コミュニティーバス崩壊? 高齢者を救うのはもはや「デマンド交通」しかないのか 問われるその真価とは

崩壊するコミバスの理想

愛知県豊明市で運行中の「チョイソコとよあけ」(画像:平野幸司)

愛知県豊明市で運行中の「チョイソコとよあけ」(画像:平野幸司)

 筆者(西山敏樹、都市工学者)は、先日当媒体で「公共交通政策もはや『骨抜き状態』 コストコ大渋滞問題が暴いた『コミュニティーバス』の虚実! 地域交通の精神は一体どこへ行ったのか」(2024年9月5日配信)という記事を書いた。

 そのなかで、コミュニティーバス(コミバス)の本来の役割として

「住宅街をこまめに回り、交通弱者の外出を支援すること」

を挙げ、日本初のコミバスである武蔵野市のムーバスの事例を説明した。

 しかし、当初の目標は徐々に薄れてきている。武蔵野市の政策をまねし、効率的な小型バスで地域を回ることが優先されるようになり、住宅地など生活エリアに踏み込むという理想が軽視されるようになった。その結果、

「路線バスの代替」

として幹線道路を走るコミバスが増加。行政主導の概念が、路線バスの肩代わりに都合よく使われている現状がある。

 さらに、2024年問題が路線バス事業者に直撃し、運転手不足が深刻な問題となっている。なかには、行政からの委託に応じられない事業者も出てきている。

 このような状況では、コミバスが本来の役割を果たせなくなっており、いわゆる「コミュニティー交通」として機能するかどうかが非常に不安視されている。われわれも今後の動向を注視する必要がある。

 ということで、今回はデマンド交通について書いてみたい。デマンド交通はコミバスの代わりになりうるのだろうか。

デマンド交通の誕生

デマンド交通の運行パターンのイメージ(画像:久喜市)

デマンド交通の運行パターンのイメージ(画像:久喜市)

 デマンド交通は、文字通り利用者の要求(デマンド)に応じて運行する公共交通の一形態だ。パソコンやスマートフォン、電話などで予約をすれば運行されるイメージだ。

 路線バスやコミバスはダイヤが決まっており、それに従って運行しなければならない。道路運送法に抵触しないよう、たとえ利用者がいなくても指定された便を運行しなければならず、そのために終点の手前で車庫に引き返すバスが通報されて、バス事業者が処罰されるニュースも時々見かける。つまり、路線バスやコミバスはダイヤどおりに指定されたルートをきっちり走らなければならない。

 しかし、これでは実質的に無駄が多くなる。要するに、“空気輸送”区間が増えてしまうのだ。この経営的な無駄をなくすために、予約式で必要最低限の効率的な地域輸送を行う目的でデマンド交通が誕生した。

 一般に、バス車両によるデマンド交通はデマンドバス、タクシー車両を使う場合はデマンドタクシーと呼ばれる。法律面では、バスの場合は一般乗り合い旅客自動車運送事業、タクシーの場合は一般乗用旅客自動車運送事業として扱われるが、利用者の視点から見ると乗り合いが基本で、両者の違いを感じることはほとんどない。

 デマンド交通には、バン型や小型バスを用いたオンデマンドバス(運行可能時間内にいつでも時間を指定できる)や、乗り合いタクシーを利用したオンデマンドタクシー(同様に運行可能時間内に指定できる)などがある。定時運行型で予約方式の運行も存在する。デマンド交通の歴史をたどると、1975(昭和50)年の東急コーチにまでさかのぼる。

 デマンドシステムの最大の特徴は、通常ルートと迂回ルートが設定され、迂回ルートにバスを呼び出すコールボックスが設置されていたことだ。その後、携帯電話やスマートフォンでの予約インターフェースが進化し、人工知能(AI)の研究成果が配車の効率化に貢献するようになった。今日、2024年問題が顕在化し、2023年以降はデマンド交通が各地で試験運行され、本運行に移行している。

デマンド交通のメリット

オンデマンド交通と路線バス、タクシーの比較(画像:リブコンサルティング)

オンデマンド交通と路線バス、タクシーの比較(画像:リブコンサルティング)

 デマンド交通のメリットを挙げる。

●柔軟な運行
 デマンド交通の最大のメリットは、ダイヤに縛られない運行が可能な点だ。利用者は、自分の行きたいときに車が来て、行きたい場所まで連れて行ってもらえるため、非常に理想的なシステムといえる。「ドア・ツー・ドア」を実践している。特に、高齢者や障がい者など、バス停に行くことが困難な人々にとって、ラストワンマイル移動の解消に貢献する。

●経営効率の向上
 ダイヤ式のバスでは、大型2種免許を持つ運転手を一定時間確保する必要があり、人件費がかさむ。例えば、車両を3ナンバー以下の小型車にすることで、運転可能な免許保持者が増え、2024年問題への対応や人件費の削減が期待できる。また、パート雇用の可能性も広がる。問題となっている燃料代も抑えることができ、経営効率の面でも効果的だ。

●エコロジーな運行
 路線バスはダイヤどおりに運行するため、排ガスや騒音の問題が生じることがある。コミバスの運行に反対する声のなかには、環境問題を指摘する人も多い。しかし最近では、小型車両を中心にハイブリッド車両や電動車両が一般的になり、静かで環境に配慮した車両が運行されるようになっている。これにより、環境への配慮を求める声にも応えることができるのだ。

残されている課題

デマンド交通について分かりやすく書かれた資料(画像:小林市)

デマンド交通について分かりやすく書かれた資料(画像:小林市)

 次に、デマンド交通に残されている課題を挙げる。

●人手不足
 自動運転技術は進んでいるが、レベル5の完全な実用化にはまだ時間がかかる。研究者のなかには、実用化にはあと20年は必要だと考える人も多い。筆者は最近、岐阜県の北部に位置する高山市の高根エリアでまちづくり協議会が運行するデマンド交通を取材した。この協議会は、地域の運転者を独自に確保する方式を採用しており、高齢者を採用する可能性が高い。しかし、地域をよく知る高齢者や主婦などのパート採用であれば、利用者も安心しやすい。

●予約方式の煩雑さ
 筆者はデマンド交通に関わることが多いが、予約方法の内訳を見ると、通常は半数が電話、残りはスマートフォンやパソコンでの予約となる。電話予約はユーザーにとって簡単だが、オペレーターの人件費がかかる。ここを改善したいと考えている。筆者もスマートフォンでの予約トレーニングに参加したことがあるが、約15分で高齢者でもできるようになる。要するに、“食わず嫌い”が問題なのだ。運行主体者が操作マニュアルを作成し配布したり、トレーニングの場を設けたりする初期の努力が必要だ。

●車両面での課題
 人材確保の問題と重なるが、今後20年間の人手確保をしっかり考えることがデマンド交通の成否を握る。効率的な運行を展開するためには、3ナンバー以下の小型車を利用するのが理想だ。地域タクシー事業者の車両をうまく活用する計画を立てることが重要である。また、多客が見込めるエリア用に最低限のバス車両を確保し、それ以外はできるだけ小さい車で運行することが大切だ。地域の反対を抑えるために、低公害な車両を選ぶことも合意形成において重要である。

経済的かつエコな選択

川崎市のデマンド交通の実証実験(画像:双日)

川崎市のデマンド交通の実証実験(画像:双日)

 デマンド交通には問題や課題がある。しかし、展開において極めて難しい要素があるわけではない。問題・課題の解決に向けたアイデアも、すでに存在している。

・利用者にとっての利便性の高さ
・経済的な非効率の解消
・環境性能の向上

という3点から考えても、デマンド交通はコミバスに代わる手段といえる。エコロジーでバリアフリーな車両の導入を促進し、その導入を政策的に支援することが重要だ。

 バス車両の更新にかかる費用を抑えられることも大きなメリットだ。これからは、重厚で大きなバスの運行をやめて、デジタル技術を活用した小さくて効率的なデマンド交通に切り替えることが重要になる。

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