、2024年2月の業界全体の新車粗利益の

「29%」

を獲得している。フィンケルマイヤー氏は、トヨタは自社とディーラーの双方に利益を出すよう努めてきたので、信頼関係が築けていると話す。

 他メーカーは自社の粗利益を優先して生産計画を立てているが、トヨタの場合はディーラーからの発注情報を収集しながら、何を生産し出荷するかを決める。供給と需要をうまく調整する。

 それにより、トヨタは商品が早く回転し、不良在庫はほぼ出ないので、ディーラーの利益が最大化する。

短い在庫日数

 この在庫日数だが、同社の2024年8月15日の記事によれば、同年7月のブランド別在庫日数は、短い順に、

・1位:トヨタ 29日
・2位:レクサス 33日
・3位:ホンダ 43日
・4位:キア 55日
・5位:スバル 56日

だった。なお、ワースト5は、

・1位:ジャガー 131日
・1位:ダッジ 131日
・3位:ジープ 129日
・4位:アルファロメオ 126日
・5位:ボルボ 108日

である。8月のブランド別在庫日数においても、

・1位:レクサス 30日
・2位:トヨタ 35日
・3位:ホンダ 46日

と、トヨタ、レクサスの1位、2位は守られている(2024年9月19日付、同社リポート)。

 米国の自動車メディア「ワーズオート」に北米トヨタが提供した数字には、より詳しい情報があり、トラックの在庫は29日、自動車の在庫は21日だった(2024年9月10日付、同社リポート)。

 北米トヨタのグループ副社長兼ゼネラルマネジャーであるデイビッド・クリスト氏は、
「ほとんどの車両は、基本的に、ディーラーに到着する前に販売済みです」

と説明する。需要が依然として非常に高く、生産レベルも非常に高く、よく売れ、回転率がよい。

低いインセンティブ

インセンティブのイメージ(画像:Pexels)

インセンティブのイメージ(画像:Pexels)

 ところで、メーカーは、ディーラーに対してインセンティブを出している。ディーラー側はこれを使って、値引きなどの販促活動を行う。消費者には喜ばしいものである。

 業界全体の7月の平均インセンティブは平均取引価格の7.0%で、トヨタとレクサスは、その

「半分」

であった(2024年9月10日付、同社リポート)。この7.0%という数字だが、上昇傾向にあり、1年前と比較して59.1%増加している。

 なお、この月は、量販車メーカーの中ではインフィニティ、フォルクスワーゲン、アウディ、日産のインセンティブ支出が最も高かった(2024年8月13日付、米コックス・オートモーティブ社リポート)。8月は、7.2%に上昇した(2024年9月19日付、同じ社)。

 基本的に、在庫が余っているとインセンティブは上昇する傾向がある。トヨタの場合、在庫日数が非常に少ないことなどが、インセンティブ支出の低さにつながっているが、それでも、

「ディーラーの利益は非常に健全」
「歴史的にみても好調」

と、クリスト氏は話す。

サイバー攻撃対策

トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)

トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)

 最近、米国のディーラーにとって脅威となっているものに

「サイバー攻撃」

がある。全米で約1万5000店のディーラーにソフトウエアを提供するCDKグローバルがサイバー攻撃を受けた。

 2024年の6月19日の祝日に始まり、翌日も攻撃を受け、「ディーラー管理システム(DMS)」という、ディーラーに欠かせないシステムが停止し、米国とカナダ全土のディーラー業務に影響が出た。

 融資・保険の手配、車両・部品の在庫管理、販売・修理の完了などを管理していたので、契約書は手書き、顧客の信用度は不明、新車の納車日・交換部品の入荷時期は電話がつながるのを待つといった事態になった。完全復旧に時間がかかり、大きな損害が出た。

 トヨタは独自のシステムを持っている。ディーラーと話し合いながら10年以上かけて開発したシステム「スマート・パス」は消費者がオンラインショッピングにも使えるものである。ディーラーの在庫状況もソファの上から確認できる。このセキュリティーについて、クリスト氏は、「トヨタ本社の最高レベルのデータ暗号化とデータセキュリティーを使用」し、

「あらゆる種類の潜在的な攻撃に耐えられる」

と確信している。こういった面からも、トヨタはディーラーの支持を強くしていく。

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