離着陸回数、米国のわずか6%!日本で「ビジネスジェット」がまったく浸透しない、納得の理由とは?

成長続けるビジネスジェット市場

ビジネスジェット(画像:写真AC)

ビジネスジェット(画像:写真AC)

 近年、世界各国でビジネスジェット市場が急速に成長している。特に米国や欧州では、企業が移動効率やプライバシーを重視するようになり、ビジネスジェットの需要が急増している。

 この成長の背景には、企業が従来の商業航空よりも

「柔軟な出張手段」

を求めるようになったことがある。インドの調査会社Fortune Business Insights社によると、2023年の世界のビジネスジェット市場規模は439億7000万米ドルと評価されている。2024年には459億ドル(約6兆7900億円)に達し、2032年までには

「669億7000万ドル(約9兆9100億円)」

に成長すると予想されている。この期間中の年平均成長率は5.4%になる見込みだ。

 北米だけでなく、欧州でも、特にロンドンやパリ、フランクフルトなどのビジネス中心地で需要が高まっている。これらの都市では、迅速な移動手段としてビジネスジェットが注目されている。

 このように、世界各国でビジネスジェット市場は顕著に成長しており、今後もその勢いが続くと考えられる。しかし、日本ではこの成長が他国に比べて緩やかで、注目度も低い。この原因は何だろうか。いくつかの要因に焦点を当ててみよう。

日本における市場の現状

羽田空港へアプローチするビジネスジェット機(画像:写真AC)

羽田空港へアプローチするビジネスジェット機(画像:写真AC)

 日本のビジネスジェット市場は、他国に比べて成長が緩やかで、その背後にはいくつかの要因がある。

まず、国内の

「飛行場インフラの限界」

が挙げられる。ビジネスジェットの離着陸ができる空港は全国的に限られており、特に主要都市である東京や大阪ではビジネスジェット専用のインフラが不十分だ。

 国土交通省のデータによると、2023年のビジネスジェットの離着陸回数は、国内と国際を合わせて年間約2万1000回で、米国の年間約36万回と比べると非常に少ない。わずか

「約6%」

である。さらに、日本のビジネス文化や風習も市場成長の妨げになっている。多くの企業がコストや時間を重視する一方で、ビジネスジェットの利用は一般的ではない。日本では

「公共交通機関が発達」

しており、新幹線や国内航空便の利便性がビジネスジェットの需要を抑えている。また、ビジネスジェットの運用には専門知識と設備が必要なため、企業が導入に慎重になっているのも一因だ。

 加えて、ビジネスジェットの保有や利用に関する規制も市場成長に影響を与えている。日本では

・飛行計画の提出
・運航許可の取得

に多くの手続きが必要で、これがビジネスジェットの迅速な運用を妨げている。このような理由から、日本のビジネスジェット市場は現在、他国に大きく後れを取っているといえる。

市場の成長を妨げる要因

ビジネスジェット(画像:写真AC)

ビジネスジェット(画像:写真AC)

 日本のビジネスジェット市場の成長が遅れている要因のひとつは、税制や規制の厳しさだ。日本ではビジネスジェットの購入や運用にかかる税金や手続きが他国と比べて高額で、年々増加する

・固定資産税
・燃料税

が企業にとって重荷になっている。

 さらに、ビジネスジェットの運用に必要な人材の不足も問題だ。パイロットや整備士の育成が追いついておらず、ビジネスジェットの運用に対応できる体制が整っていないため、市場の成長が阻害されている。ビジネスジェットの運用には高度な専門知識と技術が求められるため、これらの人材を育成するには時間とコストがかかるのだ。

 また、ビジネスジェットに対する社会的な認識も市場の成長を妨げる要因となっている。ビジネスジェットは一部の富裕層や企業の

「特権」

と見なされがちで、一般的なビジネスツールとしての認識が広まっていない。このため、ビジネスジェットの利用が広がりにくい状況が続いている。日本特有の狭い島国という地理的条件も、ビジネスジェット市場の成長を妨げる要因のひとつだと考えられる。

成長の課題と展望

離陸するビジネスジェット(画像:写真AC)

離陸するビジネスジェット(画像:写真AC)

 日本のビジネスジェット市場が成長するためには、いくつかの課題を解決する必要がある。

 まず、飛行場インフラの整備が重要だ。特に、東京や大阪などの主要都市でビジネスジェット専用のターミナルや滑走路を増設することが求められる。これにより、企業がビジネスジェットを効率的に活用できる環境が整う。

 次に、税制や規制の見直しも必要だ。ビジネスジェットの購入や運用にかかるコストを軽減し、企業がより柔軟にビジネスジェットを利用できる環境を整える必要がある。また、人材育成については、政府や航空業界が連携してパイロットや整備士の育成プログラムを充実させることが重要だ。

 さらに、企業や個人の意識改革も求められる。ビジネスジェットは一部の富裕層や特権階級のものと見なされがちだが、一般的なビジネスツールとしての認識を広めることで、ビジネスジェットの利用が促進され、市場の拡大が期待できる。

 また、環境問題への対応も大切な課題だ。ビジネスジェットの運用にともなう二酸化炭素の排出量を削減し、環境に配慮した技術を導入することで、持続可能なビジネスジェット市場の成長が実現するだろう。

 最後に、国際的な競争力の強化も欠かせない。日本のビジネスジェット市場が国際競争に勝ち抜くためには、サービスの質や運用効率の向上が求められる。これにより、日本のビジネスジェット市場が世界的な市場での地位を確立できるだろう。

 これらの課題が解決されれば、日本においてもビジネスジェット市場が成長し、企業の移動効率が向上するはずだ。ビジネスジェットの普及が進めば、企業のグローバル展開が加速し、経済の活性化にも寄与する可能性がある。

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