「レクサスブランド再定義」「低価格EVで市場席巻」…トヨタが“生き残る”ために必要な戦略とは?

トヨタが「自動車産業大変革期」を勝ち残るのに必要なこと――テスラとの再提携“西側最強タッグ”結成のインパクト〉から続く

自動車業界は今後、「100年に一度の大変革期」を迎える。そんななか、トヨタが生き残っていくために必要な戦略とは? 元トヨタ・レクサスブランドマネジメント部長である髙田敦史の著書『トヨタの戦い、日本の未来。──本当の勝負は「EV化」ではなく「知能化」だ!』より一部抜粋、再編集してお届けする。

【写真】BYDの大ヒットモデル「seagull」とキャンペーンモデル

SDV時代の「レクサスブランド再定義」

レクサスは1989年に米国向けの高級ブランドとして立ち上がり、短期間でGerman3と呼ばれるメルセデス・ベンツ、BMW、アウディと並び称されるブランドに成長した。しかし2021年にはテスラに抜かれて、現在は高級車市場で第4位になっている。

レクサスはトヨタブランドに先立ち「2035年にEV100%」を目指すと宣言しているが、メディアでの報道を見る限り、やや「走り」の要素に振り過ぎているように感じる。今後EV化とSDV化が進行する中でレクサスの役割を再定義した方がいいのではないだろうか。

今後の自動車業界のトレンドはEV化だけではなく自動運転も含めた知能化であろう。そして、自動運転や知能化に最初に反応してくれるのは高感度な富裕層である。レクサスはいわゆるイノベーターと呼ばれる顧客を対象に実験的なSDV(Software Defined Vehicle)を高価格で販売する戦略をとるべきではないだろうか。

テスラの初期ユーザーがそうであったように、イノベーター層は自ら喜んでモルモットになってくれるからだ。具体的に言えばソニー・グループと本田技研工業の折半出資で設立されたソニー・ホンダモビリティが開発している「AFEELA」のような実験的なモデルこそ、レクサスが導入すべきだと思う。

価格は1億円を超えてもいい

2023年12月にレクサスのラグジュアリーミニバン「LM」が日本市場にも導入された。LMはトヨタブランドのアルファード/ヴェルファイアとプラットフォームを共通化したレクサス初のミニバンであり、2020年に先代モデルが中国に導入され、その後インドや東南アジア市場にも展開されている。

今回日本に導入されたモデルは2代目である。2000万円という高価格にもかかわらず予約注文が殺到して大変な人気になっている。今回のモデルから欧州市場にも導入されたが、トヨタにとって最大かつ最重要市場である米国への導入は本稿執筆時点では確認されていない。

米国市場はミニバン市場自体が小さいことと、米国の規準ではLMのサイズが中途半端であることが理由だと思われるが、中国や日本でいくら人気があっても、レクサス誕生の地である米国で売れないクルマはフラッグシップとは呼べない。

私は米国市場も含めてグローバルに適用する超高級ミニバンをレクサスブランドから発売してはどうかと思う。コンセプトは「SDV技術を駆使した最先端の動く部屋」とする。いわば「新世代VIPコンセプト」の最上級版である。

トヨタが得意とするミニバンの空間づくりに工芸品的な美しさを加え、最先端のテクノロジーを搭載した「新しいフラッグシップ車」の導入は大きな話題を呼び、レクサスのブランド価値を更に高めることになるだろう。価格は1億円を超えてもいいと思う。米国の富裕層にとっては安いものである。

チームトヨタで低価格EVを開発

今後はクルマの知能化が進むと書いてきたが、ここでは逆のことを書く。全ての顧客が「クルマが知能を持つこと」を望んでいるわけではないからだ。

日本の家電メーカーが衰退した最大の理由は、中国や韓国のメーカーが機能を絞って低価格な商品を出してきたことにある。今度は日本が逆に低価格EVで実用市場を取りにいくことを考えたらどうだろうか。

確かに、現時点で低価格EVの市場は中国メーカーの独壇場である。2020年に上汽通用五菱汽車が「宏光MINI」という軽自動車サイズのEVを日本円で45万円という価格で発売し、中国国内では一時はテスラを抜いて販売台数1位になった。

宏光MINIは航続距離が120㎞と短く、急速充電に対応していない等の理由で販売は急減したが、今度はBYDが2023年4月にハッチバックタイプの小型EV「SEAGULL」を150万円で発売して大ヒットになっている。この手の低価格EVは中国に勝てないと思う人が多いだろう。

しかし現在、米欧では中国車を締め出す動きが出始めている。米国はIRA(インフレ抑制法)により中国製EVを実質的に排除し、2024年5月から中国製EVに100%の輸入関税を課す。

EUも中国の廉価EVは「政府から不当な補助金を受けている」として2024年7月から高率の追加関税をかけることになった。この状況が続けば日本車にもチャンスがある。

2023年12月、トヨタと資本提携しているスズキがインドで自社開発のSUVタイプのEVを生産し、日本にも輸出をするとともに、トヨタはそのモデルの供給を受け、欧州で「トヨタブランド車」として販売することを検討しているとのニュースがあった。

スズキはインドでシェア4割を占めるナンバー1ブランド(ブランド名:マルチ・スズキ)であり、長年の経験から低価格車づくりの経験値が高い。

トヨタの子会社であるダイハツも含めて、チームトヨタの総力を挙げて「低価格EV」をつくり、中国メーカーが締め出されつつある米国や欧州で販売する戦略は十分にあり得るのではないだろうか。

文/髙田敦史

『トヨタの戦い、日本の未来。』

髙田敦史

『トヨタの戦い、日本の未来。』

2024年10月25日
1980円(税込)
ISBN: 978-4797674545
トヨタが「自動車業界100年に一度の大変革期」に生き残る戦略とは!? 31年間トヨタ自動車に勤務し、商品企画、海外駐在、レクサスなどのブランディング業務に従事した著者は「ハードとしての『EV化』は出発点に過ぎず、本当の勝負は『クルマの知能化』にある!」と分析する。 本書は「トヨタへの大胆かつ具体的な提案」にまで踏み込み、更には日本企業全体のあるべき姿にまで考察を広げた――ビジネスマン必読の書である!
EV市場を牽引してきたのはテスラとBYDである。直近のEV販売は減速しているが、新しい流れであるSDV(Software Defined Vehicle)の登場により自動車は更なる進化をしていくはずだ。トヨタは2022年12月に「2030年までに30車種のEVを投入、年間販売台数350万台を目指す」と発表するとともに、脱炭素化の多様な道(マルチパスウェイ)も維持する独自の戦略を展開している。本書はトヨタの具体的な取り組みと課題について詳細な分析を行っている。 IT企業の存在感が増す中でも、自動車産業は依然として各国の基幹産業である。特に日本は「自動車の一本足打法」とも言われ、中でもトヨタの存在感は群を抜く。トヨタの今後を考えることは多くの日本企業にも様々な示唆を与えてくれるはずだ。 巻末特別付録「次世代自動車キーワード集61」付き! 今後のトヨタと自動車産業の未来、そして多くの日本企業の生き残りを考える上で必読の一冊。

ジャンルで探す